アーケード版『ワイルドファング』巨大な獣と戦う騎乗アクションの源流

ワイルドファング

アーケード版『ワイルドファング』は、1989年7月にテクモからリリースされたベルトスクロールアクションゲームです。プレイヤーは魔界の支配者を倒すために立ち上がった2人の人間「鬼神使い」を操作し、巨大な獣を召喚してその上に乗り、異形の敵が跋扈するダークファンタジーの世界を戦い抜きます。最大の特徴は、主人公である人間自体が戦うのではなく、召喚した獣人(スモークマンやタイガー)に騎乗して戦うという、当時のベルトスクロールアクションゲームとしては斬新なシステムと、残虐な表現とコメディチックな表現が同居する独特の世界観です。

開発背景や技術的な挑戦

1980年代後半、アーケードゲーム市場では『ダブルドラゴン』に代表されるベルトスクロールアクションが全盛期を迎えていました。『ワイルドファング』は、その流行の中でテクモが独自性を追求したタイトルと言えます。技術的な挑戦として、当時のハードウェアで巨大で詳細な獣人のスプライトを描画し、滑らかに動かすことは大きな課題でした。特に、プレイヤーキャラクターが獣に騎乗したり、ドラゴンを召喚したりする際の画面上の情報量と処理負荷は相当なものであったと推測されます。また、敵の首が飛ぶなどの過激な残虐表現と、敵が突然酒を飲んだり頭を掻いたりといったコミカルなモーションを両立させたユニークな表現手法は、当時のゲームデザインにおける新しい試みでした。これにより、単なる暴力描写に留まらない、異様な魅力を持つ世界観の構築に成功しています。

プレイ体験

プレイヤーは「鬼神使い」として、主に召喚した「スモークマン」または「タイガー」に騎乗して戦います。スモークマンは攻撃力が高い打撃で戦い、リーチは短いものの短時間で敵を倒すことが得意です。一方、タイガーは攻撃範囲が広く、リーチに優れます。この「しもべ」を使い分ける戦略性が、本作のプレイ体験を特徴づけています。しかし、敵の攻撃や体力次第では、鬼神使いがしもべから転げ落ち、単身で戦わざるを得なくなることもあります。単身での戦闘は非常に不利な状況となるため、しもべをいかに維持するかが、ステージを進める上での重要なポイントとなります。さらに、一定時間だけ無敵となり強力なレーザーを放てる「ドラゴン」の召喚弾の存在は、危機的な状況を打開する爽快な要素として機能し、プレイに緊張感とカタルシスをもたらしています。

初期の評価と現在の再評価

『ワイルドファング』は、そのユニークなシステムとダークファンタジーな世界観、そして過激なビジュアルにより、リリース当初から一部のプレイヤーに強い印象を残しました。特に、巨大な獣に乗って戦うという斬新なコンセプトは、他の追随を許さないものでした。しかし、残虐表現や独特の操作感から、広く一般受けするまでには至らなかった側面もあります。現在の再評価では、ベルトスクロールアクションの歴史の中で、その異彩を放つ個性的な作品として再び注目されています。単なる力押しではない、しもべの管理や召喚といった戦略的な要素は、今の時代においても新鮮なゲームデザインとして評価されており、特定のレトロゲームファンからはカルト的な人気を博しています。

他ジャンル・文化への影響

『ワイルドファング』が直接的に他ジャンルや文化に与えた影響について、明確な資料を見つけることは困難ですが、本作の持つ「人間が巨大な獣に騎乗して戦う」というコンセプトは、その後の様々なメディアで形を変えて登場する「共闘」「騎乗戦闘」といったテーマの先駆けの1つとして捉えることができます。また、残虐表現とコメディ要素を混ぜ合わせた独特なトーンは、後のゲームや映像作品におけるダークユーモアやブラックコメディの表現に、間接的な影響を与えた可能性も考えられます。テクモというメーカーが持つ、独自性の高いアクションゲームを開発する姿勢を示す1つの例として、開発文化の中にその精神が受け継がれているかもしれません。

リメイクでの進化

アーケード版『ワイルドファング』は、2023年に「アーケードアーカイブス」シリーズとして、Nintendo Switch版およびPlayStation 4版で配信され、現代のプラットフォームに忠実に再現されました。これは厳密には「リメイク」ではありませんが、当時のゲーム体験をそのまま現代に蘇らせるという形で進化を遂げています。アーケードアーカイブス版では、ゲームの難易度などの様々な設定を変更できる機能や、当時のブラウン管テレビの雰囲気を再現するフィルター機能などが追加されています。さらに、オンラインランキングで世界中のプレイヤーとスコアを競うことが可能になり、発売当時の熱狂を再び体験できる環境が整えられました。これにより、過去の名作が新たなプレイヤー層に届き、ゲームとしての寿命を延ばすことに成功しています。

特別な存在である理由

本作が特別な存在である理由は、ベルトスクロールアクションという確立されたジャンルの中で、誰も試みなかった「騎乗戦闘」を核としたシステムを確立した点にあります。主人公である鬼神使い自身ではなく、召喚した獣の能力と体力を管理しながら戦うというデザインは、プレイヤーにこれまでのアクションゲームにはない新たな戦略的思考を要求しました。また、魔界を舞台にしたダークファンタジーな世界観と、過激な表現の中に潜むユーモアのセンスが、他の類似タイトルとは一線を画す強烈な個性を生み出しています。このオリジナリティの高さと、当時のテクモが持つ技術力と挑戦的な精神が結実した作品であるため、今なお多くのゲームファンに記憶されているのです。

まとめ

アーケード版『ワイルドファング』は、1989年にテクモから発売された、ベルトスクロールアクションゲームの歴史において異彩を放つ傑作です。プレイヤーは鬼神使いとして巨大な獣に騎乗して戦うというユニークなシステム、残虐さとユーモアが混在するダークファンタジーな世界観、そして当時の技術的な挑戦が詰まったグラフィックが、本作を特別なものにしています。現在の再評価によって、その独創的なゲームデザインが再認識され、現代のプレイヤーにも愛されるタイトルとして受け継がれています。ベルトスクロールアクションの枠を超えた挑戦的な意欲作として、これからも語り継がれていくことでしょう。

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