アーケード版『ベンチャー』は、1981年にエキシディから発売されたアクションアドベンチャーゲームです。本作は、弓矢を武器に持つ主人公の「ウィンキー」を操作し、モンスターが徘徊する複数の部屋で構成されたダンジョンを探索して、隠された秘宝を奪取することが目的となります。当時としては珍しく、広大な全体マップと個別の部屋を行き来する二段構えのゲーム構成を採用しており、ファンタジーの世界観をビデオゲームに持ち込んだ初期の意欲作として、多くのプレイヤーに親しまれました。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発において最大の挑戦は、一つのゲームの中で「探索」と「戦闘」という異なる二つのフェーズを共存させることでした。当時のハードウェア制約の中、エキシディの技術チームは全体マップから各部屋へシームレスに画面が切り替わるシステムを構築し、プレイヤーにダンジョンを冒険している感覚を強く抱かせることに成功しました。また、各部屋に登場するモンスターたちには、ただランダムに動くのではなく、それぞれ異なる行動パターンが設定されていました。技術的には、多数の動体を同時に処理しながら、プレイヤーの射撃に対する当たり判定を精密に行うアルゴリズムが組み込まれており、アクションゲームとしての質の高さを追求していました。
プレイ体験
プレイヤーは、まず迷路のような全体マップを移動し、目的の部屋に入ります。部屋の中には守護モンスターと財宝が配置されており、モンスターの攻撃を避けながら、あるいは弓矢で撃退しながら財宝を回収します。財宝を手に入れると、一定時間経過後に「死神」のような強力な敵が現れてプレイヤーを追い詰めるため、速やかな脱出が求められます。この「侵入・強奪・脱出」という一連のサイクルは、非常に高い緊張感を生み出しました。弓矢の弾数制限はありませんが、モンスターを倒しても一定時間で復活するため、いつ戦い、いつ逃げるかという戦術的な判断がプレイの鍵となります。
初期の評価と現在の再評価
発売当時、本作はその独創的なゲームデザインによって、北米のアーケード市場を中心に高い評価を得ました。単なる反射神経を競うゲームとは異なり、ダンジョンを攻略するという目的意識を持たせた点は、当時のゲーマーにとって非常に新鮮に映りました。現在では、後の「アクションRPG」というジャンルの先駆け的な存在として、歴史的な価値が再評価されています。グラフィックこそシンプルですが、プレイヤーの心理を巧みに操るゲームバランスや、死神に追いかけられる際のスリルは、現代のゲームプレイにおいても色褪せない魅力を持っているとされています。
他ジャンル・文化への影響
本作が後世に与えた影響は大きく、特に「複数の部屋を探索してアイテムを集める」という構造は、後の『ゼルダの伝説』シリーズをはじめとする多くのアクションアドベンチャーやRPGの基礎を築いたと言われています。また、ウィンキーという親しみやすいキャラクター造形や、敵を倒すだけでなく「目的を果たして逃げる」というステルス要素の原型とも取れるゲーム性は、後のゲームクリエイターたちに多大なインスピレーションを与えました。ビデオゲームが単なるスコアアタックから、物語性や世界観を楽しむメディアへと進化する過程で、本作が果たした役割は非常に重要です。
リメイクでの進化
『ベンチャー』は、その人気の高さから、コレコビジョンやアタリ2600といった当時の主要な家庭用ゲーム機へ次々と移植されました。これらの家庭用版では、ハードの制約に合わせてグラフィックや音が調整されましたが、ゲームの本質的な楽しさは損なわれることなく再現されました。近年では、レトロゲームのコンピレーション作品や、スマートフォン向けのアレンジ版などで再びプレイする機会が増えています。現代の技術を用いた再現では、当時の独特な電子音や鮮やかな色彩を忠実にエミュレートしつつ、操作性を向上させることで、新しい世代のプレイヤーにもその面白さが伝えられています。
特別な存在である理由
本作が特別な存在である理由は、ビデオゲームにおける「冒険」の概念を具体化した点にあります。それまでのゲームの多くは宇宙船や車を操作するものでしたが、剣や魔法を想起させる世界でキャラクターを動かし、財宝を探すという体験は、プレイヤーの想像力を強く刺激しました。また、エキシディというメーカーが、社会問題となった『デスレース』のような過激な作風だけでなく、本作のような純粋なファンタジーアドベンチャーにおいても卓越したセンスを発揮できることを証明した記念碑的なタイトルでもあります。
まとめ
『ベンチャー』は、1980年代初頭のアーケードシーンに「ダンジョン探索」という新しい風を吹き込んだ傑作です。シンプルながらも戦略性に富んだゲームシステムは、当時のプレイヤーを熱狂させ、ビデオゲームの可能性を大きく広げました。ウィンキーが奏でる軽快な足音と共に、未知の部屋へ飛び込む時の高揚感は、今なお多くのレトロゲームファンの心に残っています。アクションとアドベンチャーを融合させたその先駆的な試みは、ビデオゲーム史における不朽の功績として、これからも高く評価され続けることでしょう。
©1981 Exidy Inc
