アーケード版『ドリブリング』11人制サッカーゲームの夜明け

アーケード版『ドリブリング』は、1981年にModel Racing社が開発し、タイトーから販売されたアーケードゲームです。本作は、当時のビデオゲームとしては珍しいサッカーをテーマとした作品であり、トップダウン視点(俯瞰視点)でフィールド全体を見渡しながら、11人対11人のサッカーをシンプルながらもスリリングに再現したことが最大の特徴です。プレイヤーはフィールド上の特定の選手を操作し、ボールをドリブルしてゴールを目指します。このゲームの登場は、スポーツゲームというジャンルが黎明期にあったアーケード市場において、後の多くの作品に影響を与える先駆けとなりました。

開発背景や技術的な挑戦

『ドリブリング』がリリースされた1981年当時、アーケードゲームの主流は『パックマン』や『スペースインベーダー』に代表されるアクションゲームやシューティングゲームであり、スポーツを本格的に扱った作品はまだ多くありませんでした。特に、11人対11人のサッカーという、多人数のキャラクターが広大なフィールドを動き回るゲームデザインは、当時のハードウェアにとって大きな技術的な挑戦でした。限られたメモリと処理能力の中で、スムーズな多数キャラクターの動きと、ボールの物理的な挙動をそれらしく再現する必要がありました。また、フィールド全体を画面に収めるために採用されたトップダウン視点は、後のスポーツゲームの標準となる視点の一つを確立する上でも重要な意味を持っています。この視点により、プレイヤーは戦略的な状況判断を行いやすくなり、単なるアクション操作を超えたゲームプレイの深さが生まれています。

プレイ体験

本作のプレイ体験は、シンプルな操作性の中に奥深い駆け引きが凝縮されている点にあります。操作はレバーとボタンで行われ、レバーで選手の移動、ボタンでシュートやパス、またはタックル(スライディング)を行います。プレイヤーは画面上の自チームの一人の選手を操作しますが、ボールを持っている選手に近い選手が自動的に操作対象となる仕組みです。このため、ボールの動きに合わせて操作対象が切り替わる独特の感覚があり、常に状況を把握し、一瞬の判断で操作を切り替える俊敏さが求められました。特に、ディフェンス側のタックルは成功すればボールを奪えますが、失敗すればファウルとなるスリリングな要素であり、リスクとリターンのバランスを考えたプレイが重要でした。当時のゲームとしては珍しく、オフサイドのようなルールも一部導入されており、より現実のサッカーに近い戦略性を楽しむことができました。

初期の評価と現在の再評価

『ドリブリング』は、リリース当初、その斬新な題材とリアルなサッカーの再現度で一定の評価を得ました。特に、それまでのスポーツゲームが1対1の対戦やテニスなどの単純な構造に留まっていたのに対し、本作はチームスポーツであるサッカーの要素をよく取り入れている点が新鮮に受け止められました。しかし、操作がやや難解であると感じるプレイヤーも少なくなく、爆発的な大ヒットとはなりませんでした。現在の視点から再評価すると、本作は後のスポーツビデオゲーム、特にサッカーゲームの基礎を築いた作品として、非常に重要な位置づけにあります。現在の洗練されたサッカーゲームの原型となる要素が、すでにこのシンプルな作品の中に詰まっていたことが評価されています。当時の技術的な制約の中で、サッカーというスポーツの本質を捉えようとした開発者の情熱が、今なお感じ取れる作品です。

他ジャンル・文化への影響

『ドリブリング』がビデオゲーム史に残した最大の功績の一つは、スポーツゲームというジャンルの可能性を広げたことにあります。本作の成功は、スポーツを題材にしたビデオゲームが、アクションやシューティングとは異なる魅力を持つ独立したジャンルとして成立し得ることを証明しました。特に、トップダウン視点の採用は、その後の多くのサッカーゲームや、アイスホッケー、バスケットボールなどの他のチームスポーツを題材としたゲームデザインに大きな影響を与えました。また、チームスポーツの戦略的な要素とアクション性を融合させたゲームプレイは、後のゲームデザインの潮流にも影響を与えています。文化的な側面では、当時のアーケードセンターに多様なゲームジャンルが存在することを可能にし、幅広い層のプレイヤーにビデオゲームの楽しさを提供する一助となりました。

リメイクでの進化

『ドリブリング』は、そのままの形で現代の家庭用ゲーム機などで大々的にリメイクされた事例は多くありません。これは、その後、より高度なグラフィックと複雑なシステムを持つサッカーゲームが多数登場したため、初代のシンプルなシステムがそのままでは現代の要求を満たしにくかったためと考えられます。しかし、本作が確立したトップダウン視点や、チームスポーツをビデオゲームで再現するというコンセプトは、現代の様々なサッカーゲームの根幹に生きています。例えば、携帯型のゲーム機やカジュアルゲームの中には、本作のようなシンプルな操作性や俯瞰視点を取り入れた作品が見られ、その精神は現代にも受け継がれていると言えます。

特別な存在である理由

『ドリブリング』がビデオゲームの歴史において特別な存在である理由は、それが本格的なサッカーゲームの夜明けを告げた作品だからです。それ以前にもスポーツゲームは存在しましたが、本作はフィールド全体を俯瞰し、11人対11人のチームスポーツとしての要素を、当時の技術的な限界の中で最大限に表現しようと試みました。この挑戦と、後のスポーツゲームの標準となる多くの要素(トップダウン視点、選手切り替えの概念、ファウルの導入など)を確立した先駆者としての功績が、本作を特別な存在にしています。単なる遊びを超え、スポーツの戦略性とアクションの楽しさを両立させたその設計思想は、現代のゲームクリエイターにも通じる普遍的な価値を持っています。

まとめ

アーケード版『ドリブリング』は、1981年にリリースされた、サッカーゲームの歴史を語る上で欠かせない非常に重要な作品です。限られた当時の技術の中で、トップダウン視点とシンプルな操作体系により、チームスポーツとしてのサッカーの楽しさと戦略性をアーケードゲームとして見事に具現化しました。その開発は、当時の技術的な制約に挑むものであり、後のスポーツゲームのジャンル確立に多大な影響を与えました。現代の洗練されたサッカーゲームと比較すればシンプルですが、その核となるゲームプレイの奥深さは色褪せていません。ビデオゲーム史におけるスポーツゲームの起源を探る上で、本作は特別な輝きを放ち続けています。

©1981 Model Racing/タイトー