アーケード版『フィグゼイト -地獄の英雄伝説-』は、1992年7月に東亜プランが開発し、タイトーから発売された縦スクロール型のアクションシューティングゲームです。本作は1989年に同社からリリースされた『アウトゾーン』のシステムを継承し、さらに進化させた続編的な立ち位置の作品として知られています。プレイヤーは能力や武器の性能が異なる8人の個性豊かなキャラクターから1人を選択し、人類を滅ぼそうとする異星人の拠点へと乗り込みます。前作が全方位へ移動しながら射撃を行うスタイルであったのに対し、本作ではキャラクターの多様性と多人数同時プレイの導入によって、より戦略的かつ賑やかなゲームプレイを実現しています。SF的な世界観と東亜プランらしい骨太な難易度、そして緻密なドット絵で描かれたグラフィックが特徴的な作品です。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発において最も大きな技術的挑戦は、最大3人までの同時プレイを可能にした点にあります。当時のアーケードゲームにおいて、緻密な弾幕や敵キャラクターの挙動を維持しながら、複数のプレイヤーが同時に画面上で異なる行動をとるシステムを構築することは、基板の処理能力との戦いでもありました。東亜プランは自社の得意とする高い描画技術を駆使し、キャラクターごとに異なる移動速度や攻撃判定を個別に管理しつつ、処理落ちを最小限に抑えることに成功しました。また、前作『アウトゾーン』ではショットの方向転換に独特の操作が必要でしたが、本作ではより直感的な操作感を目指し、複数のボタン操作によって攻撃の固定や切り替えを行うシステムが洗練されました。8人という当時としては異例の多人数から自機を選択できる仕様も、開発チームが各キャラクターの個性を際立たせるためのドットアニメーションとパラメータ調整に膨大な時間を割いた結果であり、プレイヤーに飽きさせない工夫が随所に凝らされています。
プレイ体験
プレイヤーが本作をプレイする際にまず感じるのは、選んだキャラクターによって攻略法が劇的に変化する面白さです。近接攻撃に特化したキャラクターや、広範囲を掃討できるキャラクターなど、性能の差が明確であるため、1人でじっくりと攻略パターンを構築する楽しみだけでなく、複数人で協力して互いの弱点を補い合う楽しみも存在します。ステージ構成は非常に多彩で、荒廃した都市部から異形の生物が蠢く内部施設まで、息つく暇もない展開が続きます。道中で入手できるパワーアップアイテムは、現在の武器を強化するだけでなく、状況に応じて武器の種類を切り替える戦術的な判断をプレイヤーに要求します。敵の攻撃は激しく、画面を埋め尽くすような弾幕や、意表を突く場所から現れるトラップなど、一瞬の油断がミスに繋がる緊張感が常に漂っています。しかし、リトライを繰り返すことで敵の配置を覚え、華麗に弾を避けながら強力なショットで敵をなぎ倒していく快感は、当時のアーケードゲーマーを熱狂させるに十分な魅力を持っていました。また、8人のキャラクターそれぞれに設定されたストーリー性が、プレイに彩りを添えています。
初期の評価と現在の再評価
稼働当時の評価としては、前作『アウトゾーン』の人気があまりに高かったため、その影に隠れてしまう部分もありました。前作よりもポップになったキャラクターデザインや、多人数プレイを前提としたゲームバランスに対して、ストイックなシューティングを好む層からは戸惑いの声もありましたが、一方でキャラクターゲームとしての完成度や、協力プレイの楽しさを評価する声も多く聞かれました。月日が流れた現在では、東亜プランが倒産する直前の円熟期に制作された貴重なアクションシューティングとして、レトロゲームファンの間で極めて高く再評価されています。特に8人という豊富な選択肢と、それぞれに用意されたエンディングや演出の細やかさは、現代の視点で見ても非常に贅沢な作りであると称賛されています。現在ではアーケード実機だけでなく、家庭用ゲーム機への移植や復刻版の発売によって、新しい世代のプレイヤーからもその完成度の高さが認められています。
他ジャンル・文化への影響
本作が後のゲーム文化に与えた影響は、単なるシューティングゲームの枠に留まりません。特に性能の異なる多数のキャラクターから自機を選択するという要素は、後の対戦型格闘ゲームやベルトスクロールアクションにおけるキャラクター選択の多様性に影響を与えたと考えられます。また、東亜プラン特有の重厚なメカニックデザインと生体的な敵デザインが融合した世界観は、後のSFシューティングやサイバーパンク作品におけるビジュアル表現の参考にされることもありました。音楽面においても、独特のメロディアスでありながら疾走感のあるサウンドは、ゲームミュージックというジャンルにおいて高い評価を受け、現在でもアレンジ楽曲が制作されるなど、根強い人気を誇っています。多人数同時プレイというコンセプトも、後のアーケードにおける多人数協力プレイの基盤を形作る一助となりました。
リメイクでの進化
本作は長らく家庭用への移植に恵まれない名作とされてきましたが、近年になってようやく最新ハードウェアへの移植が実現しました。復刻版においては、アーケード版の完全再現はもちろんのこと、現代のプレイヤーに合わせた追加機能が多数搭載されています。例えば、どこでもセーブやロードができる機能や、操作を巻き戻すことができる機能の導入により、高難易度であった本作の攻略がより快適になりました。また、画面の向きを縦画面に変更できるオプションや、当時のブラウン管モニターの質感を再現するフィルター機能など、アーケードの雰囲気を最大限に楽しむための工夫がなされています。さらに、ギャラリーモードでは貴重な開発資料や当時の販促用アートワークが収録されることもあり、単なるゲームの移植を超えて、1つの歴史的資料を保存するような形での進化を遂げています。これにより、かつてのファンだけでなく、本作を初めて知った若いプレイヤーも、その深淵な魅力に触れることが可能になりました。
特別な存在である理由
フィグゼイト -地獄の英雄伝説-が他のシューティングゲームと一線を画し、特別な存在であり続けている理由は、その過剰なまでの情熱にあります。東亜プランが培ってきたシューティングのノウハウを、アクションゲームのフォーマットに惜しみなく投入し、さらに8人ものキャラクターに個別の命を吹き込んだ丁寧な仕事ぶりは、現在の効率を重視する開発体制ではなかなか真似のできないものです。単に敵を撃つだけでなく、キャラクターを動かし、世界観に没入し、仲間と共に困難を乗り越えるという、アーケード体験の原点が凝縮されています。また、東亜プランというメーカーが残した輝きの1つとして、その歴史的価値も相まって、今なお多くのプレイヤーの心に深く刻まれています。この作品に触れることは、日本のゲーム開発が最も熱を帯びていた時代の空気を感じることに他なりません。
まとめ
フィグゼイト -地獄の英雄伝説-は、アーケードゲームの黄金時代を支えた東亜プランの技術力と創造性が結実した傑作です。8人のプレイヤーキャラクターが織りなす多様なアクション、戦略性に富んだ武器システム、そして協力プレイの楽しさは、発売から30年以上が経過した今でも全く色褪せていません。前作からの正統進化を遂げつつ、独自の魅力を切り開いた本作は、高難易度ながらも挑戦するたびに新しい発見がある奥深い作品です。近年、様々な形での復刻が進んだことで、誰でも手軽にこの地獄の英雄伝説に身を投じることができるようになったのは喜ばしいことです。緻密なドット絵が描き出すSF世界を駆け抜け、強大な敵に立ち向かう体験は、時代を超えて多くのプレイヤーに興奮と感動を与え続けるでしょう。東亜プランというメーカーが遺したこの素晴らしい遺産を、ぜひ1度その手で体験してみてください。
©1992 東亜プラン
