アーケード版『スーパースピードレースCL5』は、1978年10月にタイトーから発売されたビデオレースゲームです。本作は、日本のビデオゲーム黎明期における金字塔「スピードレース」シリーズのさらなる進化形として登場しました。プレイヤーは、実物さながらのハンドル、HI・LOWの2速シフトレバー、そしてアクセルペダルを備えた大型のアップライト筐体に乗り込み、縦スクロールで展開するコースを猛スピードで駆け抜けます。タイトルに冠された「CL5」が示す通り、前作までの基本システムを継承しつつ、新たな視覚的演出やギミックを盛り込んだデラックスな仕様が特徴です。特に、夜間走行を彷彿とさせるトンネルや橋の導入など、当時の技術の限界に挑んだ臨場感あふれるドライビング体験を提供しました。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発は、シリーズの生みの親であり、後に『スペースインベーダー』を世に送り出す西角友宏氏が手掛けた一連の技術系譜の中にあります。技術的な挑戦としては、限られたドット描画能力の中で、トンネル内でのヘッドライトの照射表現や、二本の橋が架かる立体的なコースレイアウトを擬似的に再現した点が挙げられます。特にトンネルの演出では、ヘッドライトの光が前方を照らす様子を二灯式で表現し、視覚的な変化に富んだプレイ画面を実現しました。また、シフトレバーによるギアチェンジが自車の加速特性に直結する論理設計や、コース上にランダムで出現するペースカーの制御など、ソフトウェアとハードウェアが密接に連携した高度なゲームデザインが追求されました。
プレイ体験
プレイヤーは、まずシフトレバーをLOWに入れ、アクセルを踏み込んで発進します。速度が上がるにつれてHIギアへとシフトアップし、最高速を維持しながら画面上部から次々と現れるライバル車を左右に避けていきます。本作では新たに「ペースカー」が登場し、周回遅れの車を誘導するような動きを見せるため、より緻密なハンドル操作が要求されます。また、路面幅が変化するエリアや、ハンドルを取られるスリップゾーンに加え、視界が変化するトンネルなどのギミックが、単調になりがちな直線コースに緊張感と変化をもたらしました。衝突すると速度がリセットされますが、制限時間内であれば何度でも復帰可能で、一定のスコアを獲得することでプレイ時間が延長されるエクステンド制が、熟練プレイヤーの挑戦意欲を掻き立てました。
初期の評価と現在の再評価
稼働当時は、すでに社会現象となっていた『スペースインベーダー』と並び、タイトーの主力タイトルとしてゲームセンターや喫茶店で圧倒的な稼働率を誇りました。特に、専用筐体による「運転している」という実感と、カラーグラフィックスによる多彩なコース演出は、当時のプレイヤーに強烈なインパクトを与えました。現在では、1980年代以降の体感型レースゲーム黄金時代を切り拓いた、技術進化のミッシングリンクとして極めて高く再評価されています。ビデオゲームにおいて「走行のシチュエーション」をいかに多様化させるかという課題に対し、1978年の段階で一つの完成形を提示した歴史的価値が認められています。
他ジャンル・文化への影響
本作が提示した「特殊な環境(トンネル、橋)での走行」という概念は、後の『モナコGP』や『ポールポジション』といった名作レースゲームのスタンダードな要素として受け継がれました。また、特定の役割を持つ車(ペースカー)を配置し、コース上に物語性を持たせる手法は、後のアクションレースゲームの演出に多大な影響を与えました。文化面では、ビデオゲームが単なる反射神経のテストではなく、特定のシチュエーションを擬似体験する「シミュレーター」としての側面を持ち始めた象徴的な作品となり、日本におけるドライブゲーム文化の定着に大きく寄与しました。
リメイクでの進化
『スーパースピードレースCL5』の直接的な移植は稀ですが、そのゲームデザインのDNAはタイトーが1985年に発売した『スーパースピードレースJr.』などの後継作品へと受け継がれ、信号機や踏切といったより複雑な交通ルールの導入へと進化しました。現代の技術では、本作がドットで表現したヘッドライトの光やトンネルの陰影は、リアルタイムレイトレーシングなどの高度なグラフィック技術へと昇華されています。現在はクラシックゲームのアーカイブや、当時の基板を保存する有志の活動を通じて、黎明期のエンジニアたちが計算し尽くした「光と影の演出」を直接体験することが可能となっています。
特別な存在である理由
本作が特別な存在である理由は、ビデオゲームが「記号」から「風景」へと変化しようとした過渡期の熱量が込められているからです。西角友宏氏という稀代のエンジニアが、ハードウェアの制約を逆手に取り、トンネルや橋といった風景をデジタルで構築しようとした試みは、今日のオープンワールドゲームへと続く「世界を創る」という情熱の原点と言えます。シンプルながらも、プレイヤーを飽きさせないための細やかな演出が随所に散りばめられた本作は、ゲームデザインの本質が「驚きと発見」にあることを今なお私たちに教えてくれます。
まとめ
アーケード版『スーパースピードレースCL5』は、1970年代のビデオゲームシーンにおいて、ドライビングアクションの可能性を極限まで押し広げた傑作です。ハンドルを握り、トンネルを抜け、ライバルを追い抜くという一連の体験は、当時の技術の枠を超えた感動をプレイヤーに与えました。レースゲームというジャンルを洗練させ、後の爆発的な進化のための土台を築いた本作の功績は、ビデオゲーム史において永遠に記憶されるべきものです。黎明期のタイトーが放ったこの輝かしい一作は、今なおレトロゲームの真髄を伝える、かけがえのないマイルストーンです。
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