アーケード版『Mr.五右衛門』は、1986年5月にコナミから発売されたアクションゲームです。日本の義賊である石川五右衛門を題材としており、後の同社の看板シリーズとなるがんばれゴエモンシリーズの原点にあたる記念碑的な作品として知られています。プレイヤーは五右衛門を操作し、悪徳大名を懲らしめるため、追ってくる役人たちから逃れながらステージのゴールである城を目指します。キセルを使った近接攻撃や、アイテムを駆使した遠距離攻撃、そしてジャンプを駆使して進むスピーディなゲーム展開が特徴です。
開発背景や技術的な挑戦
本作は、安土桃山時代の盗賊、石川五右衛門という日本文化に深く根ざした題材を、当時隆盛を極めていたアーケードゲームとして表現するという挑戦のもとに開発されました。当時の開発者の方々の証言からは、様々な人気作品からの影響が見受けられます。例えば、ジャンプで発見できる隠し階段から地下通路に行けるギミックは、当時大ヒットしていた『スーパーマリオブラザーズ』の土管から地下へ行く仕組みを意識したものだったとされています。
また、集めた小判を用いてアイテムを購入するシステムは、『ゼルダの伝説』などのアドベンチャー要素を取り入れたゲームの影響も受けていると考えられており、シンプルなアクションゲームでありながら、アイテム収集と成長の要素を盛り込むという点も、当時のアーケードゲームとしては先進的でした。和の世界観をドット絵で表現することにもこだわりが見られ、夜の街並みを背景にキャラクターや障害物をくっきりと見せる工夫など、グラフィック面での技術的な試みも行われています。
プレイ体験
プレイヤーは、五右衛門を操作し、キセルを振るって向かってくる岡っ引きやボスキャラクターと戦いながら、常に右方向へと進んでいきます。操作はレバーとボタンを使用しますが、特にジャンプがレバーの上入力で行われるため、近年のアクションゲームに慣れたプレイヤーには新鮮な操作感覚かもしれません。敵はいくら倒しても無限に湧き出すため、立ち止まらずに敵を蹴散らしながら走り続けるスピード感が、このゲームの大きな爽快感となっています。
ステージには、通行手形を集めて関所を通過するといったアドベンチャー的な要素が組み込まれており、単なる横スクロールアクションに留まらない奥深さがあります。しかし、敵の攻撃が激しく、特に飛び道具を喰らうと1発でミスになるなど、当時のアーケードゲームらしい高い難易度も特徴です。敵に捕まった際にレバーを左右に振って抵抗するといった、緊迫感のあるユニークな操作もプレイ体験の一部となっています。画面上部の月が残り時間を示す粋な演出も、和風の世界観と相まってプレイヤーを楽しませる要素です。
初期の評価と現在の再評価
アーケードゲーム『Mr.五右衛門』は、稼働当初からそのユニークな世界観とコナミらしい完成度の高いアクションゲームとして、一定の評価を得ていました。和風の舞台設定やコミカルなキャラクターデザインは、当時の他のゲームとは一線を画しており、後のシリーズ化につながるポテンシャルを秘めていたと言えます。特に、後の「がんばれゴエモン」シリーズの多くの作品に登場するお馴染みのBGMの原型がすでにこの作品に存在しており、この点もプレイヤーに強く印象づけました。
現在の再評価としては、本作が「がんばれゴエモン」シリーズのルーツとして非常に重要な位置を占めているという点に集約されます。シリーズファンからは、後の作品に共通するユーモアや日本的な粋な演出がすでに詰まっている点が高く評価されています。また、近年、アーケードアーカイブスとして移植され、現代のゲーム機で手軽に遊べるようになったことで、その高いゲーム性と独自性が再認識されています。難易度の高さはそのままに、シンプルな操作で楽しめるゲームとして、レトロゲームファンからの支持を集め続けています。
他ジャンル・文化への影響
『Mr.五右衛門』の最も大きな影響は、やはりコナミの看板シリーズの一つとなったがんばれゴエモンシリーズの誕生にあります。本作で確立された和風のコミカルな世界観、義賊五右衛門というキャラクター、そして一部のBGMやアイテムのデザインは、その後のシリーズ作品全てに共通する核となっています。このシリーズは、アクション、RPG、パズルなど多岐にわたるジャンルで展開され、日本のゲーム文化において独自の地位を築きました。
また、和風の世界観を前面に押し出しつつ、当時の最先端のゲーム要素を取り入れるという姿勢は、その後の日本のゲーム開発に影響を与えたと考えられます。純粋なアクションゲームのジャンルを超えて、日本の歴史上の人物をデフォルメし、ユーモラスに描くという表現手法は、他の日本のゲームにも見られるようになりました。本作の和のテイストとスピード感あふれるアクションの融合は、後のゲームデザインに1つの方向性を示したと言えるでしょう。
リメイクでの進化
アーケード版『Mr.五右衛門』は、厳密な意味でのフルリメイクは行われていませんが、近年ではアーケードアーカイブスシリーズの1つとして、Nintendo SwitchやPlayStation 4といった現代のプラットフォームに忠実に移植されています。これは、オリジナル版のゲーム内容をそのままに、現代のプレイヤーが手軽に遊べるようにしたものです。この移植版では、当時の雰囲気をそのまま味わえることに加え、オンラインランキング機能の追加や、ゲーム設定のカスタマイズ機能など、現代のプラットフォームならではの機能が盛り込まれています。
また、ゲームの難易度を調整できる機能や、途中セーブ機能などが追加されることで、オリジナル版の難しさに戸惑うプレイヤーでも遊びやすくなっています。この「アーケードアーカイブス」での展開は、オリジナル版が持つ価値を現代に再提示し、新規のプレイヤーにもその魅力を伝える役割を果たしています。この忠実な移植により、本作は時代を超えてプレイされ続けていると言えます。
特別な存在である理由
アーケードゲーム『Mr.五右衛門』が特別な存在である理由は、それが単なるアクションゲームの1つではなく、大人気シリーズの魂の原点だからです。この作品がなければ、「がんばれゴエモン」シリーズ全体は生まれ得なかったでしょう。義賊・石川五右衛門をコミカルかつ親しみやすいキャラクターとして確立し、和風のユーモラスな世界観と、小判やキセルといった日本的なアイテムをゲームシステムに落とし込んだ独創性が、多くのプレイヤーの心をつかみました。
また、当時の最先端のゲームのエッセンスを取り込みながらも、コナミ独自の解釈と技術で新しいゲーム体験を創り出そうとした開発者たちの情熱が、ゲーム全体から感じられます。高い難易度ながらも、スピード感と達成感に満ちたプレイサイクルは、アーケードゲーム全盛期の傑作の1つとして、今なお色褪せない魅力を放っています。
まとめ
アーケード版『Mr.五右衛門』は、1986年にコナミから生まれた、日本のゲーム史における重要なアクションゲームです。日本の義賊である石川五右衛門を主人公に据え、和風のユーモアと当時の最先端のゲームデザインを融合させた本作は、「がんばれゴエモン」シリーズの確固たる基礎を築きました。敵から逃れながら、キセルとアイテムを駆使して進むスピーディなゲームプレイは、現代のプレイヤーにも新鮮な興奮を提供します。高い難易度と、隠し要素を探す楽しさが両立しており、その独創的な世界観と挑戦的なゲーム性は、多くの人々に愛され、語り継がれるべき作品です。
©1986 コナミ