アーケードゲーム版『ドラゴンボールZ』は、1993年3月にバンプレストから発売された対戦型格闘ゲームです。開発はコブラチームが担当しました。人気アニメ・漫画『ドラゴンボールZ』を題材としており、一般的な格闘ゲームとは一線を画す独自のシステムと、当時としては非常に大きなキャラクターグラフィックが特徴です。操作はレバーとパンチ、キック、必殺技の3ボタンを使用し、原作の迫力ある気の攻防を再現しようと試みられました。孫悟空やベジータ、ピッコロ、トランクスといった人気キャラクターに加え、バータも使用できるなど、登場キャラクターにも特徴がありました。家庭用への移植は実現せず、アーケードでのみ展開されたため、熱心なファンにとっては特別な作品として記憶されています。
開発背景や技術的な挑戦
当時のアーケード市場では、対戦格闘ゲームが一大ムーブメントとなっており、バンプレストは強力なIPである『ドラゴンボールZ』をこの波に乗せるべく本作を開発しました。最大の技術的な挑戦は、原作の迫力を伝えるための巨大なキャラクターグラフィックの実現でした。当時の他の格闘ゲームと比較しても、画面いっぱいにキャラクターが表示されるその迫力は特筆すべき点です。しかし、その代償として、キャラクターの動きはスローになり、一般的な格闘ゲームのセオリーであるスピーディーな連続技はほとんど存在しませんでした。また、必殺技ボタンで飛び道具を撃ち合い、それを弾き返すという原作を意識した気の攻防システムも、独自の技術的アプローチの結果と言えます。ジャンプ操作がないなど、当時のプレイヤーが慣れていた操作体系とは異なる設計となったのは、原作の超人的な戦いを新たな形で表現しようとした開発チームの意図が反映された結果でしょう。
プレイ体験
本作のプレイ体験は、非常に独特です。レバーを上に入れてもキャラクターは地面を離れず、代わりにフワフワと浮遊するような動きになります。これは、一般的な格闘ゲームのジャンプとは全く異なる操作感でした。戦闘は主に、パンチやキックといった通常技と、必殺技ボタンによる遠距離からの気の弾の撃ち合いが中心となります。気の弾は必殺技ボタンを押すことで跳ね返すことができ、原作で見られた迫力ある攻防を体験できます。相手の体力が尽きた後、カメラがキャラクターの背後に回り込み、トドメの必殺技を放つ演出は、プレイヤーに強烈な達成感と原作さながらの臨場感を与えました。しかし、連続技の概念がほとんどなく、ゲーム展開が緩やかであったため、スピーディな対戦を好むプレイヤーにとっては、少々単調に感じられる側面もありました。
初期の評価と現在の再評価
本作は、リリース当初、その独特すぎるゲームシステムにより、評価が大きく分かれました。原作ファンからは巨大なキャラクターや必殺技演出が高く評価された一方で、格闘ゲームとして見た場合、動きの遅さやコンボの不在が、当時の主流であった対戦ゲームとしての完成度を求めるプレイヤーからは厳しい意見を受けました。特に、スローな動きは『ドラゴンボールZ』のアクションが持つ本来のスピード感と乖離していると指摘されることもありました。しかし、現在では、家庭用への移植が一度もなかった希少性と、当時の格闘ゲームブームの中で異端な存在であったという点が、レトロゲーム愛好家や一部の熱心なファンによって再評価されています。この作品ならではの大味で迫力のある体験は、他の『ドラゴンボール』格闘ゲームでは味わえない独特の魅力として認識されつつあります。
他ジャンル・文化への影響
本作は、そのユニークなゲーム性ゆえに、他の格闘ゲームジャンルや文化に直接的なシステムの影響を与えた例は少ないと言えます。しかし、本作が持つキャラクターの巨大な表現とトドメ演出は、当時のプレイヤーに強烈なインパクトを残し、後の『ドラゴンボール』関連ゲーム開発において、原作の迫力をいかに表現するかという課題に対する一つの回答例を提示しました。また、本作は『ドラゴンボール』という人気IPが、多種多様なゲームジャンルで展開される可能性を示した作品の一つです。格闘ゲームでありながら、従来のルールに囚われないアプローチを試みたことは、IPゲームの多様化という文化的な流れの中で、一つの試金石としての役割を果たしたと言えるでしょう。
リメイクでの進化
アーケード版『ドラゴンボールZ』は、現時点で公式なリメイクや、そのゲームシステムを直接的に踏襲した新作は発表されていません。そのため、本作自体がリメイクによってどのような進化を遂げるのかを具体的に語ることはできません。しかし、本作の後に登場した『ドラゴンボールZ』を題材とした格闘ゲームは、目覚ましい進化を遂げています。例えば、続編である『ドラゴンボールZ2 Super Battle』では、キャラクターサイズは小さくなったものの、格闘ゲームとしての操作性やスピード感が大幅に向上しました。さらに後の家庭用やアーケードの作品群では、高速な空中戦や多彩なコンボ、そして原作さながらの美麗なグラフィックと演出が実現しており、これらは本作が追求しようとしていた原作の迫力を、現代の技術と洗練されたゲームデザインによって高度に達成した結果であると言えます。
特別な存在である理由
このアーケードゲーム版『ドラゴンボールZ』が特別な存在である理由は、その異端なゲームデザインと家庭用への非移植という点に集約されます。全盛期を迎えていた『ドラゴンボールZ』という強力なコンテンツを使いながらも、当時の格闘ゲームのトレンドとは真逆の、スローで大味なシステムを採用した異色作であり、そのチャレンジ精神自体が特異です。そして、何よりもこのゲームをプレイする機会がアーケード限定であったという事実が、その存在価値を高めています。現存する筐体も少なく、熱心なプレイヤーにとっては幻の作品に近い扱いであり、当時のゲームセンターの熱狂を伝える貴重な文化遺産として、ファンの中で特別な位置を占めているのです。
まとめ
アーケードゲーム版『ドラゴンボールZ』は、1993年に登場した、当時の格闘ゲームの常識を覆すような異色の作品でした。巨大なキャラクターと、気弾の応酬やトドメの必殺技といった原作再現の試みは、一部のプレイヤーに強烈な印象を与えました。その独特なゲーム性ゆえに、主流とはならなかったものの、家庭用移植されなかったという背景も相まって、現在ではレトロゲーム界隈で独自の存在感を示す作品となっています。本作は、後の『ドラゴンボール』ゲームが追求する迫力とスピード感のルーツを探る上で、避けて通ることのできない、貴重な実験作であったと言えるでしょう。
©1993 バンプレスト

