アーケード版『ストリートスマート』は、1989年4月にSNK(当時は新日本企画)から稼働を開始した格闘アクションゲームです。後の対戦型格闘ゲームブームの黎明期に登場し、プレイヤーは空手家またはプロレスラーのどちらかを選び、全8ステージのストリートファイトに挑みます。本作は、対戦型格闘ゲームの要素を一部持ちながらも、ステージクリア型のベルトフロアアクションに近いゲームジャンルとして特異な存在感を放っていました。操作は8方向レバーとパンチ、キック、ジャンプの3ボタン式で、シンプルな操作ながらもキャラクターごとに異なる持ち技が存在し、個性的なバトルを楽しむことができます。特に2人同時プレイが可能で、協力してステージを進めることができる点も大きな特徴の一つでした。
開発背景や技術的な挑戦
『ストリートスマート』が開発された1989年は、『ストリートファイター2』に代表される対戦型格闘ゲームのブームが到来する直前の時期にあたります。SNKはすでに『怒-IKARI-』シリーズなどのアクションゲームで実績がありましたが、本作ではより格闘に焦点を当てたゲーム性を模索していました。技術的な挑戦としては、当時としては珍しいキャラクターごとの差別化が挙げられます。空手家とプロレスラーという全く異なるスタイルのキャラクターを用意し、それぞれに固有の技を持たせることで、プレイヤーの選択肢と戦略性を広げようとしました。また、ステージを上下左右に移動できる自由度の高いアクション要素と、1対1の格闘を融合させる試みも、従来の格闘ゲームやアクションゲームにはない挑戦でした。筐体のグラフィックや演出にも力が入れられており、特に倒された相手が救急車で運ばれていくというユニークな演出は、当時のプレイヤーに強い印象を残しました。
プレイ体験
アーケード版『ストリートスマート』のプレイ体験は、理不尽とも言える高い難易度と、独特の自由度が入り混じったものでした。プレイヤーは空手家かプロレスラーを選びますが、どちらも必殺技のような特殊なコマンド技は持っておらず、パンチやキック、投げ技といった基本的なアクションを駆使して戦います。しかし、敵キャラクターはガードや多彩な攻撃を仕掛けてくる上に、攻撃力や体力が非常に高く設定されており、プレイヤーは常に劣勢に立たされます。特にガードの概念がないプレイヤーにとって、敵の攻撃を避けることは非常に困難で、ワンコインクリアは至難の業とされていました。一方で、本作の最大の特徴である2人協力プレイは、この高い難易度を緩和し、友達との連携プレイの楽しさを提供しました。キャラクターの個性を活かした協力技などはありませんが、2人で同時に敵を攻撃できる爽快感は格別でした。
初期の評価と現在の再評価
『ストリートスマート』は稼働当初、その斬新なシステムとユニークな演出で注目を集めました。特に1991年に『ストリートファイター2』が登場し、対戦型格闘ゲームの様式が確立される以前の作品として、SNKの格闘ゲーム開発の原点として位置づけられました。初期の評価では、対戦格闘ゲームの要素を持ちながらも、まだシステムが洗練されていない部分や、前述した理不尽な難易度が指摘されることもありました。しかし、現在の再評価においては、その未完成さや荒削りさが逆に魅力となっています。後のSNK作品に見られる骨太なアクション性の片鱗が感じられる点や、対戦型格闘ゲームの発展の歴史を語る上で欠かせないタイトルとして、レトロゲームファンから再評価されています。協力プレイの楽しさや、当時のアーケードゲーム特有の熱量を感じさせるゲームデザインも、再評価の要因となっています。
他ジャンル・文化への影響
『ストリートスマート』は、直接的に後続のゲームシステムに大きな影響を与えたというよりも、SNKというメーカーの格闘ゲーム制作の歴史において、重要な布石となったタイトルと言えます。本作で培われた、キャラクターごとのアクションの差別化や、ストリートファイトというテーマ設定は、後のSNKの格闘ゲームタイトル群へと受け継がれていきます。特に、後の格闘ゲームブームの礎となった『ストリートファイター2』に先駆けて、ストリートファイトを題材に1対1の格闘アクションを追求した点は、格闘ゲームというジャンル文化の形成に間接的な影響を与えたと言えるでしょう。また、その独特な世界観や硬派なアクション性は、当時のアーケードゲーム文化の一部として、多くのプレイヤーの記憶に残っています。
リメイクでの進化
『ストリートスマート』は、アーケード版稼働後の1991年にメガドライブ版がトレコから発売されています。このメガドライブ版は、アーケード版をベースとしつつも、いくつかの点で進化が見られました。特に、アーケード版にはなかった主人公の必殺技が追加された点や、敵の体力ゲージが表示されるようになった点などが大きな変更点です。これにより、ゲームバランスが調整され、より家庭用ゲーム機らしい遊びやすさが加わりました。また、近年ではSNKの周年記念タイトルなどにアーケード版が収録される形で、当時のオリジナル体験が忠実に再現され、現代のプレイヤーにも遊ばれる機会が提供されています。これらの移植や収録版は、アーケード版の魅力を残しつつ、プラットフォームに合わせた形で本作の歴史を繋いでいます。
特別な存在である理由
『ストリートスマート』が特別な存在である理由は、それがSNKの格闘ゲームの原点の一つであり、対戦格闘ゲームの様式が固まる前の、過渡期のアクションゲームだからです。ベルトフロアアクションと1対1の格闘要素を融合させた独自のゲーム性は、他の追随を許さないユニークさを持っています。特に、協力プレイが可能であった点は、後の格闘ゲームが対戦に特化していく中で、貴重な体験を提供していました。理不尽な難易度や荒削りなシステムも含めて、当時のアーケードゲームの熱量と、新しいジャンルを模索する開発者の情熱が詰まった作品として、今なお多くのレトロゲームファンに語り継がれています。
まとめ
SNKが1989年に世に送り出したアーケード版『ストリートスマート』は、後の格闘ゲームブームに先駆けた、挑戦的な格闘アクションゲームです。空手家とプロレスラーによる個性的なバトル、そして2人協力プレイの楽しさが、本作の最大の魅力です。そのシステムは未だ洗練途上にあったものの、SNKが格闘ゲームメーカーとしての地位を確立する上で、非常に重要な役割を果たしました。高い難易度を乗り越えて協力してステージをクリアする達成感は、当時のアーケードゲームならではの醍醐味であり、現代の視点から見ても、歴史的な価値と独特の面白さを持ったタイトルであると言えます。このゲームは、SNKの格闘ゲームへの情熱と歴史を感じさせる、記憶に残る一作です。
©1989 SNK