アーケード版『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』は、1989年4月にアイレムから発売された横スクロールアクションシューティングゲームです。開発もアイレムが担当しており、当時のアーケードゲームとしては珍しく、一部の女性スタッフのみで開発されたことでも話題となりました。主人公の魔法使いの弟子「トンマ」が、魔物にさらわれたお姫様を救うために魔界を冒険するというファンタジーを題材としています。プレイヤーはショットとジャンプを駆使し、全7ステージを攻略していきます。可愛らしいキャラクターデザインと、当時のアイレム作品らしい硬派な高難度なゲーム性が特徴的です。
開発背景や技術的な挑戦
当時のアイレムは、『R-TYPE』や『最後の忍道』といった、独自のシステムや世界観を持つ人気作を多数生み出していました。その中で、『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』は、同社のアクションゲームとしては比較的オーソドックスなスタイルを取りつつ、独自の操作感覚と魔法のパワーアップシステムを取り入れることで差別化を図っています。本作はアイレムの「M-72システム」基板上で動作しており、当時の技術水準を活かしたスムーズな横スクロールと、個性豊かな敵キャラクターの表現が実現されています。また、開発チームの一部が女性スタッフで構成されていたという点は、当時のアーケード業界では異例であり、ゲームの可愛らしいビジュアルやコミカルな演出にも影響を与えていると考えられます。
プレイ体験
プレイヤーは、メインショットとサブショットを同時に発射できるトンマを操作します。ジャンプボタンを押す長さでジャンプの高さが変わる他、ジャンプ中にレバーを上方向に入れることで落下速度を遅くし、滞空時間を伸ばすことができるのが大きな特徴です。この独特の操作感は、慣れるまでに時間を要しますが、マスターすることで細かな位置調整や、敵の攻撃の回避に役立ちます。さらに、一部の敵キャラクターの頭を踏み台にして、通常よりも遥かに高い特大ジャンプが可能であり、これを活かしたステージのショートカットや隠されたアイテムの発見など、テクニカルなプレイ要素が盛り込まれています。
ゲームの難易度は非常に高く、多くのアイレム作品と同様に即死制が採用されています。敵や敵の攻撃に一度でも触れるとミスとなり残機を失います。制限時間が設けられているステージもあり、プレイヤーには素早い判断と正確な操作が求められます。ステージ途中には、バリアや誘導弾、地這弾といった様々な魔法のアイテムが出現し、これらを獲得することで一時的にパワーアップすることができます。これらのパワーアップをいかに維持するかが、ステージ攻略の鍵となります。
初期の評価と現在の再評価
『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』は、その見た目のコミカルさとは裏腹に、極めてシビアで硬派なゲームデザインにより、発売当初から一部の熱心なアクションゲームファンから高い評価を得ていました。特に、先述のジャンプの滞空時間のコントロールや敵の頭を踏み台にするアクションといった、プレイヤーのスキルがそのまま攻略の幅に直結するシステムは、ゲーマーの間で挑戦しがいのある要素として受け止められました。しかし、その高難度さから、一般のプレイヤー層にとっては敷居が高いと感じられる側面もありました。
時を経て、レトロゲームの再評価が進む中で、本作はその独自の操作性と高いアクション性により、再び注目を集めています。特に、アイレムらしさが色濃く出た作品として、同社のファンやレトロゲーム愛好家から再評価され、バーチャルコンソールなどでの移植版もリリースされています。見た目の楽しさと、本質的なゲームプレイの硬派さとのギャップが、本作の魅力として再認識されていると言えるでしょう。
他ジャンル・文化への影響
本作は、同社の『R-TYPE』や『最後の忍道』のような、直接的に後続作品のシステムに大きな影響を与えるほどの記念碑的な作品として語られることは少ないかもしれません。しかし、その可愛らしいキャラクターデザインと、ハードなゲームプレイとのコントラストは、後のアクションゲームにおける「見た目と内容のギャップ」という点において、1つの事例として存在する価値があります。また、女性スタッフが中心となって開発されたという背景は、ゲーム開発における多様性という視点から、文化的なトピックとして語り継がれています。
主人公トンマのキャラクターグッズ化や、他作品へのゲスト出演といった直接的な文化への影響は大きくありませんが、レトロゲーム文化が根付いた現代においては、その「知る人ぞ知る名作」としての地位を確立しており、特定のファン層に強く支持され続けています。このカルト的な人気が、レトロゲームを語る上での重要なピースとなっています。
リメイクでの進化
『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』は、アーケード版の稼働後にPCエンジン版が発売されました。このPCエンジンへの移植版は、概ねアーケード版のゲーム性を忠実に再現しつつ、家庭用への移植にあたって、時間制限の撤廃やしゃがみ動作の追加など、一部の仕様変更が行われ、オリジナル版よりも若干難易度が下げられています。これらの変更は、より多くのプレイヤーが楽しめるようにするための配慮であり、移植にあたっての進化と言えるでしょう。また、Wii UのバーチャルコンソールでもPCエンジン版が配信されており、現代のプレイヤーも手軽に遊べる環境が提供されました。
しかし、グラフィックやシステムを大幅に刷新した、現代的な意味でのフルリメイク作品は、これまでのところ発表されていません。もしリメイクされるならば、独自のジャンプシステムや魔法のパワーアップ要素を活かしつつ、グラフィックの強化や、初心者向けの難易度調整などが期待されます。
特別な存在である理由
『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』が特別な存在である理由は、アイレムという硬派なメーカーが世に送り出した、「キュートな外見と、極めてシビアなゲーム性」という二面性を持っている点にあります。主人公トンマのコミカルな仕草や、ミスをした際にマントが空中に舞う演出など、随所にユーモラスな要素が散りばめられています。それにも関わらず、プレイヤーに一瞬の油断も許さない緊張感あふれるゲームプレイを要求するという、このギャップが強烈な個性を生み出しています。また、開発チームの1員が女性スタッフであったという点も、当時のゲーム業界においては特筆すべき事項であり、作品に独自の色彩を与える1因となっています。
まとめ
アーケード版『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』は、1989年にアイレムから登場した、ユニークな横スクロールアクションシューティングゲームです。可愛らしい主人公と、見た目からは想像できないほどの高難度なゲームプレイが特徴で、ジャンプ中の滞空時間調整や、敵の頭を踏み台にするなどの独自の操作テクニックが求められます。このギャップと、魔法による多彩なパワーアップ、そしてアイレムらしい硬派なゲームデザインが融合し、一部のコアなアクションゲームファンから熱狂的に支持される特別な1作となりました。現代においても、その独自の魅力は色褪せておらず、レトロゲームファンから愛され続けています。
©1989 IREM CORP.