AC版『ロードレース』疑似3Dで地平線を駆け抜けるドライブの原点

アーケード版『ロードレース』は、1976年2月にセガから発売されたドライブゲームです。本作は、当時のドライブゲームの概念を一新する革新的な表現を取り入れたタイトルとして知られています。プレイヤーは実車同様のハンドル、アクセルペダル、そしてHI/LOWの2速シフトレバーを駆使して自車を操作し、地平線へと続く道を進みます。モノクロ画面ながらも遠近法を用いた立体的な視覚演出を導入しており、迫りくる急カーブや他車を追い越すスリルをリアルに再現した、セガのドライブゲーム史における極めて重要な一作です。

開発背景や技術的な挑戦

1970年代中盤のドライブゲームは、画面上部から車が降ってくるような単純な俯瞰視点が主流でした。しかし本作では、道路が手前から奥の地平線に向かって細くなっていくパースペクティブ(遠近感)表示を採用するという、技術的な大きな飛躍を遂げました。キャラクターの拡大縮小機能をハードウェアのみで疑似的に実現し、ライバル車が奥から迫ってくる感覚や、コース脇の並木が流れていく様子を表現しました。また、サウンド面では8トラックテープを使用し、走行音などの臨場感を高める工夫がなされるなど、後の体感ゲームへと繋がる技術的挑戦が数多く盛り込まれていました。

プレイ体験

プレイヤーに提供される体験は、まさに「公道での高速レース」そのものでした。ハンドルを切って左右に蛇行するS字カーブを曲がりきり、低速ギアと高速ギアを切り替えて加速する操作は、当時のプレイヤーに高い没入感を与えました。制限時間は70秒に設定されており、走行距離が400キロメートルを超えると時間が延長されるボーナスシステムが緊張感を高めます。他車と接触したりコースアウトしたりすると、画面が激しく反転フラッシュし、ハンドルが振動するという物理的なフィードバックも、アーケード筐体ならではの興奮を演出していました。

初期の評価と現在の再評価

発売当時、その圧倒的な臨場感とリアルな操作性は大きな話題となり、多くのプレイヤーを虜にしました。それまでの単調なビデオゲームとは一線を画す「運転している感覚」は、ドライブゲームというジャンルのステータスを一段引き上げる結果となりました。現在では、後の『アウトラン』や『ハングオン』といったセガを代表する体感型レースゲームの直系の先祖として非常に高く再評価されています。疑似3D表現の先駆けとして、ビデオゲームにおける視覚効果の歴史を語る上で欠かせない記念碑的作品と見なされています。

他ジャンル・文化への影響

本作がもたらした遠近感のある走行画面は、その後のレースゲームにおける標準的なレイアウトとなりました。また、本作のシステムをベースとして、バイクレース版の『モトクロス』や『マンTT』、さらには海外のドラマとタイアップした『フォンズ』といった派生作品が次々と誕生しました。一つの優れたシステムを多様なモチーフに展開していくセガのビジネスモデルの原点とも言えます。本作が提示した「画面の奥行きを利用したアクション」は、レース以外のジャンルにも多大なインスピレーションを与えました。

リメイクでの進化

『ロードレース』そのものが直接リメイクされることは稀ですが、そのDNAはセガのレースゲームの系譜に脈々と受け継がれています。80年代のスーパースケーラー技術による高速な拡大縮小表現や、90年代の3Dポリゴンによる完全な立体空間の実現など、技術の進歩に伴い表現力は飛躍的に向上しました。しかし、ハンドルを握り、地平線を目指してライバルを追い抜くという本作のコアな楽しさは、最新のレーシングシミュレーターの中にも変わらず生き続けています。

特別な存在である理由

本作が特別なのは、ビデオゲームに「奥行き」という概念を本格的に持ち込み、プレイヤーを画面の「中」へと誘ったからです。単なる記号の移動だったビデオゲームを、現実の風景を模した仮想体験へと変容させた功績は計り知れません。セガが世界に誇る「ドライブゲームの名門」としての歩みは、この1976年の『ロードレース』から始まったと言っても過言ではなく、その歴史的な重みは今なお色褪せることがありません。

まとめ

『ロードレース』は、1970年代のビデオゲーム黎明期において、遠近法を用いた画期的なグラフィックとリアルな操作系で革命を起こした傑作です。ハンドル、ペダル、シフトレバーという実車さながらのインターフェースと、疑似3Dによる疾走感は、当時の人々に未来の娯楽を予感させました。セガの情熱が詰まったこの作品は、ドライブゲームというジャンルの基礎を築き、その後のゲーム史に計り知れない影響を与えた、真のパイオニアと呼ぶべき存在です。

©1976 SEGA