アーケード版『撃墜王』は、1985年9月にデータイーストから発売された、3Dシューティングゲームです。開発会社もデータイーストであると考えられています。当時のアーケードゲームとしては非常に珍しい、三人称視点と一人称視点を切り替えながらプレイするフライトシミュレーション要素を取り入れたシューティングゲームであり、プレイヤーは戦闘機を操作して敵機を撃墜していくのが主な目的です。ゼロターゲットシステムと呼ばれる、敵機の動きを予測して照準を合わせる独特のシステムが特徴で、単純な撃ち合いではない、戦略的な空戦の駆け引きが求められました。
開発背景や技術的な挑戦
1980年代中頃、アーケードゲーム市場では『スペースハリアー』などの体感型ゲームが台頭し始めており、データイーストも新しい技術と独自性を追求した作品を模索していました。『撃墜王』は、当時の技術でリアルな三次元的な空戦を表現するという、高い技術的な挑戦を内包していました。この時期のアーケードゲームは、スプライトとラスタースクロールを駆使した擬似3D表現が主流でしたが、『撃墜王』は視点の切り替えと敵機の動きの表現において、より立体的な空間認識をプレイヤーに要求しました。
特に、ゼロターゲットシステムは、敵機の現在位置ではなく、未来の予測位置に照準を合わせるという、従来のシューティングゲームにはない斬新なアプローチでした。これは、実際の空戦における複雑な機動や弾道計算を、ゲームシステムとして落とし込むための開発チームの試行錯誤の結果であると言えます。限られたハードウェア資源の中で、プレイヤーの操作に即座に反応する戦闘機の機動と、多数の敵機を同時に処理する描画を実現することは、当時のエンジニアにとって大きな挑戦でした。
プレイ体験
『撃墜王』のプレイ体験は、従来の固定画面や縦・横スクロールのシューティングとは一線を画すものでした。プレイヤーは、レバーとボタンを操作して戦闘機を操縦しますが、三人称視点(自機を後方から見る)と一人称視点(コックピット視点)を任意に切り替えることが可能です。この視点切り替えは、状況に応じて使い分ける戦略性を生み出しました。
三人称視点では広範囲の状況把握に適しており、敵機との距離や全体的な位置関係を把握しやすくなっています。一方、一人称視点では、より精密な照準操作や、敵機を追い詰める緊迫感を味わうことができます。ゼロターゲットシステムは、敵機の進行方向を予測する円形のマーカーを画面上に表示し、そこに照準が重なるタイミングを見計らって攻撃する必要があり、慣れるまでは難易度が高いものでした。しかし、一度操作に習熟すると、ドッグファイトの駆け引きを存分に楽しめる、奥深く緊張感のある空戦体験がプレイヤーを魅了しました。
初期の評価と現在の再評価
『撃墜王』は、その革新的なシステムと体感的な3D表現により、リリース当初から先駆的な作品として注目を集めました。しかし、ゼロターゲットシステムの難解さや、当時のプレイヤーにとっては馴染みの薄いフライトシミュレーション要素が、一部のプレイヤー層には受け入れられにくい側面もありました。そのため、爆発的な大ヒットとはならなかったものの、硬派なシューティングファンやシミュレーションゲーム愛好者からは高い評価を得ました。
時を経て、現在の再評価においては、本作が後の3Dフライトシューティングゲームに与えた影響の大きさや、当時の技術的な限界に挑戦した意欲作であった点が特に評価されています。特に、視点切り替えの自由度や、予測射撃を導入したシステムは、現代のゲームにおける空戦表現の礎の一つを築いたと見なされています。ゲームアーカイブなどで再収録される機会は少ないものの、アーケードゲーム史における重要な実験作として、その価値が再認識されています。
他ジャンル・文化への影響
『撃墜王』は、直接的にメディアミックス展開を果たすような作品ではありませんでしたが、その革新的なゲームシステムは、後のビデオゲームの「フライトシューティング」というジャンル形成に間接的な影響を与えました。三人称と一人称の視点切り替え、そして敵機の挙動を予測して攻撃するというコンセプトは、後に登場する多くの3D空戦ゲームにおいて、様々な形で応用されることになります。
また、本作が試みた体感的な3D表現への挑戦は、後のデータイーストが手掛ける他の体感ゲームの開発にもフィードバックされたと考えられます。ビデオゲーム文化全体という視点で見ると、『撃墜王』は、「シミュレーション要素」と「アクション性」を融合させるという、当時のゲームデザインの可能性を広げた一作として、技術的な面での貢献があったと言えます。日本のゲームセンター文化において、一時期流行した「リアル系空戦」の流れを形作る、初期の試みの一つとして位置づけられます。
リメイクでの進化
アーケードゲーム『撃墜王』は、リリースから長い年月が経過していますが、現代の家庭用ゲーム機やPC向けに正式なリメイク作品として発売されたという情報は確認できませんでした。そのため、リメイクによるグラフィックやゲームシステムの大幅な進化について、具体的な記述をすることは不可能です。
しかし、もし現代の技術でリメイクされるとしたら、当時のゼロターゲットシステムのコンセプトを継承しつつも、より洗練された操作性と、最新のグラフィック技術によるリアルな雲海や空の表現が期待されるでしょう。また、オンライン対戦機能の追加などにより、当時のプレイヤーが実現できなかった、より大規模で本格的なドッグファイトの体験が実現する可能性も考えられます。
特別な存在である理由
アーケード版『撃墜王』が特別な存在である理由は、当時の技術的な制約の中で、革新的な3D空戦体験を追求した意欲作である点に尽きます。多くのシューティングゲームが2Dの限界を探っていた時代に、本作は三人称と一人称の視点切り替えという、現代の3Dアクションゲームでは当たり前の要素を、いち早くアーケードに持ち込みました。
そして、ただ3Dにしただけでなく、ゼロターゲットシステムという予測射撃の要素を導入することで、単なる反射神経だけでなく、空戦における空間認識能力と戦略性をプレイヤーに要求しました。これは、後の3Dフライトシューティングゲームの基礎を築いた、ゲームデザインにおける重要な一歩であり、その先見性こそが、本作をビデオゲーム史において特別な存在たらしめているのです。商業的な成功とは別の次元で、ゲームの可能性を広げた作品として記憶されています。
まとめ
データイーストが1985年にアーケードでリリースした『撃墜王』は、三人称と一人称の視点を切り替えながらプレイする3Dシューティングゲームの先駆け的な作品です。ゼロターゲットシステムという、敵機の予測位置に照準を合わせる独特のシステムが特徴であり、当時の技術水準でリアルな空戦の駆け引きを表現しようという、開発チームの挑戦的な姿勢が強く感じられます。初期の評価は硬派なファンに支持されるにとどまりましたが、後の3Dフライトシューティングジャンルの発展を予見させる先駆性を持っていたという点で、現代では改めてその価値が見直されています。リメイクはされていませんが、この革新的なシステムと、当時のアーケードゲームが追い求めた体感的な面白さは、今なお多くのゲームファンに語り継がれるべき、ビデオゲーム史の貴重な一ページと言えるでしょう。
©1985 データイースト
