AC版『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』疑似3Dとレバー回転の衝撃

アーケードゲーム版『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』は、バンプレストから1994年3月に稼働した対戦型格闘ゲームです。開発はセガが担当し、当時としては珍しい疑似3Dのバトルフィールドで、人気アニメ『ドラゴンボールZ』のキャラクターたちによる迫力ある空中戦や光線技の攻防を再現しました。操作は4方向レバーと3つのボタンというシンプルな構成ですが、レバーを高速で回転させることで強力な必殺技を発動できるというユニークなシステムが最大の特徴です。プレイヤーは孫悟空やベジータなどを操作し、個性的な技を駆使して戦います。また、本作のために原作者の鳥山明氏がデザインしたオリジナルの最終ボスキャラクター魔人オゾットが登場したことも、大きな話題となりました。

開発背景や技術的な挑戦

本作の開発は、当時のアーケードゲームにおける3D表現への技術的な挑戦という背景がありました。セガが開発を担当し、疑似3Dのフィールドで奥行きのあるバトルを実現することで、従来の2D格闘ゲームでは難しかった、キャラクターが空を飛び、立体的な空間を移動する原作のイメージを再現しようと試みました。特に挑戦的だったのは、レバー回転による必殺技コマンドです。これは、プレイヤーに「気」を溜めて一気に解放するような体感的な操作を提供し、強力な一撃を放つ際の爽快感を高める狙いがありました。元々は集英社のイベント用として4人同時プレイの体感ゲームとして企画されていたものを、より洗練された1対1の対戦格闘ゲームとして再構築したという経緯があり、その過程で独自の操作システムが確立されました。

プレイ体験

『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』のプレイ体験は、スピード感と必殺技の豪快さに満ちたものでした。疑似3Dのバトルフィールドでは、左右だけでなく奥や手前への移動が可能であり、従来の格闘ゲームにはない立体的な駆け引きが生まれました。防御はレバーを上に入れる、回避は左右に入れるといった独自の操作が求められます。最も特徴的なのは、かめはめ波やファイナルフラッシュなどの強力な光線技の発動コマンドです。これらの技は、レバーを素早く何度も回転させるという独特の入力によって発動し、成功すれば相手を一気に追い詰める破壊力を持っていました。このレバー回転操作は、成功した時の達成感と、技の演出の派手さが相まって、プレイヤーに強烈なインパクトを残しました。また、エンディングでは神龍が登場し、プレイヤーキャラクターの願いを叶えるという演出も、ファンには嬉しい要素でした。

初期の評価と現在の再評価

稼働当初、『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』は、疑似3Dという新しい表現と、原作の雰囲気を再現したド派手な演出で注目を集めました。しかし、レバー回転を多用する特殊な操作体系が、従来の格闘ゲームのプレイヤーにとっては異質であり、賛否が分かれる要因ともなりました。また、必殺技の威力が高く、一撃の重みが勝敗を大きく左右するゲームバランスについても議論がありました。現在の再評価においては、本作がアーケードにおけるドラゴンボールZのゲーム化の初期段階で、3D表現と体感的な操作を融合させようとした意欲作であったという点が高く評価されています。短時間で決着がつくハイスピードなゲーム性や、鳥山明氏デザインのオリジナル要素などが、レトロゲームとしてのユニークな価値として再認識されています。

他ジャンル・文化への影響

『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』は、その後のビデオゲームや文化に直接的な大きな影響を与えたというよりは、ドラゴンボールZのゲーム化の歴史において、3D的な表現の可能性を模索した先駆的なタイトルの一つとしての位置づけが重要です。特に、人気アニメIPの格闘ゲーム化において、いかに原作の持つスケール感やスピード感をゲームシステムに落とし込むかという課題に対して、疑似3Dフィールドと体感的な必殺技操作という独自の方法論を提示しました。この実験的な試みは、後のドラゴンボールZを題材とした数多くの格闘ゲームが、3D空間でのバトルへと移行していく流れの土台の一部を形成したと考えられます。また、魔人オゾットの存在は、ゲームオリジナルのキャラクターが原作IPの世界観に深みを与える事例としても記憶されています。

リメイクでの進化

『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』の直接的なリメイクは実現していませんが、もし現代の技術でリメイクされるとすれば、当時の挑戦的な要素を昇華させた形での進化が期待できます。例えば、疑似3Dから最新のグラフィック技術を用いたフル3Dバトルへと進化させることで、原作の空中戦や高速移動をより臨場感あふれるものにできるでしょう。また、レバー回転という独特のコマンドを、現代のコントローラーでも再現しやすい操作性へと調整しつつ、その爽快感を損なわない新しいシステムを導入することが考えられます。魔人オゾットの設定をさらに掘り下げたストーリーモードや、オンライン対戦機能の追加など、現代の格闘ゲームに求められる要素を取り入れることで、往年のファンだけでなく新規プレイヤーにもアピールできるでしょう。

特別な存在である理由

本作が特別な存在である理由は、その時代の革新性と、強力なIPとが組み合わさった特異点にあると言えます。セガの開発による疑似3D表現は、当時の格闘ゲームの固定観念を打ち破ろうとする試みでした。そして何より、レバーを高速で回転させて必殺技を放つという、プレイヤーのフィジカルと一体になった操作感が、他のゲームにはない強烈な個性を生み出しました。この操作は、ドラゴンボールZのキャラクターが力を爆発させる瞬間を、プレイヤー自身が体感できるという意味で、非常に画期的でした。魔人オゾットというオリジナルの魅力的なボスも相まって、『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』は、一時期のアーケードゲームの多様性と創造性を象徴する、記憶に残る作品となっています。

まとめ

アーケードゲーム『ドラゴンボールZ V.R.V.S.』は、1994年に登場した対戦型格闘ゲームとして、疑似3Dの導入とレバー回転コマンドという独自のシステムで、新時代の格闘ゲームの可能性を切り拓きました。開発はセガが担当し、原作の持つスピード感と迫力ある光線技の応酬を、当時の技術で最大限に再現しようと試みました。特にレバー回転による必殺技の発動は、成功時の爽快感が格別であり、本作の代名詞とも言える要素です。現在の視点から見ても、その挑戦的なシステムと、鳥山明氏デザインのオリジナルボスを含む個性的な要素は色褪せず、ドラゴンボールZのゲーム化の歴史において、特異で重要な位置を占める作品として評価されています。

©1994 バンプレスト