プレイチョイス10版『VSアーバンチャンピオン』は、1984年に発売されたアーケード用対戦アクションゲームです。本作は、ファミリーコンピュータで人気を博した『アーバンチャンピオン』を、アーケード向けの「任天堂VS.システム」用に調整・移植した作品です。街の不良同士が拳を交え、相手を画面端のマンホールへ叩き落とすというシンプルかつ刺激的な内容が特徴です。プレイヤーは、強パンチと弱パンチ、そして上下のガードを使い分けながら、緊張感あふれるストリートファイトを繰り広げることになります。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発は、家庭用として設計されたシンプルな駆け引きを、いかにアーケードの対戦環境に最適化させるかという点が焦点となりました。当時のアーケード市場は対戦格闘ゲームの黎明期にあり、本作はその先駆け的な存在の一つと言えます。技術的な挑戦としては、キャラクターの滑らかなアニメーションと、攻撃がヒットした際の小気味よいノックバックの挙動を、限られた基板スペックで実現することが挙げられます。特に「VS.システム」の特性を活かし、2つの画面を向かい合わせにして対戦する筐体構成において、ラグのないリアルタイムな攻防を成立させるための入力レスポンスの最適化が図られました。また、背景に登場する住人が植木鉢を落としてくるギミックや、警察車両が通りかかる演出など、ステージを単なる背景に留めない動的な要素も当時の技術で工夫して盛り込まれています。
プレイ体験
プレイヤーは、左右の移動と、上段・下段へのパンチ、そしてガードを駆使して戦います。攻撃には威力があるが隙の大きい強パンチと、素早い弱パンチの2種類があり、これらを相手のガード状況に合わせて使い分ける直感的な操作が求められます。スタミナの概念が存在し、攻撃を出しすぎると動きが鈍くなるため、がむしゃらに攻めるだけでは勝てない戦略的な面白さがあります。画面端まで相手を追い詰め、最終的にマンホールへ突き落とす瞬間の達成感は本作ならではの醍醐味です。さらに、建物の窓から落とされる植木鉢を避けつつ戦うランダム性や、パトカーが到着した際に素知らぬ顔で離れるコミカルな演出が、ストリートファイトの荒々しさの中に独特のユーモアを加えています。
初期の評価と現在の再評価
発売当時のアーケードシーンにおいて、本作は純粋な反射神経だけでなく、読み合いを重視した対戦ツールとして評価されました。派手な必殺技こそありませんが、間合いの取り方やガードの揺さぶりといった、格闘ゲームの基礎となる要素が凝縮されている点が支持されました。現在では、対戦格闘ゲームというジャンルが確立される前の貴重な歴史的資料として再評価されています。無駄を削ぎ落としたゲームデザインは、今遊んでも「対戦相手との心理戦」という格闘ゲームの本質的な楽しさをダイレクトに伝えてくれます。レトロゲームファンの間では、そのシュールな世界観と独特の操作感覚が語り草となっており、シンプルながらも熱くなれる一本として認知されています。
他ジャンル・文化への影響
本作が提示した「上下段のガードと攻撃の使い分け」という概念は、後の対戦格闘ゲームにおける防御システムの基礎を築いた要素の一つと言えます。ストリートファイトというテーマをビデオゲームに落とし込んだ初期の例としても重要です。また、キャラクター同士が至近距離で睨み合い、拳で語り合うというスタイルは、後に続く数多くの格闘ゲーム作品に影響を与えました。文化的な側面では、1980年代の都会の路地裏をイメージしたドット絵のビジュアルや、警察を避けるといったコミカルな描写が、当時のアーケードゲームが持っていた自由で少しアウトローな雰囲気を感じさせます。これらの要素は、後のアクションゲームにおけるステージ演出の定番となっていくものも少なくありません。
リメイクでの進化
本作はアーケード版の稼働後、オリジナルであるファミリーコンピュータ版と並行して、さまざまな形で復刻されてきました。ゲームボーイアドバンスの「ファミコンミニ」シリーズや、Wii、Wii U、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールなどで移植が行われ、世代を超えて親しまれています。特にニンテンドー3DS向けに制作された『3Dクラシックス アーバンチャンピオン』では、グラフィックが立体視に対応し、奥行きのある街並みの中で戦うという新しい視覚体験が提供されました。また、Nintendo Switchの「アーケードアーカイブス」版では、アーケードならではの細かな設定変更やオンラインランキングへの対応がなされており、当時の対戦の熱狂を現代の環境で再現することが可能になっています。
特別な存在である理由
『VSアーバンチャンピオン』が特別な存在である理由は、それが任天堂による「対戦」への初期の回答の一つだからです。派手な魔法や超人的な技を使わず、あくまで拳一つのやり取りにこだわったストレートなゲーム性は、遊びの本質を追求する任天堂の姿勢を象徴しています。また、マンホールに落ちるというユーモラスな結末で戦いを締めくくるスタイルは、暴力的になりがちな対戦ゲームにどこか憎めない愛嬌を付与しています。シンプルすぎて底が浅いと評されることもありますが、そのシンプルさゆえに、プレイヤー同士の純粋な「読み」の勝負が浮き彫りになる点は、他の複雑なゲームにはない孤高の魅力と言えます。
まとめ
アーケード版『VSアーバンチャンピオン』は、格闘ゲームの夜明け前に生まれた、シンプルながらも奥深い対戦アクションの傑作です。パンチとガードの応酬、そして街の住人や警察といった周囲の状況を読み解く力が必要とされる本作は、対戦プレイの本質的な喜びを教えてくれます。マンホールへ相手を突き落とすという明確な勝利条件と、それを阻む緊張感あふれる駆け引きは、今なお色あせない魅力を放っています。レトロゲームの歴史に触れる上でも、そして対戦ゲームの原点を体感する上でも、本作は欠かすことのできない重要な存在であり続けています。
©1984 Nintendo