アーケード版『ファンタズム』は、1991年5月にジャレコから発売された横スクロールアクションゲームです。開発はC.P.Brainが担当しており、海外では「Avenging Spirit」という名称で親しまれています。プレイヤーは、悪の組織に殺害され幽霊となった主人公を操作し、連れ去られた恋人を救い出すために戦います。本作の最大の特徴は、主人公が幽霊である設定を活かした「取り憑き(ポゼッション)」システムにあります。敵キャラクターに乗り移ることで、その敵が持つ固有の攻撃方法や能力をそのまま自分のものとして利用できるという、当時としては非常に画期的なゲームデザインが採用されました。可愛らしいキャラクターデザインとは裏腹に、戦略性の高いアクションを楽しむことができる名作として知られています。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発が行われた1990年代初頭は、アーケードゲーム市場において格闘ゲームが大ブームを巻き起こしつつある時期でしたが、一方でアクションゲームにも新しいアイデアが求められていました。開発チームであるC.P.Brainとジャレコは、従来の「パワーアップアイテムを拾って強化する」という形式ではなく、「敵そのものに成り代わる」という発想をシステムの中核に据えました。技術的な挑戦としては、プレイヤーが操作可能なキャラクターが非常に多岐にわたる点が挙げられます。格闘家、魔法使い、兵士、さらにはロボットや奇妙な生物まで、数十種類に及ぶ敵キャラクターすべてにプレイヤー用の操作割り当てとアニメーションを用意する必要がありました。これらを当時のアーケード基板である「メガシステム1-B」の上で、スムーズな切り替えと共に実現させたことは、開発陣の高度な工夫の賜物と言えるでしょう。
プレイ体験
プレイヤーの旅は、実体のない幽霊の状態から始まります。幽霊のままではエネルギーが刻一刻と減少していくため、速やかに近くの敵に取り憑かなければなりません。取り憑いた後は、そのキャラクターの体力ゲージが尽きるまで操作が可能になりますが、体力がなくなると再び幽霊に戻り、新しい器を探す必要に迫られます。このサイクルが、ゲームプレイに独特の緊張感とスピード感を与えています。ステージの状況に合わせて、遠距離攻撃が得意なキャラクターを選んだり、機動力の高いキャラクターに乗り換えたりといった戦略が重要になります。各ステージの最後には巨大なボスが待ち構えており、どのキャラクターでボス戦に挑むかという選択もプレイヤーの腕の見せ所です。多彩なアクションを一つのタイトルで次々と体験できる点は、本作ならではの贅沢なプレイ体験と言えます。
初期の評価と現在の再評価
稼働開始当初、本作はそのユニークなシステムと親しみやすいグラフィックで注目を集めましたが、派手な演出のゲームが多かった当時のゲームセンターの中では、比較的堅実な良作という立ち位置でした。しかし、家庭用への移植を経て、その完成度の高さがより広く認知されるようになります。特に、状況に応じてキャラクターを使い分けるパズル的な要素と、アクションゲームとしての手触りの良さが両立している点は、時代を問わず高く評価されています。現在では、レトロゲームファンだけでなく、インディーゲーム開発者からも、独創的なゲームシステムの先駆けとしてリスペクトを受ける対象となっています。シンプルながら奥が深く、何度遊んでも新しい発見があるリプレイ性の高さが、長年にわたって愛され続けている理由です。
他ジャンル・文化への影響
『ファンタズム』が提示した「敵の能力を奪う・コピーする」というコンセプトは、後の多くのアクションゲームやRPGに影響を与えました。特に、主人公が固定された能力を持つのではなく、環境に合わせて自身の性能を変化させていくというスタイルは、メタモルフォーゼ(変身)系アクションの一つの完成形として数えられます。また、幽霊を主人公とする物語設定や、どこか切なさを感じさせる世界観は、後のゲームシナリオにおいても類似のモチーフが見られるようになり、キャラクターの死から物語が始まるという導入のバリエーションを広げる一助となりました。ポップな見た目の中にSFやオカルトの要素を混ぜ込んだ独自のデザインセンスも、当時のサブカルチャーの一端を反映したものとして興味深い資料となっています。
リメイクでの進化
本作は、1992年にゲームボーイへ移植されたことで、より多くのプレイヤーにその魅力が伝わりました。携帯機という制約の多い環境ながら、特徴である取り憑きシステムを忠実に再現し、さらに家庭用独自の調整が加えられたことで高い完成度を誇りました。さらに近年では、最新の家庭用ゲーム機向けに当時のアーケード版がそのまま遊べる形で配信されています。これにより、実機でのプレイが困難だった層も手軽に触れられるようになりました。最新の移植版では、どこでもセーブができる機能や、当時の画面の質感を再現するフィルター機能などが搭載されており、クラシックな魅力を保ちつつも、現代のプレイヤーが快適に遊べるよう進化を遂げています。オリジナルの面白さを損なうことなく、新しい技術でその価値が守られ続けているのです。
特別な存在である理由
数多あるアクションゲームの中で、本作が特別な存在として記憶されているのは、プレイヤーの自由度を「キャラクターの選択」という形で極限まで高めたからです。通常、ゲームは製作者が用意したルートや能力に沿って進むものですが、『ファンタズム』では「どの敵として生きるか」をプレイヤー自身が決めることができます。この主客転倒の面白さは、何度プレイしても飽きさせない新鮮さを提供し続けています。また、命を落とした主人公が、愛する人のために魂を燃やして戦い続けるという純粋で力強いストーリーが、プレイヤーの感情を強く揺さぶります。システム的な斬新さと、普遍的な人間ドラマの融合。それが、稼働から30年以上が経過してもなお、色褪せない輝きを放ち続けている理由と言えるでしょう。
まとめ
『ファンタズム』は、幽霊となって敵に乗り移るという独創的なシステムによって、アーケードゲーム史にその名を刻んだ傑作です。ジャレコが得意としたポップで個性的な世界観と、C.P.Brainによる緻密なアクション設計が見事に調和しています。数多くの敵キャラクターを乗り換えながら進む戦略性は、現代の視点で見ても極めて洗練されており、アクションゲームの持つ純粋な楽しさを再確認させてくれます。恋人を救うために奔走する主人公の姿は、プレイヤーに確かな目的意識を与え、クリアした際の達成感はひとしおです。この記事を通じて、かつてゲームセンターで本作に熱中した方も、これから初めて触れる方も、その深い魅力に触れていただければ幸いです。歴史に埋もれさせるにはあまりに惜しい、まさに魂の宿った一作です。
©1991 JALECO