AC版『エキサイティングアワー』掴みと駆け引きの熱狂

アーケード版『エキサイティングアワー』は、1985年、テクノスジャパンが開発し、タイトーから販売されたプロレスゲームです。プロレスを題材としたゲームの中でも、その後の多くの作品に影響を与えた傑作として知られています。プレイヤーは1人のレスラー「YOU」となり、次々と現れる個性豊かな強敵たちと3分1本勝負のシングルマッチで対戦し、チャンピオンの座を目指します。リング上での攻防だけでなく、場外戦やトップロープからの華麗な技など、実際のプロレスの興奮を当時のアーケードゲームとしてリアルに再現しようとした点が大きな特徴です。

開発背景や技術的な挑戦

本作の開発元であるテクノスジャパンは、その数年前にプロレスゲームをリリースした経験があり、その知見を活かして本作の制作に挑みました。当時のアーケードゲームとしては、プロレスというスポーツのダイナミズムをいかに表現するかが技術的な挑戦の1つでした。特に、キャラクターのグラフィックは、巨大で迫力のあるスプライトを使用し、動きの滑らかさを追求しています。レスラーたちが繰り出す投げ技や関節技といったプロレス特有のアクションを、限られたハードウェアの性能の中で、説得力を持って表現することが求められました。また、ダウン中の相手への攻撃や、コーナーポストに登ってからの大技など、戦略的な要素を盛り込むための操作系や判定の調整にも工夫が見られます。テレビ中継のような画面構成や、対戦相手の紹介シーンなど、試合外の演出にも力を入れることで、単なる格闘ゲームではない、「プロレス番組」を見ているかのような臨場感をプレイヤーに提供しようと試みています。

この時代のゲームとしては珍しく、小技ボタンと大技ボタンの2種類の攻撃ボタンを使い分けることで、状況に応じて多様な技を繰り出す操作性が採用されました。これは、後の対戦格闘ゲームにも通じる、テクニカルなゲームプレイの基盤を築いた技術的な挑戦と言えます。

プレイ体験

プレイヤーは、操作キャラクター「YOU」を8方向レバーと2つのボタンで操作します。小技ボタンは相手を掴む、パンチやキックなどの軽い攻撃、大技ボタンは投げ技や大技の発動に使われます。ゲームの基本的な流れは、相手の体力を削り、ダウンを奪ってからフォール(ピンフォール)で3カウントを奪うか、相手を場外に突き落とし、20カウント以内にリングに戻らせないリングアウト勝ちを狙うことになります。

本作のプレイ体験は、単調なボタン連打ではなく、相手の動きを読み、適切なタイミングで技を仕掛ける戦略的な要素が重視されています。特に、相手を掴んだ後の攻防や、相手がダウンした後にコーナーポストに登ってダイビング技を繰り出す瞬間などは、実際のプロレスの興奮を彷彿とさせます。対戦相手はそれぞれ異なる個性と得意技を持っており、プレイヤーは相手に応じて戦術を変える必要があります。例えば、巨体のレスラーには投げ技が効きにくい、スピードタイプのレスラーにはカウンターを狙うなど、レスラーごとの特性を把握することが勝利への鍵となります。また、3分1本勝負という時間制限も、常に緊張感のあるプレイを生み出しています。制限時間内に決着をつけなければ引き分けとなりゲームオーバーとなるため、積極的な攻撃が求められます。

初期の評価と現在の再評価

アーケード版『エキサイティングアワー』は、稼働開始当初、プロレスという人気ジャンルを本格的にゲーム化した作品として、ゲームセンターで高い注目を集めました。そのリアルなキャラクター表現と、当時のゲームとしては奥深い操作性が評価され、多くのプレイヤーを熱狂させました。特に、プロレスファンからは、試合の臨場感や多彩な技の再現度が好意的に受け止められました。

現在では、本作はアーケードゲーム史、特にプロレスゲームの歴史を語る上で欠かせない作品として再評価されています。後のプロレスゲームの原型とも言えるシステムを確立し、プロレスゲームにおける「掴み合いからの攻防」という重要な要素を高い完成度で実現した点が特筆されます。また、敵キャラクターのデザインやネーミングも個性的で、単なる対戦相手としてだけでなく、魅力的なゲームキャラクターとして記憶されています。アーケードアーカイブスなどの形で移植されることで、新たな世代のプレイヤーにもその名作ぶりが伝えられ、そのレトロなグラフィックとシンプルながらも奥深いゲーム性が、新鮮な魅力として再認識されています。

他ジャンル・文化への影響

『エキサイティングアワー』は、その後のビデオゲーム、特に格闘ゲームやプロレスゲームのジャンルに大きな影響を与えました。プロレスの「掴み」をアクションの中心に据え、単なる打撃の応酬ではない、駆け引きを重視したゲームデザインは、後続のプロレスゲームの基本構造を確立しました。同じ開発元であるテクノスジャパンが後に生み出す『熱血硬派くにおくん』や『ダブルドラゴン』といった、格闘アクションゲームにも、本作で培われたキャラクター表現やアクションのノウハウが活かされていると考えられます。

また、本作に登場する個性的な対戦相手のキャラクターたちは、その後のゲームやアニメ、漫画などのサブカルチャーにおける「プロレスラー」のステレオタイプ、あるいはオマージュの元として影響を与えた可能性があります。大柄でペイントを施したレスラーや、巨大なキャラクターなど、ゲーム的な誇張を含んだデザインは、多くの人々の記憶に残り、プロレスという文化をより身近なものにする一助となりました。その熱狂的なBGMも、ゲーム音楽の歴史において重要な位置を占めています。

リメイクでの進化

アーケード版『エキサイティングアワー』は、特定のプラットフォームでの完全なグラフィックやシステムを一新した大規模なリメイク作品は存在しませんが、発売から長い年月を経て、アーケードアーカイブス(アケアカ)シリーズとして現行のゲーム機に移植・復刻されています。

この復刻版では、当時のアーケード版のゲーム内容を忠実に再現することを最優先としつつ、いくつかの進化が見られます。具体的には、ゲームの難易度や各種設定を自由に変更できる機能、当時のブラウン管テレビの表示を再現するフィルター機能などが追加されています。また、オンラインランキング機能が搭載され、世界中のプレイヤーとスコアを競い合うことが可能になりました。さらに、海外版も同時に収録されるなど、オリジナル版を深く掘り下げて楽しむための要素が加えられています。これらの復刻版は、単なる移植ではなく、当時の体験を保ちながらも現代のゲーム環境に合わせた機能を提供することで、オリジナル版の魅力を「進化」させていると言えます。

特別な存在である理由

『エキサイティングアワー』が特別な存在である理由は、当時のプロレスブームの中で、その熱狂をアーケードゲームとして高い完成度で表現しきった点にあります。このゲームは、単にキャラクターを殴り合う格闘ゲームとしてではなく、プロレス特有の「ドラマ」や「駆け引き」をプレイヤーに体感させました。リング上での技の応酬、場外でのカウントとの戦い、そして何よりも、個性豊かなライバルたちとのタイトルマッチという、ストーリー性のある目標設定が、プレイヤーを惹きつけました。

また、本作は後のプロレスゲームの基礎を築いたエポックメイキングな作品であり、その操作性やゲームデザインの多くが、後続のプロレスゲームに受け継がれています。開発元であるテクノスジャパンのゲームデザインの哲学が色濃く反映された、記念碑的な作品でもあります。当時の技術的な制約の中で、これほどまでにプロレスの魅力を凝縮したゲームは稀であり、そのレガシーは今なお多くのゲームファンに語り継がれています。

まとめ 

アーケード版『エキサイティングアワー』は、1985年に登場したプロレスゲームの金字塔であり、その後の同ジャンルのゲームに多大な影響を与えた名作です。迫力あるグラフィックと、掴み技を主体とした戦略的なゲームプレイは、当時のプレイヤーにプロレスの熱狂と興奮をそのまま伝達しました。開発背景には、プロレスというダイナミックな題材をいかにゲームで表現するかという技術的な挑戦があり、それが独自の操作性とシステムとして結実しています。現在においても、復刻版を通じてそのシンプルながら奥深い魅力が再認識されており、ビデオゲーム史において特別な輝きを放ち続けています。レトロゲームファンはもちろん、プロレスファンにとっても、そのルーツとして体験する価値のある作品です。

©1985 テクノスジャパン