アーケード版『サムライスピリッツ 零』は、2003年10月にSNKプレイモアの許諾を受け、悠紀エンタープライズが開発した対戦型2D格闘ゲームです。NEOGEOのMulti Video System(MVS)基板で稼働し、シリーズ通算第7作(2D作品では第5作)として登場しました。タイトルは当初「ゼロ」と表記されていましたが、まもなく漢字の「零」に変更されました。欧米では『Samurai Shodown V』としてリリースされています。シリーズの時系列では初代の前日譚に位置し、過去作では明かされていなかった覇王丸と橘右京との出会いが描かれます。暗くシリアスなストーリー展開と新システム「剣気ゲージ」「無の境地」による一撃の重みを追求したゲームデザインが、本作の大きな特徴です。
開発背景や技術的な挑戦
本作は、SNK破産後に再編されたSNKプレイモア体制下で、開発経験の少ない悠紀エンタープライズが担いました。悠紀はそれまでシミュレーションや簡易ゲーム制作を中心としており、格闘ゲーム開発は本作が初めてでした。その結果、シリーズ初期作の雰囲気に立ち返る意図から、連斬システムを廃止し、「剣気ゲージ」を導入して一撃重視のテンポを意識した設計になっています。また、キャラの技性能統合や旧作グラフィックやBGMの活用も目立ち、開発効率を高める工夫が見られました。タイトル表記も「ゼロ」から「零」に変更され、世界観の重厚さを強調しています。さらに、シリーズ初期の世界観にアプローチしつつ、新キャラのデザインには『るろうに剣心』の和月伸宏氏や『トライガン』の内藤泰弘氏が携わるなど、豪華な布陣が特徴です。
プレイ体験
入力方式はA=弱斬り、B=中斬り、AB=強斬り、C=蹴り、D=特殊動作という構成です。『天草降臨』をベースにしつつ、回避動作を復活させたことで、攻防の駆け引きが深化しました。また「避け」「回り込み」は廃止され、←+D(下段避け)、→+D(飛び込み)、斜め+Dで前転/後転/伏せといった多彩な動きが可能です。連斬廃止により、一撃の重みをさらに強調し、テンポ重視の攻防が生まれました。防御崩しも仕様が変更され硬直時間が長くなり、キャンセル可能な崩し斬り以外の追撃は極めて限定的になりました。これにより戦略性が増し、より熟練した操作や読みが要求される設計となっています。
初期の評価と現在の再評価
ローンチ当初は、この急進的なシステム変更に対して賛否が分かれました。一撃重視のスタイルやバランス面での懸念が挙がったものの、その後登場したバージョンアップ版『零SPECIAL』や、その増補版『零SPECIAL完全版』でシステム調整や演出強化が行われ、多くのプレイヤーやファンから再評価されるようになりました。特に「零SPECIAL」はNEOGEO最後の公式アーケード作品となった点も語り草です。
他ジャンル・文化への影響
本作の和風かつ重厚な世界観や新キャラのデザインは、漫画やアニメ作品にも影響を与えました。特に、新キャラのビジュアルや性格設定はファンコミュニティでも高く評価され、シリーズ全体のさらなる注目を集める要因となりました。
リメイクでの進化
2022年には、『零SPECIAL完全版』がアーケード向け最新基板「exA-Arcadia」で稼働されました。新たなストーリーやエンディング、演出も追加され、現代の技術で蘇ったアーケード体験として話題を呼びました。オリジナル版からの忠実な再現と新要素の融合により、かつてのプレイヤーと新規ファン双方に訴求する内容となっています。
特別な存在である理由
シリーズとして7年ぶりの2Dアーケード復活作であり、原点回帰を志向しつつも革新的なシステムを導入した点、そして新旧キャラの統合や豪華なクリエイターチームによるデザインにより、『零』はシリーズの中でも異彩を放つ作品です。また、『零SPECIAL』がNEOGEOの最終公式アーケード作品となった点や、後続タイトルや再リリースへの橋渡しとなった点も、その特別性を物語っています。
まとめ
アーケード版『サムライスピリッツ 零』は、シリーズ再起動の象徴とも言える作品であり、開発体制の変化や著名クリエイターデザインの導入を通じて、シリーズ本来の「一撃の重み」を取り戻しつつ、現代的な調整も加えられた意欲作です。特定のシステム変更は議論を呼びましたが、その後のバージョンアップで高評価を獲得し、NEOGEO最後の公式アーケード作品として長く記憶に残る存在となりました。原点回帰と革新の融合が、今なお多くの格闘ゲームファンを魅了しています。
©2003 SNKプレイモア