AC版『ハル21』貫通弾と地上攻撃の先駆者

アーケード版『ハル21』は、1985年に新日本企画(後のSNK)から発売された縦スクロールのシューティングゲームです。地上と空中の敵を撃ち分ける独特のゲームシステムを持ち、同社の『オメガファイター』や『アテナ』に先駆けて登場した意欲作として知られています。プレイヤーは戦闘機HAL 21を操作し、未来の地球を舞台に襲い来る敵を破壊していきます。単なる撃ち合いだけでなく、地上物に対する攻撃サイト(照準)の操作や、特定のアイテムを集めることで一定時間強力な無敵・貫通弾の状態になれるパワーアップシステムが特徴です。

開発背景や技術的な挑戦

『ハル21』がリリースされた1985年は、アーケードゲーム市場においてシューティングゲームが全盛期を迎えていた時代であり、特に地上と空中の撃ち分けというシステムは、当時の名作『ゼビウス』の成功を受けて多くのフォロワー作品を生み出していました。新日本企画は、この流行の中で、単なる模倣に終わらないオリジナリティを追求した作品として本作を開発しました。技術的な挑戦としては、多重スクロールこそ採用されていませんでしたが、大量の敵キャラクターや弾丸を同時に処理するスプライトの描画能力が挙げられます。また、地上物への攻撃時に表示される照準(サイト)の挙動は、当時の技術的な制約の中で、プレイヤーに狙いを定める感覚を伝えるための工夫でした。敵のパーツが破壊されて、画面上を転がるようにすっ飛んでいく演出も、物理的な挙動を表現しようという当時の開発陣の挑戦の跡がうかがえます。

当時の新日本企画は、後に『怒』や『餓狼伝説』といったヒット作を生み出す土台を築いている最中にあり、『ハル21』は多様なゲーム性への模索の一環として位置づけられます。独自のパワーアップシステムや、敵が合体してコアを守る個性的なボスキャラクターのデザインなど、後のSNK作品に通じるアイデアやこだわりが随所に垣間見えます。

プレイ体験

『ハル21』のプレイ体験は、空中と地上への攻撃を意識的に切り替える必要があり、他のシューティングゲームと比較して癖の強さと戦略性が際立っています。プレイヤーが操作する戦闘機は、対空ショットは連射可能ですが、対地ショットはサイトが表示される前方に単発で撃ち出されるため、地上物を効率的に破壊するには精密な操作が求められます。特に、地上物から出現するパワーアップアイテムEマークを集めることは、ゲームの進行において極めて重要です。

Eマークを5個集めると、機体が約20秒間無敵になり、同時に貫通弾を発射できるようになります。この状態が、敵を一掃し、スコアを稼ぐための最大のチャンスとなります。そのため、プレイヤーは常にEマークの出現位置と数を計算に入れながら、地上と空中の敵をバランス良く倒していく必要があります。無敵状態をいかに効率的に活用するかが、ゲームの難易度を大きく左右します。また、ボスの出現パターンや、コアを守るパーツの独特な動きも、プレイヤーに新鮮な驚きと攻略のしがいを提供しました。

初期の評価と現在の再評価

『ハル21』は、発売当時の初期の評価では、同時代の人気タイトル、特に『ゼビウス』と比較され、その独特な操作性や難易度の高さから、賛否両論を呼ぶことがありました。地上物への攻撃サイトの操作が難解であると感じるプレイヤーもいれば、その戦略性に魅力を感じるプレイヤーもいました。しかし、その革新的なパワーアップシステムや、独創的な敵デザインは、一部の熱心なシューティングゲームファンからは高く評価されていました。

現在においては、アーケードゲームの歴史を振り返る文脈で、そのオリジナリティと後のSNKの土台を築いた作品として再評価されています。単純な移植が少ないタイトルであることも手伝い、当時のアーケードの雰囲気を強く残すレトロゲームとしての価値が見直されています。特に、Eマークによる無敵・貫通弾を戦略的に使うゲーム性は、現代のシューティングゲームにはあまり見られない、本作ならではの醍醐味として再認識されています。

他ジャンル・文化への影響

『ハル21』自体が直接的に他ジャンルに多大な影響を与えたというよりは、新日本企画という企業の変遷史の中で重要な位置を占めています。本作で培われた技術やアイデア、そしてゲームデザインの哲学は、後に同社が手掛けることになる他のシューティングゲームや、アクションゲームの礎となりました。特に、パワーアップアイテムによって機体の性能が劇的に変化するシステムは、後のSNKシューティングにおけるアイテム収集の重要性に繋がる要素と言えます。

また、本作の独創的な敵キャラクターのデザインや、硬質なSF世界観は、当時のアーケードゲーム文化の一部として、プレイヤーの記憶に深く刻まれました。ゲーム音楽に関しても、シンプルながらも緊張感を煽るBGMは、当時のピコピコサウンドを好むレトロゲームファンから根強く支持されています。文化的な側面から見ると、本作は1980年代中盤のアーケードゲームの多様性を示す貴重な作品の一つとして、語り継がれています。

リメイクでの進化

『ハル21』は、大規模なリメイク版やアレンジ移植版が現在まで正式に発表されているという情報は見受けられません。これは、本作のゲーム性が非常にアーケードゲーム特有の、シビアで独自のバランスの上に成り立っているため、安易な移植やリメイクが難しかったことが一因と考えられます。当時のオリジナル基板の挙動を完全に再現しなければ、このゲームの持つ独特の魅力が損なわれてしまうという懸念もあったでしょう。

しかし、近年では、レトロゲームの復刻プロジェクトや、過去のアーケード作品を収録したオムニバス形式のコレクションに含まれる形で、その存在が再びプレイヤーに届けられる機会が増えています。これらの復刻版においては、当時のゲームの魅力を損なわないよう、オリジナル版のグラフィックやサウンドの忠実な再現が最も重視されています。もし未来にリメイクが実現するとすれば、現代の技術で地上と空中の撃ち分けシステムをさらに洗練させ、より直感的で戦略的なプレイ体験を提供できる可能性を秘めています。

特別な存在である理由

『ハル21』がシューティングゲームの歴史において特別な存在である理由は、それが単なる『ゼビウス』のフォロワーではなく、新日本企画(SNK)という企業の創造的なルーツの一部であるからです。地上物への攻撃サイトの採用や、Eマークを集めることで一時的に最強になるというハイリスク・ハイリターンなパワーアップシステムは、当時のシューティングゲームの常識に一石を投じるものでした。この尖ったゲームデザインこそが、本作の最大の魅力であり、多くのプレイヤーの記憶に残る理由です。

また、後に世界的なヒット作を多数生み出すことになるSNKの、挑戦的で独創的なゲーム開発精神が初期の段階から息づいていたことを示す証でもあります。難易度は高いものの、無敵・貫通弾状態での爽快感は格別であり、このゲームを極めたプレイヤーにしか味わえない達成感と喜びがありました。流行のシステムを取り入れつつも、独自の色を強く打ち出したオリジネーターとしての姿勢が、本作を特別な作品として位置づけています。

まとめ

アーケード版『ハル21』は、1985年に新日本企画から登場した、地上と空中の撃ち分けを特徴とする縦スクロールシューティングゲームです。その難易度の高さから、万人受けする作品ではなかったかもしれませんが、パワーアップアイテムEマークによる無敵・貫通弾システムと、個性的で巧妙なボスデザインは、熱心なプレイヤーを惹きつけました。後のSNK作品の礎となった挑戦的なゲームデザインが随所に光っており、当時のアーケードゲーム文化の多様性を象徴する貴重なタイトルです。シビアながらも奥深いゲーム性を持っており、今なおレトロゲームファンにとって独自の光を放つ一作として語り継がれています。この作品の持つ独特な緊張感と、無敵状態の爽快感は、ぜひ多くのプレイヤーに体験していただきたい魅力を持っています。

©1985 新日本企画