AC版『エンパイア シティ:1931』禁酒法時代の硬派な3Dガンシューティング

アーケード版『エンパイア シティ:1931』は、1986年6月にセイブ開発から開発され、タイトーから販売されたガンシューティングゲームです。禁酒法時代のアメリカ、1931年のニューヨークを舞台に、愛する家族をマフィアの抗争で失った若者が復讐を誓い、組織に立ち向かうというストーリーが展開されます。本作は、レバーによる照準操作と、射撃・回避(防御)の2ボタンを使用するシステムが特徴で、当時としては珍しいテーブルタイプの3Dシューティングとして注目を集めました。太い線画で描かれたダーティな世界観と、緊迫感のあるゲームプレイが魅力的な、セイブ開発の初期を代表する作品の一つです。

開発背景や技術的な挑戦

『エンパイア シティ:1931』が開発された1980年代中盤は、ビデオゲームの技術が急速に進化していた時期です。本作は、3Dシューティングという、当時アーケードゲームではまだ珍しいジャンルに挑戦しています。特に、奥行きを感じさせる擬似3Dの表現と、プレイヤーの照準操作に合わせて画面がスクロールするシステムは、技術的な挑戦であったと言えます。プレイヤーが画面全体をスクロールさせて周囲を見渡し、窓や屋上など様々な場所から出現する敵を狙い撃つという構造は、従来の固定画面や横スクロールのシューティングゲームとは一線を画していました。また、禁酒法時代という特定の時代設定に合わせた、モノクロ映画を彷彿とさせる暗めの色調と太めの線画を用いたグラフィックも、独特な世界観を構築するための工夫であり、当時の技術水準の中で表現力を高める試みでした。

プレイ体験

プレイヤーは、8方向ジョイスティックで画面上の照準を操作し、射撃ボタンと回避ボタンを駆使してゲームを進めます。最も特徴的なのは、照準を画面端まで動かすことで視点が上下左右にスクロールし、広大なステージを見渡せる点です。これにより、プレイヤーは常に周囲に気を配り、どこから敵が出現するかを予測する必要があります。もう一つの重要な要素は、回避(防御)の概念です。一般的なガンシューティングでは回避行動がないか、非常に限定的でしたが、本作ではディフェンスボタンを押すことで一時的に銃弾を避けることができ、これがゲームの駆け引きを深くしています。しかし、銃弾を撃つ、回避行動を取る、あるいは敵を放っておくことによって、画面下の銃弾ゲージが減っていくというシビアなシステムも採用されており、プレイヤーには無計画な射撃や回避は許されません。この独特のシステムが、緊張感あふれる、戦略的なプレイ体験を生み出しています。敵の出現パターンを記憶し、限られたリソースの中で素早く正確に敵を倒していく集中力が求められます。

初期の評価と現在の再評価

『エンパイア シティ:1931』は、リリース当初、その独特のゲーム性と世界観で一定の評価を得ました。当時のゲームセンターでは、SFやファンタジーを題材にした作品が多い中で、禁酒法時代のアメリカをテーマにしたダーティでハードボイルドな雰囲気は異彩を放っていました。また、前述の照準とスクロールを組み合わせた斬新な操作システムと、回避を必要とする高い難易度は、一部の熱心なプレイヤーを惹きつけました。しかし、その操作の複雑さや難しさから、万人受けする作品とは言い難い面もありました。現在の再評価としては、レトロゲームブームやアーケードアーカイブスなどの移植を通じて、その独自性が改めて注目されています。特に、その後のガンシューティングゲームにはあまり見られない「回避」システムや、太い線画のグラフィックによる強烈なアートスタイルは、唯一無二の存在として再認識されており、ゲーム史におけるユニークな3Dシューティングの試みとして評価されています。

他ジャンル・文化への影響

『エンパイア シティ:1931』は、その後のビデオゲーム、特にガンシューティングのジャンルに直接的な大きな影響を与えたというよりは、テーマ性とビジュアルの面で独自の系譜を築いた作品と評価されます。禁酒法時代のアメリカを舞台にしたギャング抗争というテーマ設定は、後に登場する数々のアクションゲームやアドベンチャーゲームにインスピレーションを与えた可能性があります。また、ダーティな世界観を太い線画と暗い色調で表現したアートスタイルは、後のセイブ開発の作品群、例えば『雷電』シリーズなどの洗練されたグラフィックとは異なる、初期作品ならではの強烈な個性を放っており、同時代の他作品にはない独特の存在感を示しました。ビデオゲーム以外の文化、例えば映画やコミックなどにおけるギャングものをモチーフとした作品群との関連性は高いですが、本作がそれらに直接的な影響を与えたというよりは、共通の文化的モチーフをビデオゲームという形式で表現した一例として位置づけられます。

リメイクでの進化

『エンパイア シティ:1931』の純粋な意味でのリメイク版は、現在のところリリースされていません。しかし、本作は1987年にファミリーコンピュータで『マグナム危機一髪 エンパイア・シティ1931』というタイトルで移植されています。これはアーケード版を家庭用向けにアレンジしたものであり、完全なリメイクではありませんが、アーケードの体験を自宅で再現しようという試みでした。近年では、2022年にアーケードアーカイブスシリーズの一つとして、オリジナル版がPlayStation 4とNintendo Switch向けに配信されています。このアーケードアーカイブス版は、オリジナルのゲーム内容を忠実に再現しつつ、ハイスコアランキング機能や難易度設定などの調整オプションを追加しており、現代のプレイヤーが当時のゲーム体験をそのまま享受できるようになっています。これは、オリジナル版の持つユニークなゲームデザインと歴史的価値を再認識させるという点で、実質的な現代への再提示と言えます。

特別な存在である理由

このゲームがビデオゲーム史において特別な存在である理由は、その大胆なテーマ設定とユニークなゲームシステムの組み合わせにあります。当時としては珍しい「禁酒法時代のアメリカ」という、退廃的でハードボイルドな世界観を、太い線画と暗い色彩で表現したビジュアルは、他のシューティングゲームとは一線を画していました。そして、照準スクロールと回避システムを組み合わせた独特の操作感は、単なる反射神経だけでなく、周囲への注意と戦略的なリソース管理を要求する、奥深いプレイ体験をプレイヤーに提供しました。これは、後のガンシューティングの定石とは異なるアプローチであり、セイブ開発というメーカーの初期の独創性と挑戦的な姿勢を示す証拠とも言えます。時代を超えてもなお、その個性が色褪せない、マニアックなファンに愛され続ける作品です。

まとめ

アーケード版『エンパイア シティ:1931』は、1986年に登場した、異色の3Dガンシューティングゲームです。禁酒法時代という独特なテーマを、ダーティで硬派なビジュアルで表現し、プレイヤーは照準のスクロールと回避アクションを駆使してマフィアとの抗争を繰り広げます。このゲームは、シビアな弾数制限や防御の概念を導入することで、当時のシューティングゲームとしては類を見ない、戦略的かつ緊迫感のあるゲームプレイを実現しました。その複雑な操作性や高い難易度から、商業的な大成功を収めた作品ではないかもしれませんが、その挑戦的なゲームデザインと唯一無二の世界観は、今なお多くのレトロゲームファンから特別な評価を受けています。アーケードアーカイブスでの復刻により、現代のプレイヤーもその奥深さに触れることができ、ビデオゲームの歴史において、多様な試みがなされた時代の証として、重要な一作と言えます。

©1986 SEIBU KAIHATSU INC.