AC版『中華大仙』唯一無二の中華風ファンタジー!水墨画の世界を翔ける爽快シューティング

アーケード版『中華大仙』は、1988年7月にタイトーから稼働を開始した業務用ビデオゲームです。開発はホット・ビィが担当しました。本作は、古典文学である西遊記をモチーフにした、独自の中華風ファンタジーの世界を舞台にした横スクロールシューティングゲームです。プレイヤーは孫悟空を彷彿とさせる仙人、マイケル・チェンとなり、筋斗雲に乗って、道士やキョンシーといった中華圏の伝承でおなじみの妖怪たちと戦いを繰り広げます。水墨画のような美しい背景や、中国の伝統音楽を意識したBGMなど、あらゆる要素が「中華」というテーマで統一されており、当時のゲームセンターで多くのプレイヤーを魅了しました。

開発背景や技術的な挑戦

本作が開発された1980年代後半は、シューティングゲームの全盛期であり、その多くがSFやミリタリーをテーマとしていました。その中で『中華大仙』は、西遊記を題材に選んだ点が非常にユニークでした。開発を担当したホット・ビィは、桂林の山水画を思わせる幽玄な山々や、荘厳な仏教寺院といった、中国的な風景をドット絵で見事に表現しています。技術的に革新的なシステムを搭載しているわけではありませんが、中国の伝統音楽で使われる特徴的な音階や、銅鑼の音などを取り入れたBGMは、ゲームの世界観と完璧に調和していました。このように、グラフィックとサウンドの両面から徹底して「中華」の雰囲気を追求した点は、開発チームの大きなこだわりであり挑戦でした。奇想天外でありながらどこか懐かしい中華ファンタジーの世界観は、他のシューティングゲームとの明確な差別化に成功し、本作の大きな魅力となりました。

プレイ体験

プレイヤーは、8方向レバーで主人公のマイケル・チェンを操作し、2つのボタンでショットと法術を使い分けます。ゲームの基本的な流れは、ステージ道中の敵を倒しながら中国大陸を横断するように進み、最後に待ち受けるボスを撃破するというものです。「法術」という名称からも分かるように、本作のサブウェポンは道教の思想がベースにあり、世界観をより深いものにしています。プレイ体験で最も特徴的なのは、多彩なパワーアップシステムです。アイテム「力」を取得することでメインショットが強化され、最大9段階目には敵や地形を貫通する強力な炎龍のショットとなり、画面内の敵を一掃する圧倒的な爽快感を味わえます。各ステージに登場する中ボスを倒すと出現する扉に入ることで、敵を追尾する弾や広範囲に攻撃できるものなど、様々な法術を入手できます。状況に応じて法術を使い分ける戦略性は、プレイヤーに深い没入感を与え、まるで自分が仙人となって術を駆使しているかのような感覚を楽しませてくれます。

初期の評価と現在の再評価

稼働当初、『中華大仙』はゲームセンターで多くのプレイヤーに受け入れられました。その徹底された中華風の世界観と、パワーアップの爽快感が評価され、人気を博しました。その人気は、後に数多くの家庭用ゲーム機へ移植されたことからも伺えます。一方で、当時のゲーム専門メディアの一部からは、ゲームシステム自体に目新しさはなく、オーソドックスなシューティングゲームの域を出ないという見方も存在しました。しかし、時代が流れ、レトロゲームという概念が確立された現代においては、本作の評価はより多角的なものとなっています。特に、他にはない独特のオリエンタルな雰囲気、中国の伝統を感じさせる軽快なBGM、そして愛嬌のある妖怪たちのデザインなどが再評価されています。単なるシューティングゲームとしてだけでなく、中華ファンタジーという一つの作品として強い個性を持っていたことが、稼働から長い年月を経た今もなお、多くのファンに愛され続ける理由と言えるでしょう。

他ジャンル・文化への影響

『中華大仙』が後続のゲームに与えた直接的な影響を明確に挙げることは難しいですが、「中華風シューティング」というジャンルの魅力を広く知らしめた功績は大きいと言えます。本作の成功は、道教や西遊記に代表される東洋的な世界観が、シューティングゲームのテーマとして非常に魅力的であることを証明しました。水墨画風の背景、伝統音楽に基づいたBGM、そしてキョンシーや道士といったキャラクター設定。これらの要素を組み合わせることで、これほどまでに魅力的で一貫性のある世界観を構築できるということを示したのです。直接的なフォロワー作品は多くないかもしれませんが、ファンタジーの世界を舞台にした後年のシューティングゲームにおいて、世界観の表現手法やキャラクターデザインの面で、間接的なインスピレーションを与えた可能性は否定できません。ゲームという文化の中で、多様な世界観を許容する土壌を育む一助となった作品として評価することができます。

リメイクでの進化

『中華大仙』はアーケードで人気を博した後、様々な家庭用ゲーム機に移植されました。これらの移植版は、単にアーケード版を再現するだけでなく、それぞれのハードウェアの特性やプレイヤー層に合わせて調整が加えられています。例えば、PCエンジン版は『極楽! 中華大仙』というタイトルでリリースされ、グラフィックやサウンドが強化されただけでなく、ゲームバランスにも手が加えられ、アーケード版とはまた違ったプレイ感覚で楽しむことができました。一部の移植版では、アーケード版にはなかった新たなステージや、2周目以降のプレイといった追加要素が盛り込まれることもありました。これにより、すでにアーケード版をやり込んだプレイヤーも、新鮮な気持ちでゲームに臨むことができました。アーケード版の魅力の核である中華風の世界観を損なうことなく、家庭用ならではの付加価値を追求したこれらの移植は、本作のファン層を拡大させ、作品の寿命をさらに延ばすことに成功したと言えます。

特別な存在である理由

『中華大仙』が、数多く存在するシューティングゲームの中で今なお特別な存在として語り継がれている理由は、その圧倒的なオリジナリティにあります。孫悟空を彷彿とさせる主人公が筋斗雲に乗り、道士や竜といった敵と戦うという、誰もがイメージしやすい中華ファンタジーの骨格を持ちながら、主人公の名前は「マイケル・チェン」であるという絶妙なギャップが、本作に親しみやすさとユーモアを与えています。このユニークな世界観を、中国の伝統音楽の要素を取り入れつつもポップに仕上げられたBGMが、完璧に演出しています。ゲームプレイにおいても、パワーアップを重ねて自機がみるみる強くなり、最終的には炎龍となって敵をなぎ倒していく爽快感は格別です。技術的な革新性やシステムの複雑さではなく、作品全体から醸し出される徹底された中華風の雰囲気と、シンプルながらも奥深いゲーム性。その絶妙なバランスこそが、『中華大仙』を唯一無二の特別な存在たらしめているのです。

まとめ

アーケードゲーム『中華大仙』は、1988年に登場し、その徹底された中華風ファンタジーの世界観で多くのプレイヤーを魅了した横スクロールシューティングです。開発を手掛けたホット・ビィの独創性は、水墨画のようなビジュアル、中国音楽をベースにしたサウンド、そして西遊記や道教から着想を得たキャラクターといった、あらゆる側面に現れています。多彩なパワーアップによる爽快感と、程よい難易度が融合したゲームプレイは、繰り返し挑戦したくなる中毒性を持っていました。数多くの家庭用ゲーム機へ移植されたことからも、その人気の高さが伺えます。稼働から長い年月が経過した現在でも、その唯一無二の魅力は色褪せることなく、レトロゲームファンの間で特別な作品として語り継がれています。『中華大仙』は、シューティングゲームの一つの時代を象徴する、個性に溢れた傑作と言えるでしょう。

©1988 TAITO CORPORATION