アーケード版『チェイス H.Q.』警察チェイスとナンシーの魅力

アーケード版『チェイス H.Q.』は、1988年にタイトーが開発・発売したレース/ビークルコンバット系のアーケードゲームです。開発はタイトーが行い、デザインには酒匂弘行(Hiroyuki Sakou)が携わっています。プレイヤーは「チェイス特別捜査課」の警察官トニー・ギブソンとなり、逃走する犯罪者を追いかけ、自動車でぶつかって停止させて逮捕する、という追跡とアクションを組み合わせたゲーム性が特徴です。実際の道路のようにカーブや峠道、分岐などがあり、またタイムリミットの緊張感や、逃げる対象への追いつくための速度と操作のバランスが魅力です。ハードウェアにはタイトーのZシステムを採用し、音声やグラフィック表現も当時としては高い評価を得ました。また、無線連絡で登場する「ナンシー」がプレイヤーに次のターゲットを伝える演出は、物語性と臨場感を強め、ゲーム体験の大きなアクセントとなっています。

開発背景や技術的な挑戦

『チェイス H.Q.』は、アーケードレースゲームが「コースを走ってタイムを競う」タイプから、より物語性やアクション要素を持たせる方向へ進化し始めていた時期に登場しました。タイトーはこの流れを意識し、ただ速度を出すだけでなく、「逃走車を追う」「捕まえる」「交通を避ける」といった要素を組み込むことで、従来のレースゲームと差別化を図っています。

ハードウェア的には、Zシステムを採用しており、スプライトスケーリングや遠近感のある道路描写、分岐や高低差のある地形などにより、アーケード筐体での迫力を追求しています。ナンシーの通信を含む声やサウンド演出は、Zシステムと当時のサウンドチップとの組み合わせで強い印象を残すものとなりました。

プレイ体験

プレイヤーはステージ開始時に逃走中の犯罪者と車種を知らされ、制限時間内に追いつくことを目指します。交通車両や障害物を避けながらスピードを維持し、逃走車に追いつくと延長時間が与えられ、車体を何度もぶつけて停止させると逮捕成功です。ステージは5つで、それぞれに特色ある景観や逃走車が登場します。操作はハンドル、アクセル・ブレーキ、2段シフトの切り替え、そして限られた回数使用可能なナイトロブーストといった要素により、単なる速度勝負ではなく、戦略的かつ緊張感のあるドライブが要求されます。さらに、プレイ中に無線で連絡をしてくるナンシーの存在は、ゲームにドラマ性を加える大きな要素でした。彼女の声とメッセージによって、プレイヤーは次に追うべき標的を知らされるだけでなく、「司令本部と繋がっている」という感覚を味わうことができ、孤独なドライバーではなく組織に属する一員として任務に臨んでいるという没入感を強めています。

対応プラットフォーム

『チェイス H.Q.』はアーケード以外にもAmiga、Amstrad CPC、Atari ST、コモドール64、MSX、ZX Spectrumといった欧州の家庭用コンピュータをはじめ、ファミリーコンピュータ(1989年)、PCエンジン、ゲームボーイ(1990〜1991年頃)、セガ・マスターシステム、ゲームギア、FM TOWNS、Sharp X68000、メガドライブ、スーパーファミコン、ゲームボーイカラーなど多岐にわたる機種に移植され、さらにWiiのバーチャルコンソールを通じても配信されました。

初期の評価と現在の再評価

『チェイス H.Q.』は登場当時から大きな人気を獲得し、日本では1989年の年間アーケード収益上位を記録しました。スピード感と緊張感あふれるゲームデザインは高い評価を受け、演出面でも警察無線やナンシーの通信などがプレイヤーを強く惹きつけました。移植版も、家庭用で遊べることでより多くのユーザーに支持されました。

現在では、レトロゲームの文脈で「警察と犯罪者のチェイス」をテーマにした先駆的作品として再評価されています。特にナンシーの存在は、当時のアーケードにおいて女性キャラクターがサポート役として物語を支える珍しい例であり、作品に記憶に残る印象を与えています。

他ジャンル・文化への影響

『チェイス H.Q.』は、単なるレースゲームを超え、警察官として犯罪者を追うという物語性を導入したことで、その後の追跡型アクションレースに大きな影響を与えました。DriverやBurnoutといった後のタイトルにおいて「逃走車を破壊して止める」要素は、明確に本作の流れを受け継いでいます。

また、ナンシーのような「無線で情報を伝えるキャラクター」の登場は、後のゲームにおけるサポート役キャラクターの先駆けでもあり、プレイヤーを孤独なドライバーではなく「組織の一員」として感じさせる演出は文化的にも意義深いものです。

リメイクでの進化

続編『Special Criminal Investigation』では銃撃戦などの要素が加わり、さらに物語性が強化されました。また、『Super Chase H.Q.』などの後継作では3D表現や多彩なカメラワークが導入され、現代的な追跡体験へと進化しました。

しかし、いずれの作品でもナンシーのような司令本部からの通信演出は残され、プレイヤーを支える存在として継承されていきました。この点において、初代が築いた演出の枠組みは後世にも強い影響を与えています。

特別な存在である理由

『チェイス H.Q.』は、ただ速さを競うだけでなく「犯罪者を追い詰める」という目的が明確であり、プレイヤーに強い使命感を与えるゲームでした。さらにナンシーの登場によって、プレイヤーは単独ではなく本部と連携して任務を遂行している感覚を得られました。この物語的演出と臨場感の高さは、同時代のアーケードゲームと比べても際立った特徴でした。

こうした点が、本作を単なるレースゲームではなく、アクション性とドラマ性を兼ね備えた特別な作品として記憶に残している理由です。

まとめ

アーケード版『チェイス H.Q.』は、1988年に登場したレースとアクションを融合させた画期的な作品です。限られた時間で逃走車を追い詰める緊張感、ナイトロによる一瞬の勝負、そして無線連絡を通じて登場するナンシーの存在が、ゲーム体験を豊かにし、プレイヤーを物語に深く引き込みました。家庭用機や携帯機への移植により、アーケードでしか味わえなかった体験が家庭でも共有され、より多くの人に支持されたことが、この作品の広がりと影響力を示しています。

©1988 Taito