AC版『ジッピーレース』昼夜を駆けたアメリカ横断レースの金字塔

アーケード版『ジッピーレース』は、1983年6月にアイレムから発売されたレースゲームです。本作は、アメリカ大陸の西海岸ロサンゼルスから東海岸のニューヨークまで、バイクで横断レースに挑むという壮大なテーマを持っています。海外では、北米地域を中心にウィリアムス(Williams)社に製造許諾され、『MotoRace USA』として稼働しました。ゲームジャンルは縦スクロールのバイクレースであり、特徴的なのは、市街地、砂漠、雪道、山岳地帯といった変化に富んだステージと、昼と夜で視界が変わるというユニークな要素を取り入れている点です。プレイヤーは一般車両を避けながら燃料を補給し、制限時間内に次のチェックポイントを目指します。

開発背景や技術的な挑戦

1980年代前半のアーケードゲーム業界は、よりリアルで変化に富んだグラフィックと、スピード感あふれるゲームプレイが求められるようになっていました。アイレムは、この『ジッピーレース』において、当時の技術的な制約の中で、いかにアメリカ大陸横断というスケール感を表現するかに挑戦しました。縦スクロールによる擬似的な立体感と、単調になりがちなレースゲームに変化を与えるため、昼夜の概念と、砂漠や雪道といった異なる環境を導入しています。特に昼夜の変化は、画面の色調をガラリと変えることで、プレイヤーに時間経過を強く意識させる効果的な演出でした。また、アメリカの主要都市を模したステージ構成は、プレイヤーに明確なゴールとモチベーションを与え、長距離を走破する達成感を高めるための工夫と言えます。

プレイ体験

本作『ジッピーレース』のプレイ体験は、極めてシンプルながらも中毒性の高いものです。プレイヤーは、上下左右の移動と加速(ターボ)ボタンを駆使し、猛スピードで迫りくる一般車両や障害物を避けていきます。特にゲームの難易度を高めているのは、一般車両の意図的な進路妨害と、頻繁に必要となるガソリンの補給です。ガソリン車を追い抜くことで燃料を補給するというシステムは、単なる障害物回避に終わらせず、攻めと守りのバランスをプレイヤーに要求します。また、ステージが進むにつれて一般車両の動きがよりトリッキーになり、一瞬の判断ミスがクラッシュにつながるため、高い集中力と反射神経が試されます。ロサンゼルスからニューヨークまでの距離を少しずつ進めていく達成感は、当時のプレイヤーにとって大きな魅力でした。

初期の評価と現在の再評価

『ジッピーレース』は、発売当初、そのスピード感とユニークなステージ変化のアイデアにより、ゲーマーから一定の評価を得ました。当時のレースゲームとしては珍しく、景色の変化に富み、長距離を走破するという目標設定が新鮮に受け止められました。しかし、一部のプレイヤーからは、一般車両の動きが理不尽である、難易度が高すぎるといった意見も見られました。現在の再評価においては、本作は1980年代のアーケードレースゲームの歴史を語る上で重要な位置を占めています。特に、後のレースゲームに見られるような環境の変化や目標設定のある長距離レースといった要素を先取りしていた点が再評価されています。レトロゲームとして復刻される際にも、そのシンプルな操作性と、容赦ない難しさが古き良きアーケードゲームの象徴として愛されています。

他ジャンル・文化への影響

『ジッピーレース』は、後のビデオゲームに直接的な影響を与えたというよりも、そのアイデアや構成要素が間接的に後の作品に受け継がれています。特にアメリカ大陸横断というテーマや、ステージによって背景や気候が劇的に変化するというコンセプトは、後の多くのレースゲームやドライブゲームに影響を与えました。また、バイクに乗って長距離を走破するというシチュエーションは、当時のアメリカ文化やロードムービーのイメージを反映しており、ゲームセンターという文化の中で、異国の地への憧れを疑似体験させる役割を果たしました。ゲーム以外の文化、例えば音楽や映画といった分野への明確な影響は見られませんが、1980年代のレトロゲーム文化を形作る要素の一つとして、当時の人々の記憶に残っています。

リメイクでの進化

『ジッピーレース』は、発売から時を経て、様々なプラットフォームで移植や復刻が行われています。特に近年のリメイクやアーケードアーカイブスとしての登場では、当時のゲームプレイを忠実に再現しつつ、現代の環境で楽しめるようになっています。アーケードアーカイブス版などでは、オリジナルの持つ高い難易度はそのままに、スコアランキング機能や、ゲームを途中から再開できるセーブ機能といった、現代のプレイヤーに合わせた利便性が追加されています。グラフィックやサウンドも当時のものを忠実に再現しており、プレイヤーは当時の雰囲気をそのままに、快適に遊ぶことができるようになりました。しかし、本格的なフルリメイクは少なく、オリジナル版の持つシンプルな魅力を尊重した移植が中心となっています。

特別な存在である理由

『ジッピーレース』がビデオゲーム史において特別な存在である理由は、その高いゲーム性と、当時の開発者の意欲的な試みにあります。単なる周回レースではなく、大陸横断という目標を設定したことで、レースゲームにストーリーと長距離を走破する達成感をもたらしました。また、昼夜の変化や多様なステージ環境の導入は、当時の技術的な限界に挑戦した成果であり、後のレースゲームの表現の幅を広げる礎となりました。プレイヤーにとって、本作は理不尽なほどの難しさがある一方で、その困難を乗り越えた時の快感が忘れられないゲーム体験として記憶されています。1980年代のアーケードゲームが持っていた、シンプルながらも奥深いゲームデザインの魅力が凝縮された一作と言えます。

まとめ

アーケード版『ジッピーレース』は、1983年に登場した縦スクロールのバイクレースゲームであり、アメリカ大陸横断という壮大なテーマと、昼夜の変化や多様なステージといった意欲的な要素で、当時のプレイヤーを熱狂させました。理不尽とも言える一般車両の妨害と、燃料補給の必要性により、難易度は高いものの、シンプルな操作性の中に奥深い戦略性が隠されています。本作は、現代のゲームでは当たり前となった環境の変化や目標設定のある長距離レースといった要素を先駆的に取り入れた作品として、今なお多くのレトロゲームファンに愛され続けています。その熱狂的なスピード感と、一筋縄ではいかないゲームデザインは、1980年代のアーケードゲーム文化を象徴する、色褪せない魅力を持っています。

©1983 IREM/Williams