アーケード版『サスケVSコマンダー』は、1980年10月に新日本企画(後のSNK)から発売された固定画面のシューティングゲームです。開発はトーセが担当しました。当時のシューティングゲームの主流であったSF的な世界観とは一線を画し、日本の戦国時代を舞台に、忍者であるプレイヤーが将軍を守るために敵忍者と戦うという和風のモチーフが大きな特徴です。長らく正式な移植版は存在しませんでしたが、2011年にプレイステーション・ポータブル(PSP)用ソフトに収録され、その後もNintendo SwitchやPlayStation 4向けに「アーケードアーカイブス」として配信されています。プレイヤーは自機「サスケ」を操作し、クナイを投げて空や地上から襲い来る敵の忍者やボスを撃退します。シンプルな操作ながら、後のゲームにも影響を与える革新的な要素を含んでいました。
開発背景や技術的な挑戦
『サスケVSコマンダー』が開発された1980年代初頭は、ビデオゲームが多様化を始めた時期にあたります。多くのシューティングゲームが宇宙やメカニカルなテーマを採用する中で、本作はあえて和風の忍者世界をテーマに選び、ゲームセンターで異彩を放つことに成功しました。この世界観の選択自体が、当時のゲーム市場に対する1つの挑戦だったと言えます。画面表現においては、限られた色数とドット絵で五重塔や送り火など日本の風情ある背景を描き出し、奥行き感や独特の雰囲気を醸し出しています。これは、ハードウェアの制約の中で最大限の視覚効果を生み出すための技術的な工夫の賜物です。また、後のゲームに多大な影響を与えることになる「撃ち返し弾」の概念の走りの1つとされる要素が、本作の特徴的なゲームプレイを形作っています。
当時の技術水準では、複雑な曲線の動きを表現するのは容易ではありませんでした。本作の敵の移動パターンは、縦、横、斜めの直線的な動きが中心であり、同時期の他のゲームと比較するとシンプルな設計になっています。しかし、この単純さを逆手に取り、敵の出現数や移動・敵弾の速度を大胆に高速化することで、ゲームの難易度を高め、プレイヤーに緊張感のある体験を提供しました。単音ながら要所で流れるBGM(ジングル)もキャッチーで、単純なゲーム性の中にプレイヤーを引き込むためのサウンド演出にも力が入れられています。
プレイ体験
プレイヤーが操作する忍者「サスケ」は、画面下部を左右に移動しながらクナイを投げて攻撃を行います。ゲームの目的は、次々と出現する敵の忍者集団を撃破し、将軍を守り抜くことです。敵は様々な編隊で上空から襲来し、その中には手裏剣などの敵弾を放つものもいます。本作のプレイ体験を特徴づけるのが、敵を撃破するとその死体が落下してくるというユニークな仕様です。この死体は敵弾と同様にプレイヤーの移動を妨げる障害物となり、純粋なシューティング要素に加えて、落下物の回避というパズル的な要素を加えています。
さらに、一部の敵は撃ち返し弾のような性質を持ち、敵を倒した瞬間に弾が出現することがあります。この要素が、プレイヤーに対して敵を倒すタイミングや場所を考慮させる戦略性を生み出し、固定画面シューティングながらも奥深いゲーム性を提供しています。ゲームを一定進めると、多彩な忍術を駆使する「親分忍者」との戦いになります。ボス忍者登場時には画面が光るなどの迫力の演出があり、プレイヤーの士気を高めます。また、もしプレイヤーがやられてしまった場合、ボス戦はそこで終了し次のステージへと進むという、当時のゲームとしては潔いゲームデザインも特徴的です。
初期の評価と現在の再評価
『サスケVSコマンダー』は、発売当時、SFが主流だったアーケードゲーム市場において、その和風の世界観と忍者というモチーフの斬新さから、多くのプレイヤーの注目を集めました。そのシンプルな操作性でありながら、敵の死体が落下してくるという独自のシステムや、高速化による難易度の高さが、挑戦しがいのあるゲームとして評価されました。また、単なるシューティングゲームに留まらない、どこかアート的とも評される映像表現と、非情な忍者同士の戦いを描くストイックなゲーム性が、コアなプレイヤーの間で支持を得ました。
現在の再評価においては、「アーケードアーカイブス」シリーズなどで忠実に移植されたことにより、往年のプレイヤーだけでなく、新しい世代のプレイヤーにもその魅力が伝わっています。特に、敵の死体が障害物となるシステムや、撃ち返し弾の概念の源流として、ゲーム史における重要性が改めて認識されています。現代の複雑なゲームデザインとは対照的な、シンプルさゆえの奥深さと、当時の技術で表現された独特の風情が、レトロゲーム愛好家の間で高く評価されています。
他ジャンル・文化への影響
『サスケVSコマンダー』は、その後のビデオゲーム、特にシューティングゲームの発展に間接的ながらも重要な影響を与えました。特に、敵を倒した後の残骸が障害物となるというシステムは、後のゲームにおける撃ち返し弾や複雑な障害物の概念の先駆けの1つと見なされています。敵を撃破した際の残骸が、単なるエフェクトではなく、プレイヤーの行動を制限する要素として機能するアイデアは、ゲームデザインの幅を広げました。
また、SF一辺倒だった当時の市場に和風の世界観を持ち込んだ点も、文化的な影響として無視できません。本作以降、日本の歴史や文化をモチーフにしたゲームが増加する流れの一端を担ったと言えます。忍者のキャラクターデザインや、背景に描かれた五重塔や送り火といった日本の風景は、海外のプレイヤーにとっても新鮮であり、日本文化をビデオゲームを通じて世界に紹介する役割も果たしました。その後のSNKの作品群にも、和風のモチーフやキャラクターが登場することがあり、本作がその源流の1つであった可能性も考えられます。
リメイクでの進化
『サスケVSコマンダー』は、登場から約30年の時を経て、プレイステーション・ポータブル用の『SNKアーケードクラシックスゼロ』に正式に収録されました。さらに、2020年にはNintendo SwitchやPlayStation 4向けに「アーケードアーカイブス」シリーズとして忠実に移植されました。この移植版は、単なるゲームの再現に留まらず、現代的な機能が付加されたことで、新たな進化を遂げています。アーケードアーカイブス版では、当時の筐体の雰囲気を再現するための様々な画面設定や、ゲームの難易度などを細かく変更できるオプションメニューが用意されています。
特に重要な進化点は、オンラインランキング機能の搭載です。これにより、世界中のプレイヤーとハイスコアを競い合うことが可能になり、当時のアーケードゲームが持っていた競争の熱狂が、時代を超えて再現されました。また、当時のブラウン管テレビの雰囲気を再現できる機能は、レトロゲームの風情を大切にするプレイヤーにとって大きな魅力となっています。移植版は、オリジナルのゲーム性を忠実に再現しつつ、現代のプレイヤーがより快適に、そしてより深く楽しむための機能を追加することで、本作の魅力を再構築しました。
特別な存在である理由
『サスケVSコマンダー』がビデオゲーム史において特別な存在である理由は、その革新性と独自性にあります。SFが主流の時代に和風の忍者世界を勇敢に選び、そのシンプルなグラフィックの中に日本の美しい風情を描き出した点は、ゲームの多様性を広げる上で重要な1歩となりました。さらに、敵の死体が落下し、プレイヤーの障害物となるというユニークなシステムは、後のゲームデザインに影響を与えた独創的なアイデアです。
このゲームは、後のSNKの豊かなゲーム開発の歴史の礎の1つとして位置づけられます。後の同社の格闘ゲームやアクションゲームに見られる、個性的なキャラクターや和の要素の萌芽を、本作に見出すことができます。また、シンプルなルールでありながら、敵の高速化や落下物の回避といった要素により、極めて高い難易度を実現しており、当時の硬派なプレイヤーたちを熱中させた挑戦的なゲーム性も、特別な存在感を生み出しています。ただのシューティングゲームではなく、当時の開発者の情熱と技術的な工夫が凝縮された、文化的な価値を持つ作品なのです。
まとめ
アーケード版『サスケVSコマンダー』は、1980年に新日本企画から登場した、和風の世界観が際立つ固定画面のシューティングゲームです。プレイヤーは忍者サスケとなり、将軍を守るために敵忍者と戦います。本作の魅力は、当時の主流から離れた斬新なテーマ設定と、敵の死体が落下して障害物となるというユニークなシステムに集約されます。この落下死体のシステムは、後のゲームデザインに影響を与えた革新的な要素であり、また、極限まで高められたゲームの難易度は、プレイヤーに挑戦の喜びを与えました。プレイステーション・ポータブルやNintendo Switch、PlayStation 4などのプラットフォームに移植され、その歴史的な価値とシンプルながら奥深いゲーム性が再認識されています。本作は、SNKの初期作品群の中でも特に個性的であり、ビデオゲーム史の一角を彩る珠玉のレトロゲームと言えるでしょう。
©1980 SNK CORPORATION