AC版『ヴァーテクサー』体感筐体で描く3Dレースの伝説と再評価

アーケード版『ヴァーテクサー』は、1993年6月にタイトーから発売された、3Dポリゴン描写を用いたレースシューティングゲームです。本作は専用の大型筐体であるイディア(IDYA)に対応したタイトルとして開発され、未来的な宇宙空間を舞台にハイスピードなレースと戦闘を同時に楽しむことができます。プレイヤーは高速で移動するマシンを操作し、チェックポイントを通過しながら敵機を撃墜し、コースを走破することを目指します。本作はタイトーが1990年代初頭に積極的に展開していた体感型ゲームの系譜に連なり、当時の最先端技術を結集した意欲的な作品として知られています。

開発背景や技術的な挑戦

本作の開発において最大の挑戦となったのは、当時としては非常に高度な3Dグラフィックスと、それを活かすための専用筐体イディアとの融合でした。本作はバーテックス(頂点)という言葉を由来としており、最高点を目指す者という意味が込められています。技術面では、ポリゴンによる奥行きのある空間表現を滑らかに動かすために、当時のアーケード基板の性能を限界まで引き出す設計がなされました。特に開発チームが注力したのは、単なるレースゲームに終わらせないためのアルゴリズムの構築でした。登場するライバル機には独自の思考ルーチンが搭載されており、プレイヤーに対して執拗に攻撃を仕掛けてくるものや、ひたすらスピードを追求するものなど、個性豊かな挙動を実現しました。また、サウンド面ではタイトーのサウンドチームであるズンタタの河本圭代氏が作曲を担当し、ゲームの世界観を補完する洗練された楽曲が制作されました。視覚、聴覚、そして筐体の揺れによる触覚を一体化させることで、没入感を提供することを目指した開発が進められました。

プレイ体験

プレイヤーが本作で体験するのは、圧倒的なスピード感と激しいドッグファイトが混ざり合った独特のゲーム性です。大型筐体イディアに乗り込み、操縦桿を握ることで、宇宙空間を縦横無尽に駆け巡る感覚を全身で味わうことができます。コース上にはアイテムが出現し、これらを取得することで自機を強化したり、燃料を補給したりすることが可能です。レース中に敵機を破壊することでボーナスを得られるため、速く走る技術と正確に敵を狙い撃つ技術の両方が求められます。また、ライバルキャラクターたちの好戦的な態度は、プレイヤーに常に緊張感を強います。ある機体は並走しながら体当たりを仕掛けてきたり、ある機体は遠距離から執拗に狙撃してきたりと、状況に応じた判断が不可欠です。コース自体も起伏に富んでおり、ポリゴンで描かれたトンネルや宇宙基地の中を時速数百キロメートルで突き進む視覚効果は、当時のプレイヤーに強烈なインパクトを与えました。

初期の評価と現在の再評価

稼働当時の評価は、その先進的なグラフィックスとサウンドに対して非常に高いものでした。しかし、本作を遊ぶために必要な専用筐体イディアが非常に高価であったことや、設置場所を大きく選ぶ大型筐体であったことから、実際に稼働した店舗数は極めて少数にとどまりました。そのため、当時は誰もが気軽に遊べるタイトルではなく、一部の大型アミューズメント施設でのみ体験できる希少なゲームという立ち位置にありました。しかし、月日が流れるにつれて、本作の持つ独自のゲーム性と、ズンタタによる優れた音楽への評価が再び高まっています。現在では、1990年代のアーケードゲーム黄金期を象徴する作品の1つとして数えられており、その希少性から幻のゲームとしてレトロゲームファンの間で語り継がれる存在となっています。エミュレーションが困難な特殊な基板構成や筐体構造も、本作の神秘性を高める要因となっています。

他ジャンル・文化への影響

本作が後のゲーム文化に与えた影響は、その後のレースゲームにおける戦闘要素の導入という形で現れています。スピードを競うだけでなく、攻撃によってライバルを排除するというコンセプトは、後に登場する多くの近未来レースゲームに多大なインスピレーションを与えました。また、本作で見せつけたポリゴンによる立体的なコースレイアウトと、それに合わせたサウンドのシンクロ手法は、演出面においても先駆的な事例となりました。さらに、大型筐体による体感体験の追求は、バーチャルリアリティ技術の先駆けとも言える試みであり、プレイヤーの感覚を拡張しようとするタイトーの姿勢は、現在のアーケードゲームの進化にも繋がっています。ズンタタによるサウンドトラックは、ゲームという枠を超えてテクノやフュージョンといった音楽ジャンルにも影響を及ぼし、リスニングミュージックとしても長く愛され続けています。

リメイクでの進化

本作はその特殊なハードウェア構成から、長らく家庭用ゲーム機への移植やリメイクが実現していませんでした。しかし、近年のレトロゲーム復刻ブームの中で、一部のオムニバス形式のタイトルや、タイトーの歴史を振り返るプロジェクトにおいて、その姿が再び脚光を浴びることがあります。もし現代の技術で完全なリメイクが行われるならば、かつての大型筐体イディアが提供していた振動や傾斜といった体感要素を、最新のVR技術や高機能なコントローラーのフィードバックを通じて再現することが期待されます。高精細な4K解像度で描き直されたポリゴンの宇宙空間や、オリジナルの楽曲を現代風にアレンジしたサウンドによって、当時の開発者が描いた究極の未来レースがより鮮明な形で提示されることでしょう。ファンからは、実機を遊ぶことが叶わなかった世代のためにも、忠実な移植やリブートを望む声が絶えず寄せられています。

特別な存在である理由

本作がビデオゲーム史において特別な存在であり続ける理由は、採算度外視とも思えるほどの技術的野心と芸術性が結実している点にあります。世界中に数十台しか出荷されなかったという逸話や、そのためにごく限られた人しか体験できなかったという排他性が、逆に本作の価値を伝説的なものへと押し上げました。単なるゲームソフトとしてではなく、筐体というハードウェアとソフトウェアが密接に結びついた1つの体験装置としての完成度は、現在のダウンロード配信が主流となった時代では再現が難しい贅沢な作り込みを感じさせます。また、当時のタイトーが持っていた誰も見たことがないものを作るという強い意志が、その画面構成やサウンドの端々に宿っており、遊んだ者の記憶に深く刻まれる強烈な個性を放っています。時代を超えても色褪せないこの独自性こそが、本作を孤高の傑作たらしめているのです。

まとめ

ヴァーテクサーは、1993年という時代において、アーケードゲームの限界に挑んだタイトーの挑戦状とも言える作品でした。ポリゴンによる表現力、イディア筐体による体感、そしてズンタタによる音楽が見事に融合した結果、唯一無二の世界観が構築されました。設置台数の少なさから長らく幻の作品とされてきましたが、その先進的なゲームデザインや芸術的な完成度は、現代においても色褪せることはありません。技術の進歩によってゲームがより身近になった今だからこそ、本作のように五感を刺激するダイナミックな体感型ゲームの価値が再認識されています。プレイヤーに未知の宇宙を走らせ、戦わせるという純粋な興奮を提供した本作は、これからもビデオゲームの歴史の中で輝き続けるでしょう。あの操縦桿から伝わる振動と、耳に残るシンセサイザーの旋律は、いつまでもゲームファンの心の中に伝説として残り続けます。

©1993 TAITO CORPORATION