アーケード版『トータルバイス』は、1997年1月にコナミから発売されたガンシューティングゲームです。本作は、32ビット次世代機の先駆けとして期待された3DOの次世代チップセット「M2」をアーケード用基板に採用した、当時のコナミの最先端技術が詰め込まれた作品です。プレイヤーは刑事となり、テロリストに占拠された高層ビルや都市を舞台に、愛用の拳銃一丁で敵を制圧していくハードボイルドな世界観が特徴です。実写に近いリアルな質感を追求した3Dグラフィックスと、映画さながらのカメラワーク、そしてコナミが得意とする重厚なサウンドが融合し、臨場感あふれる銃撃戦を楽しむことができます。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発における最大の挑戦は、松下電器(現パナソニック)が主導して開発していた次世代ハードウェア「M2」のポテンシャルをいかに引き出すかという点にありました。M2は家庭用ゲーム機としての発売が中止された悲劇のハードウェアとして知られていますが、コナミはその高い演算能力にいち早く着目し、アーケードゲーム用の基板として採用しました。当時の標準的なアーケード基板と比較しても、M2はポリゴン描画能力やテクスチャの表現力において優れており、それまでのドット絵や簡易的な3DCGでは不可能だった、より緻密でリアルな景観の再現が可能となりました。開発チームは、この新しいハードウェアの性能を限界まで活用し、光の反射や建物のディテール、そして敵キャラクターの滑らかな動きを表現することに心血を注ぎました。また、コナミの名作ガンシューティングであるリーサルエンフォーサーズシリーズの精神的後継作としての側面も持たされており、伝統的なゲーム性と最新技術の融合が図られました。
プレイ体験
プレイヤーが本作を体験する際、まず目を引くのはその圧倒的なスピード感とバイオレンスな演出です。ゲームは固定画面ではなく、プレイヤーの視点が映画のカット割りのようにダイナミックに移動していくレールチェイス方式を採用しており、次々と現れるテロリストを瞬時に撃ち抜く反射神経が求められます。銃の操作は画面外を撃つことでリロードを行うというオーソドックスなスタイルですが、敵の攻撃を受ける直前に表示されるマーカーや、遮蔽物を利用した敵の賢い動きが、単なる的当てではない緊張感を生み出しています。また、ステージ内にあるオブジェクトの多くが破壊可能となっており、ガラスが砕け散る音や壁に弾痕が刻まれる演出が、激しい銃撃戦の最中にいるという没入感を高めています。特に、高層ビル内での近接戦闘からヘリコプターとの対決、さらには市街地での追跡劇へと目まぐるしく変化するシチュエーションは、プレイヤーを最後まで飽きさせない工夫が凝らされています。
初期の評価と現在の再評価
発売当時の評価としては、その美麗なグラフィックスと硬派な世界観が高い関心を集めました。同時期に登場していた他社の3Dガンシューティングと比較しても、映像の質感や演出の重厚さにおいて一線を画しており、アーケードゲームにおける3D表現の進化を象徴する一作として受け入れられました。しかし、難易度が比較的高めに設定されていたことや、使用されていたM2基板の普及率が限定的であったことから、当時は一部の熱心なファンによる支持に留まる傾向もありました。ところが、近年ではレトロゲームのリバイバルブームや、幻のハードウェアとなったM2の歴史的価値が見直される中で、本作に対する再評価が急速に進んでいます。家庭用への移植が一度も行われなかったという希少性も相まって、当時のアーケードでしか味わえなかった純粋なガンシューティングの完成形として、現在も多くのアーケードゲーム愛好家からリスペクトされる存在となっています。
他ジャンル・文化への影響
トータルバイスが提示した「映画的な演出を重視したガンシューティング」というスタイルは、後のアクションゲームやファーストパーソン・シューティング(FPS)における演出技法に少なからず影響を与えました。特に、カメラワークを駆使してプレイヤーの視界を制御し、物語性を感じさせる手法は、現代のシネマティックなゲーム体験の先駆けとも言えます。また、警察や特殊部隊を主人公としたハードボイルドな世界観の構築は、後に続くコナミのポリスアクションゲームの系譜にも受け継がれていきました。さらに、M2基板という特殊なハードウェアを用いた開発経験は、その後のコナミにおけるハードウェア最適化技術の蓄積にも貢献したと考えられます。ゲーム業界全体としても、実写に近いリアリティを追求する流れの中で、本作が示したテクスチャ表現やライティングの工夫は、一つの重要な指標となりました。
リメイクでの進化
本作は、残念ながら現在までに公式なフルリメイクや最新ハードへの移植は実現していません。しかし、もし現代の技術でリメイクが行われるならば、その進化の余地は非常に大きいと言えます。最新のレイトレーシング技術を用いれば、M2時代に目指していた「光と影によるリアルな空間演出」をより完璧な形で再現できるでしょう。また、VR技術との相性も抜群であり、プレイヤーが実際に首を振って周囲を見渡し、遮蔽物に身を隠しながら戦うといった、当時の平面モニターでは実現できなかった究極の没入体験が可能になるはずです。リメイクを望む声は根強く、特にアーケードゲームのアーカイヴ化が進む中で、当時の生々しい銃撃の感覚を現代のデバイスで再現することは、多くのファンにとっての悲願となっています。オリジナルの良さを活かしつつ、4K解像度や高フレームレートへの対応、オンライン協力プレイの実装などが期待されています。
特別な存在である理由
本作が数あるアーケードゲームの中でも特別な存在である理由は、その「数奇な運命」と「妥協のないクオリティ」の両立にあります。幻のハードウェアとなったM2の力を最大限に発揮した稀有な作品であり、その基板がなければ誕生し得なかった独特の質感を持っています。また、90年代後半という、2Dから3Dへとゲームの表現手法が劇的に変化する過渡期において、コナミが培ってきたアクションゲームのノウハウが、新しい技術という器の中で見事に結実した瞬間を切り取った作品でもあります。移植がされていないために、今となっては実機で遊ぶことが極めて困難な「伝説のゲーム」としての側面も、その神格化に拍車をかけています。単なる流行に流されることなく、重厚で硬派なガンアクションを追求し抜いたその姿勢こそが、時代を超えてプレイヤーの記憶に刻まれ続ける理由なのです。
まとめ
トータルバイスは、1997年という激動の時代に登場した、コナミの技術力と情熱が結晶したアーケードガンの傑作です。M2基板が可能にしたリアルな3Dグラフィックスと、映画を凌駕するダイナミックな演出、そしてストイックなまでに磨き上げられたゲーム性は、今なお色褪せることがありません。プレイヤーを過酷な戦場へと誘うその臨場感は、現在のゲームシーンにおいても十分に通用する普遍的な魅力を備えています。移植やリメイクの機会に恵まれない不遇な側面もありますが、それゆえに当時のゲームセンターで本作に対峙した瞬間の衝撃は、代えがたい貴重な体験として語り継がれています。ハードボイルドな刑事ドラマの主人公になりきり、次々と迫り来る危機を銃弾で切り抜ける快感。その純粋な興奮を教えてくれた本作は、アーケードゲーム史に燦然と輝く、孤高の傑作として今後も記憶され続けることでしょう。
©1997 KONAMI