アーケード版『与作』歌謡曲が彩る素朴なアクション

アーケード版『与作』は、1979年10月に新日本企画(現・SNK)からリリースされた、同社にとって初のオリジナルアクションゲームです。当時のアーケード市場はシューティングゲームが主流でしたが、本作は、北島三郎氏の同名楽曲をモチーフとした素朴で親しみやすいテーマ設定と、固定画面の中で木を伐採しつつ動物の妨害をかわすという独自のアクション性で注目を集めました。後の1981年には、エポック社によって家庭用ゲーム機カセットビジョンに『きこりの与作』のタイトルで移植され、同プラットフォームのローンチタイトルの一つとして広く知られることになります。さらに、携帯ゲーム機ネオジオポケットやネオジオポケットカラーでも、後にアレンジ移植版が収録されるなど、時代を超えて様々な形でプレイヤーに親しまれてきた作品です。

開発背景や技術的な挑戦

新日本企画は『与作』の開発において、既存のヒット作の亜流ではない、全く新しい独自のゲーム体験の創造に挑戦しました。当時のアーケードゲーム市場は『スペースインベーダー』が巻き起こしたブームの渦中にあり、多くのメーカーがそのフォロワー作品を制作する中で、同社がアクションゲームというジャンルに踏み出したことは、大きなチャレンジであったと言えます。技術的な面では、シンプルなドット絵で構成されたキャラクターや背景ながらも、木を伐る動作や動物の動きに個性を出す工夫が凝らされています。特に、木を完全に伐採した後に現れる爽快感や、イノシシ、鳥、ミミズといった動物たちが予測不能な動きでプレイヤーを追い詰めるプログラミングは、当時の技術水準を考えると意欲的な試みでした。後のSNKがアクションゲーム開発で培うノウハウの礎が、この作品に詰まっていると言えるでしょう。

プレイ体験

『与作』の基本的なプレイ体験は、非常にシンプルでありながら中毒性の高いものです。プレイヤーは与作を左右に操作し、木を伐採して得点を稼ぐことが目的です。木を伐る際には、ボタンを連打して斧を振るい続ける必要がありますが、画面上部からは鳥が、地面からはイノシシやミミズが与作めがけて突進してきます。プレイヤーは、これらの敵との接触を避けつつ、絶え間なく斧を振るい、効率よく木を伐採しなければなりません。木を伐り終えると、画面上の動物が一掃され、次のステージへと進むことができます。この「伐採作業」と「敵の回避」という二つの要素のバランスが、ゲームの緊張感を生み出しています。操作は単純ですが、敵の出現パターンや動きを覚え、リスクを最小限に抑えながら効率よく木を伐る戦略性も求められ、一瞬の判断力がスコアを大きく左右します。

初期の評価と現在の再評価

『与作』は、発売当初、そのユニークなモチーフと、シンプルながらも熱中度の高いアクション性で一定の評価を得ました。『スペースインベーダー』系譜のシューティングゲームとは異なる、日本の歌謡曲をテーマにした親しみやすい設定も受け入れられた一因です。当時の市場の中心がシューティングゲームであったため、爆発的な大ヒットとまではいきませんでしたが、その独自のゲーム性は多くのプレイヤーに記憶されました。時を経て現在では、新日本企画がオリジナルタイトルとして初めて手掛けたアクションゲームという歴史的な意義が再認識されています。また、カセットビジョンやネオジオポケットといった家庭用ゲーム機への移植を通じて、その素朴ながらも完成されたゲームデザインが再評価され、レトロゲームファンからは、SNKの原点を示す作品の一つとして語り継がれています。

他ジャンル・文化への影響

『与作』は、その後のビデオゲームの歴史において、特定のジャンルを確立したり、直接的な続編が多く制作されたりした作品ではありませんが、そのユニークな着想は一定の影響を残しています。特に、日本の民謡的なモチーフをビデオゲームに取り入れた先駆け的な存在であり、後に多くのメーカーが日本の文化や歌謡曲を題材にしたゲームを開発する一つのきっかけになった可能性が指摘されます。また、新日本企画がアクションゲームの開発経験を積むための重要なステップとなり、後の『オズマウォーズ』や『サスケVSコマンダー』といった独自のアイデアを持つアクションゲーム群へと繋がっていきました。家庭用ゲーム機、特にカセットビジョン版の『きこりの与作』を通じて、多くの人々に与作というキャラクターが知られるきっかけを作り、ゲーム文化の一端を担ったと言えます。

リメイクでの進化

『与作』は、アーケード版の登場後、主に家庭用ゲーム機へと移植されました。最も有名なのは、1981年にエポック社から発売されたカセットビジョン版『きこりの与作』です。これは厳密にはリメイクというよりも移植に近い位置づけですが、アーケード版の要素を当時の家庭用機の制約に合わせて再構築することで、独自の進化を遂げています。たとえば、アーケード版では木が3本だったのに対し、カセットビジョン版では2本に減らされ、イノシシを斧で倒す判定がマイルドになるなど、より遊びやすく調整されました。また、ネオジオポケットやネオジオポケットカラー向けにも、携帯機向けに解像度や操作性に合わせて調整されたアレンジ移植版が収録されています。これらの移植版は、オリジナル版の核となる「木を伐るアクションと敵の回避」というゲーム性を守りつつ、それぞれのプラットフォームの特性に合わせた進化を見せ、より広いプレイヤー層に『与作』の魅力を伝えました。

特別な存在である理由

アーケード版『与作』が特別な存在である理由は、それが新日本企画(現・SNK)のオリジナルアクションゲームの原点であるという点に尽きます。当時、同社が他社のヒット作の亜流から脱却し、独自のゲーム開発路線を確立しようとする強い意志が込められた作品です。日本の歌謡曲という珍しい題材を選び、それを固定画面のアクションゲームとして成立させた発想のユニークさも特筆すべき点です。シンプルなゲーム性ながらも、時間制限のようなプレッシャー、イノシシや鳥との攻防、そして木を伐り終えた時の達成感が絶妙に組み合わさっており、ゲームデザインの完成度が高かったことが、後世にまで語り継がれる要因となりました。家庭用への移植版も広く普及し、SNKの歴史を語る上で欠かせない、記念碑的な作品なのです。

まとめ

アーケード版『与作』は、1979年に新日本企画が世に送り出した、後のアクションゲーム開発の基礎を築いた記念碑的な作品です。北島三郎氏の楽曲をモチーフにした親しみやすいテーマ設定と、木を伐るというユニークなアクション性、そして鳥やイノシシといった敵の妨害をかわすシンプルながらも緊張感あふれるゲームプレイが、プレイヤーを熱中させました。アーケード版のリリース後、カセットビジョンやネオジオポケットといったプラットフォームへの移植によってもその魅力は広まりました。この作品の挑戦的な精神と、洗練されたゲームデザインは、日本のビデオゲーム史における一つの確かな足跡であると言えるでしょう。

©1979 新日本企画