アーケード版『クライムシティ』は、1989年10月にタイトーから発売されたベルトスクロールアクションゲームです。開発も同社が手掛けており、80年代後半にゲームセンターを席巻した同ジャンルの作品群の中でも、ユニークな特徴を持つ一作として知られています。プレイヤーは敏腕刑事のトニー・ギブソン、またはレイモンド・ブロディとなり、凶悪犯罪組織の壊滅を目指して戦います。最大の特徴は、多くの同ジャンル作品がパンチやキックといった肉弾戦を主体としていたのに対し、本作では銃撃戦をメインに据えている点です。これにより、他のゲームとは一線を画す、緊張感と戦略性に満ちたプレイ体験が生まれました。また、同社の人気レースゲーム『チェイスH.Q.』の主人公たちが本作にも登場しており、世界観につながりがあることもファンにとっては見逃せない要素です。本作は後に、一部の家庭用ゲーム機にも移植されています。
開発背景や技術的な挑戦
1980年代後半のアーケードゲーム市場は、数多くのベルトスクロールアクションゲームが登場し、まさに群雄割拠の時代でした。各社がこぞって新作を投入する中で、他作品との差別化は開発における至上命題でした。タイトーが『クライムシティ』で打ち出した答えは、当時としては斬新な「銃撃戦」をゲームプレイの中核に置くことでした。従来の作品では、銃器は強力な使い切りアイテムとして登場することがほとんどでしたが、本作では標準装備として無制限に使用できます。ただし、弾数には限りがあり、リロードの動作が必要となるため、プレイヤーは常に残弾数を意識し、戦略的に行動する必要がありました。このシステムは、単なる爽快感の追求だけでなく、ゲームに程よい緊張感と深みを与えることに成功しています。技術的には、当時のスプライト機能を駆使して、リアルな街並みや爆発エフェクト、多彩な敵キャラクターの動きを表現しています。特に、プレイヤーキャラクターのスライディングや、物陰に隠れて攻撃を回避するといったアクションは、後の3Dアクションゲームにも通じる立体的な攻防の概念を2Dグラフィックの中で巧みに表現しており、開発チームの技術的な挑戦が垣間見えます。また、FM音源を駆使して作られたBGMは、ゲームのハードボイルドな雰囲気を大いに盛り上げており、タイトーのサウンドチーム「ZUNTATA」の高い作曲能力を示すものとして、今なお高く評価されています。
プレイ体験
『クライムシティ』のプレイ体験は、他のベルトスクロールアクションゲームとは一味違ったものとなっています。ゲームを開始すると、プレイヤーは二人の刑事のうち一人を選択し、犯罪が蔓延る街へと繰り出します。操作は8方向レバーと2つのボタンで行い、一つは射撃、もう一つはジャンプやスライディングといった特殊アクションに使用します。射撃ボタンを連打することで軽快に銃を撃つことができますが、マガジンが空になるとリロードモーションが入り、その間は無防備になってしまいます。このリロードのタイミングをいかに管理するかが、攻略の重要な鍵となります。敵の攻撃が激しい場面では、スライディングで素早く敵との距離を取ったり、ドラム缶などの遮蔽物に隠れたりしながら、反撃のチャンスを窺う必要があります。ステージは、寂れた裏路地から始まり、貨物列車の上、敵のアジトである高層ビルなど、多彩なロケーションが用意されています。道中には、より強力なサブマシンガンやショットガンといった武器も出現し、これらを拾うことで一時的に戦闘を有利に進めることが可能です。敵キャラクターも、ナイフで切りかかってくるチンピラから、銃火器で武装した兵士、さらには巨大なボスキャラクターまで様々で、プレイヤーを飽きさせません。2人同時プレイでは、互いの死角をカバーし合ったり、一人が敵の注意を引きつけている間にもう一人が攻撃したりといった連携プレイが可能となり、一人でプレイするのとはまた違った楽しさを味わうことができます。全体的な難易度は高めに設定されていますが、何度も挑戦するうちに敵の配置や攻撃パターンを覚え、徐々に上達していく達成感は、当時のアーケードゲームならではの魅力と言えるでしょう。
初期の評価と現在の再評価
発売当時、『クライムシティ』は数多くリリースされたベルトスクロールアクションゲームの中の一作として、専門誌やプレイヤーから一定の評価を得ていました。特に、銃撃戦をメインに据えたゲームシステムは、その独創性が注目されました。当時のゲームセンターには、格闘を主体としたゲームが溢れていたため、銃を撃ちまくる爽快感と、ハードボイルドな世界観は新鮮に映りました。しかし、一方でその高い難易度や、リロードシステムに慣れが必要なことから、プレイヤーを選ぶゲームという側面もありました。爆発的な大ヒットを記録した一部の同ジャンル作品と比較すると、やや玄人好みの作品という位置づけだったと言えるかもしれません。しかし、時代が下り、レトロゲームへの注目が高まるにつれて、『クライムシティ』は再評価の機運が高まっていきます。インターネットの普及により、かつてゲームセンターで本作を遊んだプレイヤーたちが思い出を語り合い、その魅力が再びクローズアップされるようになりました。特に高く評価されているのが、ゲーム全体の雰囲気作りです。刑事ドラマやアクション映画を彷彿とさせるシリアスなストーリー、洗練されたグラフィック、そしてゲームの世界観を見事に表現したBGMは、時代を経ても色褪せることはありません。単純なアクションゲームとしてだけでなく、一つの作品としての完成度の高さが、現在の視点から改めて見直されています。現在では、タイトーがアーケードゲームの黄金期に生み出した隠れた名作として、多くのレトロゲームファンから愛される存在となっています。
他ジャンル・文化への影響
『クライムシティ』が後のゲーム業界に与えた直接的な影響を明確に挙げることは難しいですが、その作風やゲームデザインには、後の作品群にも通じる先進的な要素が散りばめられていました。本作は、80年代に流行した刑事ドラマやアクション映画の雰囲気を色濃く反映しています。プレイヤーが操作する二人の主人公は、法を執行するためには時に荒っぽい手段も厭わないタフな刑事として描かれており、その姿は当時のスクリーンを賑わせたヒーロー像と重なります。このようなハードボイルドな世界観をゲームに落とし込み、成功させたことは、ビデオゲームが単なる子供の遊びではなく、より成熟したエンターテイメントへと進化していく過程の一端を担ったと言えるでしょう。ゲームシステム面では、遮蔽物を利用して銃撃戦を繰り広げるというコンセプトは、後の3Dアクションゲームやサードパーソン・シューティング(TPS)ジャンルで広く採用されるシステムの原型と見ることもできます。ドラム缶の陰に隠れて敵の攻撃をやり過ごし、隙を見て反撃するという攻防は、2Dグラフィックの制約の中で立体的な戦闘を表現しようとした試みであり、非常に画期的でした。また、格闘ではなく銃撃戦をメインとしたアクションゲームというジャンルは、本作以降も形を変えながら数多く生み出されていきます。それらの作品群の源流の一つとして、『クライムシティ』が果たした役割は決して小さくないはずです。本作が示した「銃を撃つ楽しさ」と「戦略性」の融合は、アクションゲームの新たな可能性を切り拓いたと言っても過言ではないでしょう。
リメイクでの進化
『クライムシティ』は長らくアーケードでしか遊ぶことが難しい幻の作品の一つでしたが、発売から時を経て、家庭用ゲーム機でもプレイする機会が提供されました。まず、2007年にプレイステーション2で発売されたオムニバスソフト『タイトーメモリーズII 上巻』に、アーケード版が忠実に移植・収録されました。これにより、多くのファンが家庭で心ゆくまで本作を楽しめるようになり、大変喜ばれました。さらに、2022年にはタイトー自身が発売した卓上サイズのゲーム機「イーグレットツー ミニ」にも収録され、より手軽に本作に触れることが可能になりました。これらの移植版は、グラフィックやゲーム性に大きな変更を加える「リメイク」ではなく、オリジナルのアーケード版の体験を可能な限り再現することに重きを置いたものです。そのため、当時のゲームバランスや雰囲気が損なわれることなく、後世のプレイヤーにもその魅力がストレートに伝わる貴重な機会となっています。もし、この名作が現代の技術で完全なリメイクを遂げるとしたら、さらなる進化が期待されます。例えば、グラフィックのフルHD化はもちろん、オンラインでの協力プレイが実現すれば、かつてゲームセンターで隣のプレイヤーと感じた一体感を、世界中のプレイヤーと共有できるでしょう。原作の魅力を尊重した上で、新たなステージや武器、アレンジBGMなどを追加するのも面白い試みです。多くのファンが、この色褪せない魅力を持つ作品が、新たな形で再び脚光を浴びる日を待ち望んでいます。
特別な存在である理由
『クライムシティ』が、数あるベルトスクロールアクションゲームの中で、今なお特別な存在として語り継がれているのには、いくつかの理由があります。最大の理由は、その徹底した「銃撃戦」へのこだわりにあります。同時代の多くのゲームが、近接戦闘を主軸に置く中で、本作は銃を撃ち、リロードし、遮蔽物に隠れるという、ガンアクションの基本に忠実なゲームプレイを貫きました。このユニークなシステムは、プレイヤーに他のゲームでは味わえない独特の緊張感と戦略的な思考を要求しました。それは単なる模倣ではない、タイトーというメーカーの独創性と挑戦の精神の表れでした。次に挙げられるのが、卓越した世界観の構築です。退廃的な都市を舞台に、二人の刑事が巨大な悪に立ち向かうという物語は、80年代のアクション映画そのものです。キャラクターデザイン、背景グラフィック、そして何よりもゲーム全体を彩るBGMが一体となって、プレイヤーをそのハードボイルドな世界へと深く没入させます。特に、哀愁漂うメインテーマは、ゲーム音楽史に残る名曲として高く評価されています。そして、忘れてはならないのが、適度な難易度がもたらす達成感です。決して簡単なゲームではありませんが、理不尽な難しさではなく、プレイヤーがパターンを学習し、腕前を上げることで着実に先へ進めるように設計されています。この絶妙なゲームバランスが、プレイヤーの挑戦意欲を掻き立て、クリアした時の大きな満足感につながるのです。これらの要素が複合的に絡み合い、『クライムシティ』を単なる佳作ではない、記憶に残る特別な一作へと昇華させているのです。
まとめ
アーケードゲーム『クライムシティ』は、1989年にタイトーが世に送り出した、銃撃戦を主体とする個性的なベルトスクロールアクションゲームです。当時のアーケードゲーム市場の流行であった格闘アクションとは一線を画し、リロードの概念や遮蔽物を利用した戦略的な攻防を取り入れたゲームデザインは、非常に先進的であり、プレイヤーに新鮮な驚きと緊張感あふれるプレイ体験を提供しました。80年代のアクション映画を彷彿とさせるハードボイルドな世界観は、緻密なグラフィックとZUNTATAによる秀逸なBGMによって完璧に表現されており、今なお多くのファンを魅了し続けています。後にプレイステーション2やイーグレットツー ミニへ移植されたことで、その魅力に触れる機会も増えました。本作の独創性と完成度の高さは、アーケードゲームの黄金期を語る上で決して欠かすことのできない、紛れもない名作であると言えるでしょう。もし本作をプレイする機会があれば、ぜひ一度その世界に浸ってみてください。そこには、時代を超えて輝き続ける魅力が詰まっているはずです。
©1989 TAITO CORPORATION

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