アーケード版『ディプスボム』は、1978年にセガから発売されたアクションシューティングゲームです。本作は「爆雷(デプスチャージ)」をテーマにした潜水艦攻撃ゲームであり、プレイヤーは画面上部の駆逐艦を操作して、海中を自在に航行する敵の潜水艦を撃沈することを目指します。1970年代後半、セガが数多く手がけていたミリタリー・アクション路線を象徴するタイトルの一つであり、奥行きを感じさせる海中の描写や、爆雷投下という特有のゲーム性が当時のプレイヤーを魅了しました。
開発背景や技術的な挑戦
1978年当時、ビデオゲームの演算処理はCPU制御が一般的になりつつあり、本作もその流れを汲む設計となっています。技術的な挑戦としては、画面内に最大5~6隻同時に出現する潜水艦に対して、それぞれ異なる移動速度と深度(深さ)の概念を持たせた点にあります。深い位置にいる潜水艦ほど、爆雷が届くまでに時間がかかるという「時間の概念」を物理的な距離と連動させて処理するロジックは、当時のハードウェア制約の中では非常に高度な試みでした。また、爆発時の明滅効果や、潜水艦を撃破した際のグラフィックの変化など、限られたドットの中で臨場感を演出するための工夫が随所に凝らされていました。
プレイ体験
プレイヤーに提供される体験は、まさに海上の司令官としての緊張感溢れるものでした。自機である駆逐艦を左右に操作し、2つの投下ボタンを使い分けて爆雷を放ちます。爆雷は投下後、ゆっくりと海中を沈んでいくため、移動する潜水艦の数秒先の位置を予測して投下する「偏差射撃」のスキルが求められました。深い位置にいる潜水艦を仕留めた際ほど高得点が得られるシステムは、プレイヤーにリスクとリターンの選択を迫り、ハイスコアを目指す上での戦略性を生んでいました。敵の魚雷を避けながら正確に爆雷を命中させるプレイは、アーケードゲームらしい爽快感に満ちていました。
初期の評価と現在の再評価
発売当時、そのシンプルながらも奥深いゲーム性と、潜水艦を狩るというミリタリー的なロマンは、多くのプレイヤーに高く評価されました。特に、爆雷が沈んでいく間の「溜め」の演出と、命中した瞬間の達成感のバランスが絶妙であると支持されました。現在では、後の『ディープ・スキャン』などへと続くセガの潜水艦ゲームの系譜における、重要な完成形の一つとして再評価されています。物理的な落下速度を考慮したゲームデザインの先駆例として、レトロゲーム史における資料的価値も非常に高い一作と見なされています。
他ジャンル・文化への影響
本作が後のゲーム文化に与えた影響は、シューティングゲームにおける「重力の概念」や「時間差攻撃」の面白さを定着させた点にあります。この「撃ってから当たるまでのタイムラグを楽しむ」という要素は、後に登場する様々な放物線射撃ゲームや爆撃ゲームの基礎となりました。また、セガはこの成功を足がかりに、海洋アクションというジャンルを自社の得意分野の一つとして確立していきました。海中という、目に見えない脅威を相手にするというゲーム構造は、後のホラーゲームやステルスゲームの心理的ルーツの一つとも言えるでしょう。
リメイクでの進化
『ディプスボム』そのものが直接リメイクされる機会は少ないものの、その精神的後継作として、1980年にリリースされた『ディープ・スキャン』が挙げられます。本作で培われた「爆雷投下」のゲームシステムは、カラー化や演出の強化を経て、より完成度の高いものへと進化を遂げました。現代においても、潜水艦を題材にしたミニゲームやスマホアプリの中に、本作が提示した「深度とタイミング」を重視したルールが散見されるなど、そのDNAは今も形を変えて生き続けています。
特別な存在である理由
本作が特別なのは、ビデオゲームという平面的な世界に「深度(深さ)」という三次元的な駆け引きを本格的に持ち込んだからです。ただ狙って撃つだけでなく、対象がどの深さにいるかを瞬時に判断し、投下のタイミングを計るという行為は、プレイヤーに高度な空間認識を要求しました。セガが「技術のセガ」として、常に新しい知覚体験をゲームに盛り込もうとした情熱が、このモノクロの海中戦には凝縮されています。
まとめ
『ディプスボム』は、1978年のアーケードシーンにおいて、精密なタイミングと予測が鍵となる新しいシューティング体験を提供した傑作です。爆雷が潜水艦に命中するまでのわずかな沈黙と、その後の爆発という一連の流れは、ビデオゲームにおける「緊張と緩和」の美学を見事に体現していました。セガの独創的な開発魂が生んだこの作品は、潜水艦アクションというジャンルの金字塔として、今もなおレトロゲームファンの心に深く沈み、輝き続けています。
©1978 SEGA
