PC版『悪女かまきり』は、1983年10月(あるいは1984年1月)にCSKソフトウェアプロダクツ(LOVECOMブランド等)から発売されたアダルトミステリー系アドベンチャーです。対応機種としてはPC-8801が明確に知られており、SR拡張機などでの動作も想定された版が存在します。また、レトロPC美少女ゲーム攻略WikiなどではFM-7の表記も見られます。本作のメディアはカセットテープが基本であり、コマンド入力型アドベンチャーである点が特徴です。映画『悪女かまきり』(主演:五月みどり)をベースとし、プレイヤーは陰謀と愛憎が交錯する物語の謎を解き明かしていきます。
開発背景や技術的な挑戦
本作は、映画を原作にしたアドベンチャーをPC向けに落とし込むという試みの一つでした。当時の8ビットパソコン(PC-8801やFM-7等)は、色数やメモリ、テキスト表示能力、入出力速度など多くの制限を抱えており、開発には相当の創意工夫を要しました。特に、コマンド入力の回数制限を設けることで、単なる試行錯誤の羅列ではなく、思考を要求する設計にした点が工夫のひとつと考えられます。加えて、テキスト処理と簡易的なグラフィック切り替えを兼ねた演出を導入することで、緊張感を演出しようという意図も見られます。こうした設計は、機種ごとの性能差(例えばSR拡張ボードの有無など)を意識した互換性対応も考慮せねばならなかったでしょう。
プレイ体験
プレイヤーはコマンド入力方式(動詞+名詞、日本語かな入力形式)で物語を進めます。各場面では入力できる回数に制限があり、誤った入力や無駄なコマンドが即座に不利を招くこともあります。場面転換や重要な場面では簡易的な線画表示などが挿入される演出もありますが、再描画に伴う処理遅延がプレイに影響を与えることもあったと伝えられています。物語は、主人公(視点人物)が藤村政子らを巡る陰謀、保険金殺人計画、不動産会社社長堂島、保険会社社員島崎らとの駆け引きを追う構成で、恋愛・裏切り・謎解きが複雑に絡みます。また、ある場面にはアクション風の脱出パートもあり、方向キー操作が求められる場面が存在します。ストーリーが映画版を前提としている部分が強く、映画を知っているか否かで理解度が変わるという声もあります。
初期の評価と現在の再評価
発売当初は、コマンド入力の難易度、抽象的な謎解き、映画原作ゆえストーリー理解における敷居の高さなどが評価を分けたようです。一方で、アダルト要素とミステリーを融合させた意欲作という側面も一定の注目を集めたようです。近年では、レトロPCゲーム愛好者やアドベンチャー史研究の文脈で、初期アダルトアドベンチャーの代表例、映画原作ゲームの実験例として再評価されることがあります。ただし、商業的成功や広範な普及という点では、明確な記録は残っておらず、マニア向け作品として語られることが多いです。
他ジャンル・文化への影響
『悪女かまきり』は、アダルト要素と謎解きを組み合わせた初期の試みの一つとして、後続の成人向けアドベンチャーゲーム(エロゲ、サスペンス系AVG等)に対して一定の先例的価値を持ち得ます。また、レトロゲーム文化やアドベンチャーゲーム研究分野では、入力回数制限や演出付き場面転換といった構造面の工夫が語られることがあります。こうした視点からは、技術と制約のあいだで試行錯誤した初期作品として、文化的参照点となる存在です。
リメイクでの進化
公式には、本作の大規模なリメイクや他機種への移植が確認されていません。情報源には、X68000、MSX、PC-98、あるいは家庭用ゲーム機への展開といった記録は見つかりません。現在、プレイされる際は、PC-8801互換機やエミュレータ(PC88エミュレータ)上で動作させるファン環境が主流です。ファンによる非公式改変(文字コード修正や画面表示最適化など)は散見されるものの、あくまでユーザー主導の現状です。将来的にリメイクや移植企画が出れば、原作の意図を生かした演出の拡張や操作性改善が期待されるでしょう。
特別な存在である理由
本作が特別視される理由は複合的です。まず、映画原作という重みあるモチーフを、当時のハード性能下でアドベンチャーゲームに落とし込もうとした大胆さが挙げられます。次に、入力回数制限などの制約ルールを組み込むことで、単なる操作の羅列ではなく選択の取捨選択を重視させたゲーム設計が興味深い点です。加えて、ドラマ性・サスペンス性を維持しつつ、演出要素も可能な限り盛り込もうとした設計姿勢が目を引きます。そして、商業的な成功よりもマニアックな文脈で語り継がれてきた点も、象徴性を強めています。そのような特異性ゆえに、レトロPCゲーム研究やノスタルジー層にとっては、単なる遊び作品以上の読みどころを持つ存在となっています。
まとめ
PC版『悪女かまきり』は、主にPC-8801(SR拡張含む)を対象としたアドベンチャーゲームであり、FM-7でも扱われたとの記録もありますが、他機種への公式展開は確認されていません。映画原作という重みある題材を、コマンド入力型、入力回数制限、演出付き場面転換などの技術的工夫を通じてアドベンチャー化した意欲作です。初期の難易度や操作感には賛否があったものの、現在ではレトロゲーム愛好家やアドベンチャー史愛好者から再評価がなされており、制約のなかで表現を追求した例として読み応えがあります。リメイクがなされていない今、エミュレータやファン改変版で遊ぶしかない現状ですが、それゆえに伝説の実験作としての魅力も保たれていると言えるでしょう。
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