アーケード版『ウエスタンエクスプレス』は、1986年1月にデータイーストから発売されたアクションゲームです。アメリカの西部開拓時代を舞台としており、プレイヤーは列車強盗となって、走る列車を襲撃し、金品を強奪することを目的とします。列車の上での1対1の格闘戦パートと、馬に乗りながら列車と並走して銃撃戦を行うパートの2種類でゲームが構成されているのが大きな特徴です。特に列車上でのアクションでは、パンチとキックを駆使して敵を倒し、制限時間内に次の車両へと進んでいく必要があります。データイースト作品の中でも、その派手なシチュエーションと比較的抑えめの難易度で、当時のゲームセンターにおいて一定の存在感を示しました。
開発背景や技術的な挑戦
『ウエスタンエクスプレス』は、1986年の稼働当時のアクションゲームの流行を取り入れつつ、独自のアイデアを融合させた作品として誕生しました。開発は同社の別作品『強行突破』と同じチームが担当したと言われています。列車上での1対1の格闘パートは、アイレムの『スパルタンX』のような要素を参考にしつつ、ブローダーバンドの『カラテカ』に見られるような、体力バーを敵と共有するシステムに改良を加えた、ユニークな戦闘システムを採用しています。これは、攻撃を加えることでバーが満たされ、敵を倒せるという仕組みで、当時のゲームとしては革新的な試みでした。技術的には、2つの異なるゲームパートをスムーズに切り替える演出や、横スクロールアクションの描写、そして西部劇の雰囲気を表現するためのグラフィックと音源チップ(YM2203、YM3526)の使用が、当時のアーケード基板における挑戦であったと考えられます。特に、背景のスクロール速度と、その上にいるプレイヤーや敵の動きを違和感なく同期させる処理は、当時の技術的な見どころの1つと言えます。
プレイ体験
プレイヤーはエクスプレス・レイダーを操作し、列車強盗としてミッションを進めます。主なプレイ体験は、列車上での格闘と、馬上での銃撃戦に分かれます。格闘パートでは、パンチとキックを使い分け、素早く敵を倒す必要がありますが、このシステムがプレイヤーに独特の駆け引きを要求します。敵を倒すための体力バーは敵と共有であるため、ただ攻撃を連打するだけではなく、敵の攻撃をかわしながら効率的に自分の攻撃を当てるタイミングを見極める必要があります。また、列車上に現れる障害物をしゃがんで避けたり、次の車両へ爆弾が爆発する前に飛び移るスリルも、ゲームプレイを盛り上げます。一方、馬に乗っての銃撃戦パートでは、敵の弾をダッキングで避けながら、次々と現れる敵を銃で倒していきます。ただし、民間人を誤って撃つとミスになるため、精密な操作が求められます。この2つの異なるゲームプレイが交互に現れることで、プレイヤーは西部劇のヒーロー(またはアンチヒーロー)になったかのような、変化に富んだエキサイティングな体験を得ることができます。
初期の評価と現在の再評価
『ウエスタンエクスプレス』は、1986年の稼働当初、その斬新な設定と2部構成のゲームプレイが注目を集めました。当時のアクションゲームの中でも、西部劇というテーマは比較的珍しく、映画のようなシチュエーションで遊べる点が評価されました。特に難易度は、同時期のデータイースト作品の中では比較的に抑えめとされており、幅広いプレイヤーに受け入れられやすい側面がありました。メディアでの評価では、そのユニークなゲームシステムや爽快なアクション性が取り上げられました。現在の再評価としては、レトロゲーム愛好家の間で、データイースト黄金期の1作として語り継がれています。特に、後の格闘ゲームにも通じる1対1の対決要素をアクションゲームに取り入れた先駆的な試みや、テンポの良いゲーム展開が再評価されています。また、2つの異なるゲームパートを持つことによる飽きさせない構成も、現代のプレイヤーから見ても新鮮に映る要素です。
他ジャンル・文化への影響
『ウエスタンエクスプレス』は、その後のビデオゲーム史において、直接的な大きな影響を与えたタイトルとして語られることは少ないものの、そのユニークなゲーム構成とシステムは、後続のゲーム開発者たちに間接的なインスピレーションを与えた可能性があります。特に、1つのゲーム内でジャンルの異なる2つのプレイパートを交互に展開するというアイデアは、後のアクションゲームやアドベンチャーゲームにおけるステージ構成やゲームデザインの多様化に影響を与えたと考えられます。西部劇という題材も、後の時代に多数の西部劇をテーマにしたゲームが登場する際の土壌を耕しました。また、データイーストというメーカーの個性的なラインナップの1つとして、同社のファンやレトロゲーム文化の形成に貢献しています。この作品の存在は、80年代のアーケードゲームが多様なアイデアと実験的な試みに満ちていたことの証しと言えるでしょう。
リメイクでの進化
アーケード版『ウエスタンエクスプレス』は、現時点では目立った大規模なリメイク作品は確認されていません。しかし、データイーストの他の名作と共に、一部のクラシックゲームコレクションなどに収録されていることがあります。これらの移植や収録版においては、オリジナルのゲーム性を尊重しつつ、現代のハードウェアでの動作を可能にするための調整が行われています。例えば、画面比率の調整や、現代のコントローラーに合わせた操作方法の再設定などがそれに当たります。もし将来的に本格的なリメイクが実現するとすれば、当時の2部構成のゲームプレイを保持しつつ、グラフィックの刷新や、ネットワーク機能によるランキングの導入、新たなステージや敵の追加など、現代の技術を活かした進化が期待されます。特に、列車上での格闘の駆け引きを、より緻密なアニメーションと物理演算で表現できるようになれば、新たな面白さが生まれるでしょう。
特別な存在である理由
『ウエスタンエクスプレス』が特別な存在である理由は、1980年代のアーケードゲームにおける実験的なゲームデザインを体現している点にあります。西部劇というテーマ設定のユニークさ、そして何よりも、格闘アクションとシューティングアクションという2つの異なるジャンルのゲームプレイをシームレスに1つの作品としてまとめ上げた構成力が、この作品を唯一無二のものとしています。特に、体力バーを敵と共有するという独自の格闘システムは、単なる連打ではなく戦略的なプレイを促すものであり、当時のアクションゲームの中でも際立った個性を持っていました。この作品は、データイーストというメーカーが持っていた、常に新しいアイデアをゲームに取り込もうとするフロンティア精神の象徴でもあり、西部劇の持つ荒々しいロマンと、ビデオゲームの持つ興奮とスリルを融合させた、時代を超えて語り継がれるべきクラシックゲームの1つであると言えます。
まとめ
データイーストから1986年1月にリリースされたアーケード版『ウエスタンエクスプレス』は、西部開拓時代を舞台にした異色のアクションゲームとして、当時のゲームセンターに新風を吹き込みました。列車上でのユニークな格闘システムと、馬上での緊張感あふれる銃撃戦という、2つの異なるゲームパートの融合は、プレイヤーに変化に富んだ刺激的な体験を提供しました。開発チームは、当時の流行を取り入れつつも独自のアイデアを投入し、技術的な挑戦を伴いながらも完成度の高い作品を生み出しました。現在でも、その斬新なゲームデザインと、比較的バランスの取れた難易度から、レトロゲームファンからの評価は根強く、データイーストの歴史を語る上で欠かせない特別な作品であり続けています。
©1986 Data East Corp.

