AC版『ストリートファイターEX』3D化と新システムが生んだ傑作

アーケードゲーム版『ストリートファイターEX』は、1996年12月にカプコンから発売された対戦型格闘ゲームです。開発は、ストリートファイターIIの制作に携わった西谷亮氏が設立したアリカが担当しました。本シリーズは、従来のシリーズ作品の2Dドットグラフィックスから一転し、当時の最新技術であった3Dポリゴンを採用したことが最大の特徴です。しかし、ゲームシステムはあくまで2D格闘ゲームの骨格を継承しており、新旧の要素が融合した作品として、格闘ゲームの歴史における重要な過渡期を飾りました。お馴染みのリュウやケンといったカプコンキャラクターに加え、アリカが生み出した個性的なオリジナルキャラクターが多数登場し、新たなストリートファイターの世界を構築しています。

開発背景や技術的な挑戦

『ストリートファイターEX』が開発された1990年代後半は、ゲーム業界全体が3Dグラフィックスへの移行を急速に進めていた時期です。対戦型格闘ゲームにおいても、3Dポリゴンによる表現が主流になりつつあり、この流れの中で、カプコンの看板タイトルであるストリートファイターシリーズも、3D化への挑戦を求められました。開発元のアリカは、ストリートファイターIIの生みの親の一人である西谷亮氏が設立した会社であり、カプコンから許諾を得て、この大きなプロジェクトに挑みました。技術的な最大の挑戦は、3Dのキャラクターモデルを用いながら、従来の2D格闘ゲームが持つ精密な操作感と、一瞬の判断を要求する駆け引きを損なわないようにすることでした。アリカは、奥行きへの移動(軸移動)を極力排除し、あくまで横のラインでの対戦を基本とすることで、従来のプレイヤーが持つスキルや戦術が活かせるバランスを実現しました。また、3Dならではのダイナミックなカメラワークや、必殺技のエフェクト演出は、視覚的な迫力を大幅に向上させました。

プレイ体験

本作のプレイ体験は、従来のストリートファイターシリーズの操作性を基本としつつ、新たなシステムを加えることで、よりアグレッシブなバトルを可能にしています。基本操作は1レバー6ボタンという伝統的なスタイルを継承しており、波動拳や昇龍拳といった必殺技のコマンド入力も馴染み深いものです。特にプレイヤーから評価された新システムの一つが、スーパーコンボ中にさらに別のスーパーコンボでキャンセルできる「スーパーキャンセル」です。これにより、プレイヤーは状況に応じて複数のスーパーコンボを繋げることが可能になり、非常に派手で高威力の連続技を叩き込む爽快感を味わうことができました。また、相手の連続ガードを崩すための手段として「ガードブレイク」が導入され、防御一辺倒の戦術を難しくし、攻防の駆け引きに深みを与えています。3Dグラフィックスによるキャラクターの動きは滑らかで、対戦の臨場感を高めており、新旧のプレイヤーが共に楽しめる環境を提供しました。

初期の評価と現在の再評価

『ストリートファイターEX』は、稼働当初、シリーズ初の3D化という点から、ファンの中には戸惑いの声もありました。従来のシリーズが築き上げてきたドット絵の芸術的な表現とは異なる、ポリゴン特有のビジュアルは、賛否が分かれる要因となりました。しかし、ゲームシステム自体は、スーパーキャンセルやガードブレイクなどの新要素が対戦を盛り上げ、格闘ゲームとしての高い完成度と競技性が、多くのプレイヤーに認められました。結果として、初期の段階からゲームセンターで人気を博しました。現在では、本作はストリートファイターシリーズの歴史において、3D格闘ゲームへの移行を成功させた重要な作品として再評価されています。アリカが生み出した個性的なオリジナルキャラクターたちは、シリーズの多様性を広げた立役者として、今もなお根強い人気を誇ります。その独自のシステムは、後の格闘ゲームにも影響を与えた先駆的な存在として位置づけられています。

他ジャンル・文化への影響

『ストリートファイターEX』が他ジャンルや文化に与えた影響として、最も大きいのは、3Dグラフィックスを本格的に採用しつつ、2D格闘ゲームの根幹を維持するという、後の格闘ゲームの方向性を示す重要なモデルケースとなったことです。本作の成功は、ストリートファイターシリーズのその後の作品、例えばストリートファイターIV以降のシリーズが、3Dモデルを採用しつつも2D的なゲームプレイを追求する礎となりました。また、アリカが本作で生み出した個性豊かなオリジナルキャラクター、例えばサイクロイドやスカロマニアなどは、そのユニークなデザインと設定で強い印象を残し、ゲームキャラクターの多様な表現の可能性を広げました。彼らは、後にアリカのオリジナル格闘ゲームである『ファイティングEXレイヤー』に登場するなど、カプコンの枠を超えた独自のフランチャイズとしての文化を形成しています。

リメイクでの進化

『ストリートファイターEX』シリーズ自体には、直接的なリメイク作品は存在しませんが、開発元であるアリカが手掛けた精神的後継作『ファイティングEXレイヤー』において、その魂が現代の技術で大きく進化しています。この後継作では、オリジナルのEXシリーズのキャラクターたちが再集結し、より洗練されたグラフィックスとシステムでバトルを繰り広げます。特に注目すべき進化は、特定の条件で発動する特殊能力を装備できる「剛気(Gougi)」システムです。これは、プレイヤーの個性を対戦に反映させることを目的とした革新的な要素であり、オリジナルのEXシリーズが持っていた自由度の高いコンボや駆け引きを、さらに戦略的に進化させました。この後継作は、当時のEXファンを喜ばせるだけでなく、現代の格闘ゲームプレイヤーにもアリカ独自の格闘ゲームの魅力を伝える役割を果たしています。

特別な存在である理由

本作が格闘ゲーム界において特別な存在である理由は、**伝統と革新の絶妙なバランス**にあります。長年の歴史を持つストリートファイターという巨大なブランドの3D化という大きな賭けにおいて、開発のアリカは、単にビジュアルを3Dに変えるだけでなく、スーパーキャンセルやガードブレイクといった新しいシステムを導入し、ゲームプレイの深みを増すことに成功しました。この作品は、ストリートファイターの系譜にありながらも、アリカ独自の個性を強く打ち出しており、カプコンとアリカ、2つの才能が交差した奇跡的なタイトルと言えます。新旧のキャラクターが織りなす独特な世界観と、技術的な挑戦を成功させた先駆的な功績により、『ストリートファイターEX』は、対戦格闘ゲームの歴史を語る上で欠かせない、特別な作品として多くのプレイヤーの記憶に残っています。

まとめ

アーケードゲーム『ストリートファイターEX』は、1996年に登場した画期的な対戦型格闘ゲームです。3Dポリゴンという新しい表現手法を導入しつつ、2D格闘ゲームの緻密な操作感と駆け引きの面白さを守り抜いた点が、この作品の最大の功績です。アリカによって生み出されたスーパーキャンセルなどの革新的なシステムは、対戦の戦略性を深め、プレイヤーに新たな興奮をもたらしました。当時のゲームセンターを熱狂させ、シリーズの多様性を広げた本作は、その後の格闘ゲームの進化に大きな影響を与えています。単なる外伝としてではなく、ストリートファイターシリーズの歴史において、そして3D格闘ゲームの黎明期を支えた作品として、その価値は今なお高く評価されています。

©1996 CAPCOM CO., LTD. ARRANGE & PRODUCED BY ARiKA