アーケード版『与作とゴン平』は、1979年に株式会社ウイングより発売された固定画面シューティングゲームです。本作は、当時大流行していた『スペースインベーダー』に端を発するシューティングブームの中で登場しました。プレイヤーは木こりの「与作」を操作し、木の上から嫌がらせをしてくるカラスや、足元を徘徊するイノシシ、さらには空から落ちてくる障害物を避けながら、斧を投げて敵を撃退していきます。当時の殺伐とした宇宙戦争テーマのゲームが多い中で、日本の田舎風景や木こりというコミカルで親しみやすいテーマを採用した本作は、ゲームセンターにおいて独自の存在感を放っていました。
開発背景や技術的な挑戦
1979年当時、ビデオゲームの開発はモノクロ画面からカラー画面への移行期にあり、本作も限られた色数と解像度でいかに豊かな表情を出すかが技術的な鍵でした。ウイングの開発チームは、当時としては珍しい「投擲(とうてき)による放物線を描く攻撃」の実装に挑戦しました。直線的に弾を撃つ従来のシューティングとは異なり、斧が放物線を描いて飛ぶ挙動は、プログラミングにおける座標計算の工夫が必要でした。また、キャラクターの動きにユーモアを持たせるためのドットアニメーションも細かく設計されており、ミスをした際の与作のリアクションなど、プレイヤーの感情を揺さぶる演出が、初期のハードウェア制約の中で最大限に表現されました。
プレイ体験
プレイヤーは左右の移動と、斧を投げるボタンを駆使してスコアを稼ぎます。画面上部には木があり、そこからカラスがフンを落としてきたり、イノシシが突進してきたりするため、上下左右に注意を払う必要があります。本作の面白さは、単に敵を倒すだけでなく「避ける」ことの重要性が高い点にあります。カラスの攻撃をかいくぐりながら、タイミングを見計らって斧を投げ、高い位置にいる敵を仕留める感覚は、当時のプレイヤーに新鮮な手応えを与えました。シンプルながらも、敵の出現パターンや移動速度の変化により、プレイするたびに適度な緊張感が味わえる設計となっており、短時間で何度も挑戦したくなる中毒性を備えていました。
初期の評価と現在の再評価
リリース当初、その独特のキャラクター設定と親しみやすいビジュアルは、子供から大人まで幅広い層に受け入れられました。「与作」という名前やテーマソングを彷彿とさせる世界観は、当時の流行とも合致しており、多くの喫茶店やゲームセンターの筐体で稼働しました。現在では、1970年代末のビデオゲーム黎明期における「和風コミカルアクション」の先駆けとして再評価されています。宇宙や戦争以外のモチーフがいかにゲームとして成立するかを示した初期の成功例であり、日本のゲーム開発者が得意とする「キャラクター性」を重視したゲームデザインの原点の一つとして、レトロゲーム愛好家の間で大切に記憶されています。
他ジャンル・文化への影響
本作が提示した「放物線を描く攻撃」というメカニクスは、後のアクションゲームにおける飛び道具の概念に大きな影響を与えました。また、特定の職業(木こり)を主人公にし、その生活圏を舞台にするという設定は、後に続く数々のバラエティ豊かなキャラクターゲームの礎となりました。文化的な側面では、本作は日本の歌謡曲や民間伝承のような雰囲気をデジタル技術で表現しようとした初期の試みでもあります。ビデオゲームが単なる「海外の輸入文化」から「日本独自の感性を盛り込んだエンターテインメント」へと昇華していく過程において、本作のようなユニークな作品が果たした役割は決して小さくありません。
リメイクでの進化
『与作とゴン平』は、そのシンプルで分かりやすいルールゆえに、現代のスマートフォン向けアプリやカジュアルゲームとしてのリメイクに非常に適しています。もし最新技術でリメイクされるならば、美しい日本の四季を背景にした4Kグラフィックスや、物理演算に基づいたよりリアルな斧の軌道、さらには巨大な山の主とのボス戦などが追加されることで、現代的なエッセンスを取り入れた楽しいアクションゲームへと進化するでしょう。しかし、根底にある「飛んでくるものを避け、標的を狙い撃つ」という原始的な遊びの楽しさは、どのような豪華な演出が加わっても変わることのない本作の魂です。当時のドット絵をあえて活かしたレトロモダンなスタイルでの復刻も、多くのファンに喜ばれるはずです。
特別な存在である理由
本作が特別な存在である理由は、ビデオゲームがまだ「技術の展示会」のような側面が強かった時代に、明確な「ユーモア」と「親しみやすさ」を持ち込んだ点にあります。与作が木を切るのではなく、襲いかかる自然(敵)と対峙するという構図はシュールでありながら、どこか憎めない愛嬌があります。株式会社ウイングというメーカーが、当時の激しい競争の中で、あえて王道のSFを外して勝負を挑んだその姿勢が、本作を唯一無二のクラシックへと押し上げました。黎明期の熱気と、自由な発想が形になった、アーケードゲーム史に残る愛すべき一作です。
まとめ
アーケード版『与作とゴン平』は、1970年代のゲームセンターに温かい笑いと緊張感をもたらした、和風シューティングの傑作です。斧を投げ、敵を退治するという単純明快な遊びの中に、当時の開発者の創意工夫が凝縮されています。時代が進み、ゲームがどれほど複雑になっても、本作が持っていた「一瞬の判断で危機を脱する楽しさ」や「キャラクターが動く喜び」は、ビデオゲームが永遠に持ち続けるべき本質的な魅力です。日本のビデオゲーム文化が産声を上げた時代の記憶を今に伝える本作は、これからもレトロゲームの至宝として、多くの人々に語り継がれていくことでしょう。
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