アーケード版『べんべろべえ』は、1984年12月にタイトーから発売された固定画面クリア型のアクションゲームです。本作は、主人公の「ダミちゃん」を操作し、燃え盛るビルに取り残されたヒロイン「ナオちゃん」を救出することが目的です。プレイヤーは消火液を噴射する消防士のような役割を担い、炎を消しながら様々なトラップや敵キャラクターを避け、出口を目指します。ゲームは1ラウンド3ステージのループ構成となっており、エレベーターアクションの敵や『チャックン・ポップ』のチャックンなど、当時のタイトー作品のキャラクターがカメオ出演しているのも特徴の一つです。ユニークな設定とシンプルな操作性ながら、独特のゲーム性が光る作品として知られています。
開発背景や技術的な挑戦
アーケードゲームが隆盛を極めていた1980年代において、タイトーは革新的なアイデアを盛り込んだ作品を次々とリリースしていました。『べんべろべえ』もその流れの中で誕生した作品で、「火災からの救出」という現実的なテーマと、コミカルなアクションゲームの融合が試みられました。技術的な面では、当時のアーケード基板の性能を活かし、ステージを構成するブロックや炎のアニメーションを滑らかに表現しています。特に、主人公がホースから消火液を噴射し、その液体が炎を消すという一連の処理は、プレイヤーに直感的な爽快感を与えるための工夫がなされていました。また、サウンド面では後にZUNTATAとして活躍する小倉久佳氏(OGR)が音楽を担当しており、ユニークで耳に残るBGMがゲームのシュールな世界観を構築する上で大きな役割を果たしています。
プレイ体験
プレイヤーはダミちゃんを操作し、火災現場となるステージを動き回ります。基本操作は左右移動、ジャンプ、そして消火液の噴射ボタンの三つです。固定画面の中、炎は時間と共に広がり、プレイヤーの行く手を阻みます。炎を消すためには消火液が必要ですが、液は有限ではなく常に噴射することが可能です。しかし、炎に触れるとミスになるため、炎の広がり方を予測しつつ、効率的に消火を進める戦略性が求められます。また、炎を消す以外にも、ビルを移動するためのエレベーターを動かしたり、敵キャラクターの妨害を避けたりといったアクション要素が複合的に絡み合います。ステージ構成は複雑で、高難易度になるにつれて、一瞬の判断ミスが命取りになる緊張感のあるプレイ体験が提供されます。
初期の評価と現在の再評価
『べんべろべえ』は、そのタイトルやビジュアルのユニークさから、発売当初から一部のゲームファンに注目されました。しかし、当時のアーケード市場には多くの大作がひしめき合っており、爆発的なヒット作とはならなかった側面もあります。一方で、その独創的なゲームシステムと、タイトー作品のキャラクターたちが共演するお祭り的な要素は、通好みの作品として高く評価されました。現在の再評価としては、レトロゲームの復刻ブームに伴い、そのユニークなゲーム性が再認識されています。特に、アーケードアーカイブスなどでの移植を通じて、当時のゲームバランスの妙や、緻密に設計されたレベルデザインが改めて評価され、シンプルながら奥深いアクションゲームとして再注目されています。
他ジャンル・文化への影響
『べんべろべえ』は、そのゲームシステム自体が他のゲームジャンルに直接的な大きな影響を与えたというよりは、タイトーというメーカーの持つユニークで遊び心のある開発文化を象徴する作品として、後続のクリエイターやファンに影響を与えました。特に、同社の他作品のキャラクターをゲスト出演させるという手法は、後のゲームにおける「スターシステム」や「クロスオーバー」の先駆けの一つと見なすこともできます。また、火災現場を舞台とした救助アクションという設定のユニークさが、後のゲームデザインにおけるテーマの多様性を広げる一例となったと言えます。小倉久佳氏による独特の音楽は、ゲームミュージックという文化の中で、その後のZUNTATAサウンドの原点の一つとして語られることもあり、音文化への間接的な影響も無視できません。
リメイクでの進化
『べんべろべえ』は、オリジナルのアーケード版そのままの形での移植はいくつかありますが、システムを一新した大規模なリメイク作品は現在のところ確認されていません。しかし、PlayStation 4やNintendo Switch向けに「アーケードアーカイブス」シリーズの一作品として配信されており、現行機でオリジナルの魅力をそのまま体験できるようになっています。これらの移植版では、当時のゲーム画面を再現するだけでなく、ハイスコアを競うオンラインランキング機能の追加や、難易度設定の調整機能など、現代のプレイヤーが遊びやすいような細やかな配慮がなされています。純粋なリメイクという形ではなくとも、最新の技術によって当時のゲームを「保存」し、多くの人に「再体験」させるという進化を遂げています。
特別な存在である理由
このゲームが特別な存在である理由は、その独創的な世界観と、タイトーのキャラクターたちが垣根を越えて共演するというお祭り感にあります。「火を消す」というアクションに特化しつつ、固定画面アクションとしての緊張感と、パズル的な要素を巧みに融合させたゲームデザインは、他の追随を許さないユニークさを持っています。また、ゲーム音楽の分野で伝説的な存在となる小倉久佳氏が手掛けたサウンドトラックは、今聴いても色褪せることのない魅力を放っています。商業的な成功を超え、一部の熱狂的なファンにとっては、当時のタイトーの自由な発想やクリエイティビティを象徴する、まさに「異色の傑作」として愛され続けていることが、特別な存在である最大の理由と言えます。
まとめ
アーケード版『べんべろべえ』は、1984年にタイトーから発売された、火災現場からの救出をテーマにした固定画面アクションゲームです。主人公ダミちゃんが消火液を駆使して炎を消し、トラップを乗り越えてナオちゃんを救出するという、シンプルながらも奥深いゲーム性を持っています。小倉久佳氏による音楽も作品の魅力を高めています。リメイクはされていませんが、アーケードアーカイブスを通じて、そのユニークなゲームデザインが現代に受け継がれ、再評価されています。当時のゲーム文化におけるタイトーの実験的な精神を体現した作品であり、今なお多くのプレイヤーに独自の輝きを放つ傑作として記憶されています。
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