アーケード版『ロックンチェイス』は、1981年2月にデータイーストが開発・稼働開始した、ドットイートタイプのアクションゲームです。北米ではタイトーが発売元を担当しました。プレイヤーは主人公のルパンを操作し、銀行内の迷路に配置された全てのコインを盗み集めることが目的です。最大の特徴は、主人公が通過した通路にシャッターを閉めることができ、これによって追いかけてくる警察官(ポリス)を足止めしたり閉じ込めたりできる戦略的な要素にあります。画面中央に時折出現するダイヤを取ると、一定時間無敵になりポリスを弾き飛ばすことができるという点も、当時のアクションゲームとしては斬新でした。アーケード版以外にも、1982年にAtari 2600やインテレビジョンへ、1983年にはApple IIへ、そして1990年にはゲームボーイへと移植されています。警察官にはそれぞれ異なる性格付けがされており、単純な追跡だけでなく、その動きを読んでシャッターを操作する奥深さが魅力となっています。
開発背景や技術的な挑戦
『ロックンチェイス』は、当時のアーケードゲーム業界で全盛期を迎えていたドットイートゲームのジャンルにおいて、独自の要素を加えることで差別化を図るという背景で開発されました。技術的な挑戦としては、データイーストが独自に開発したシステム基板である「デコカセットシステム」が用いられている点が挙げられます。このシステムは、1つの筐体でゲーム基板をカセットのように交換することで、複数のタイトルを比較的容易に提供できるという画期的なものでした。『ロックンチェイス』もこのシステムを採用しており、当時としては効率的なゲーム開発・供給体制を可能にする技術的基盤の上に成り立っていたと言えます。また、主人公の移動ルートに「シャッター」という、マップそのものに変化をもたらすインタラクティブな要素を組み込むことは、当時のゲームデザインにおいて重要な挑戦であり、後のアクションパズル的な要素の源流とも見なされています。その独特なゲーム性は、稼働後すぐにAtari 2600などの家庭用ゲーム機への移植が決定されるなど、高い注目を集めました。
プレイ体験
プレイヤーは、銀行強盗のルパンとなり、ドット状に配置されたコインを全て回収することを目指します。基本的な操作はレバーによる移動と、シャッターを閉めるためのボタン操作の組み合わせです。追いかけてくるポリスたちは、それぞれ異なるアルゴリズムでルパンを追跡してきます。例えば、一途にプレイヤーを追うポリスや、コインの場所を優先するポリスなど、その動きを読むことが重要になります。このゲームのプレイ体験を特徴づけているのは、「逃走」と「足止め」の戦略的な駆け引きです。シャッターを閉めてポリスの進路を断つことで優位に立てる一方で、無計画にシャッターを閉めると自分の逃げ道を塞いでしまう危険性も常に付きまといます。このため、ただ逃げ回るだけでなく、次にどの通路を通り、どこでシャッターを使い、どのようにポリスを分断するかといった、先読みの要素が熱い駆け引きを生み出しています。ダイヤを取って無敵になる爽快感と、残りコインが少なくなった終盤の緊迫感が、シンプルなルールながらもプレイヤーを熱中させる要因でした。
初期の評価と現在の再評価
『ロックンチェイス』は、稼働開始当初、そのユニークなシャッターシステムが評価されました。当時のアーケード市場では、『パックマン』を筆頭とするドットイートゲームが人気を博しており、本作はそのブームに乗る形で、独自のアイデアで差別化に成功したタイトルとして認識されました。特に、単なる追いかけっこに留まらない、パズル的な要素を含んだゲーム性が新しいと受け止められ、Atari 2600やインテレビジョンといった当時の主要な家庭用ゲーム機への移植も成功を収めました。現在の再評価としては、ゲーム史におけるアクションパズルゲームの先駆的な存在として、そのデザインが再認識されています。シャッターという能動的な防衛・攻撃手段を持たせたことで、後のアクションパズルや迷路脱出ゲームなどに影響を与えたことが指摘されており、当時のシンプルながらも独創的なゲームデザインの傑作として、レトロゲームファンから根強い支持を得ています。
他ジャンル・文化への影響
『ロックンチェイス』のシャッターを使った足止め・進路遮断というギミックは、後のビデオゲームの多様なジャンルに間接的な影響を与えたと考えられます。特に、迷路探索型のアクションゲームや、敵のアルゴリズムを利用してプレイヤーが有利になる状況を作り出すパズル要素を持つゲームの着想の1つになった可能性が指摘されています。シャッターでマップの一部を制御できるというアイデアは、後に『倉庫番』のような押して動かすパズルゲームの概念とは異なる、環境を一時的に変えて状況を打開するというゲームデザインのアプローチを提示しました。また、主人公が「ルパン」を思わせる怪盗であり、ポリスからコインを守りながら盗み出すという設定は、当時の文化的なトレンドや社会的な関心を反映しており、ゲームセンターという文化の中で独特な存在感を放っていました。多くのプラットフォームへの移植によって、より幅広い層のプレイヤーに認知され、ビデオゲームの表現の幅を広げた1作として、その後のゲーム開発者に影響を与えたと言えます。
リメイクでの進化
『ロックンチェイス』は、オリジナル版稼働後、様々な家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機に移植されました。これらの移植版やリメイク版では、オリジナルのゲーム性を保ちつつ、プラットフォームの特性に合わせた進化が見られます。特に、1990年に発売されたゲームボーイ版では、1ステージを3面構成とし、全6ステージというアレンジが加えられました。さらに、ステージクリア時にスロットマシンのボーナスステージが追加されており、プレイヤーがゲーム中で集めたダイヤの数に応じてスロットを回し、残機を増やすチャンスが得られるという、よりアーケード的な熱中度を高める工夫が施されました。また、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールでゲームボーイ版が配信されるなど、現代のプラットフォームにも対応しています。これらの移植は、オリジナルの持つ「追いかけっことパズルの融合」という核となる魅力を維持しつつ、新しい要素を加えることで、その時代に合わせた遊びを提供し続けています。
特別な存在である理由
『ロックンチェイス』が特別な存在である理由は、その先駆的で独創的なゲームシステムにあります。ドットイートゲームという当時の一大ジャンルにおいて、プレイヤーに「シャッターを閉める」という能動的な戦略手段を与えたことは、非常に革新的でした。このシャッター操作によって、プレイヤーは単に逃げるだけでなく、迷路という環境そのものを一時的に操作し、ポリスの動きを予測し、罠にかけるという高度な戦略を要求されました。このアクションとパズル要素の絶妙な融合は、後のゲームデザインに影響を与える画期的なものであり、ビデオゲームの歴史において「ドットイート+環境操作」という独自の地位を確立しています。また、Atari 2600からゲームボーイに至るまで、幅広いプラットフォームに移植され、多くのプレイヤーに愛されたタイトルであるという点も、その特別な存在感を裏付けています。シンプルながらも奥深く、中毒性の高いゲーム性によって、当時のプレイヤーの記憶に深く刻まれた名作です。
まとめ
アーケード版『ロックンチェイス』は、1981年2月にデータイーストから登場した、アクションとパズルを融合させた独創的なドットイートゲームです。プレイヤーはルパンとなり、追いかけてくるポリスをシャッターで足止めしたり閉じ込めたりしながら、迷路内のコインを全て集めることを目指します。シャッターをめぐる駆け引きは、このゲームの最大の魅力であり、単なる追いかけっこに留まらない、高い戦略性を生み出しました。稼働当初は新しいゲーム性として評価され、現在ではアクションパズルの先駆的存在として再認識されています。技術的にはデコカセットシステムを採用しており、当時のゲーム開発における革新性の一端を担っていました。Atari 2600やゲームボーイなど、多くのプラットフォームに移植されており、特にゲームボーイ版ではボーナスステージなどのアレンジが加えられ、時代に合わせて進化を遂げています。そのシンプルなルールの中に秘められた奥深さと、環境を操作するという独自のシステムは、今なお多くのプレイヤーにとって色褪せない魅力となっており、ビデオゲーム史に残る特別な1作として語り継がれています。
©1981 Data East


