アーケード版『コブラコマンド』は、1988年9月にデータイーストからリリースされた横スクロールタイプのシューティングゲームです。プレイヤーは最新鋭の戦闘ヘリコプターを操縦し、国際的な武装テロ組織「ビッグバレィ」によって世界各地で拘束された捕虜たちを救出するというミッションに挑みます。本作は、対地・対空の敵を機関銃とミサイルで破壊しながら進む、ハードなミリタリーアクションが特徴で、背景の色使いが緑や土色など、全体的に暗く渋いトーンで統一されている点が、当時のデータイーストらしい無骨で泥臭い雰囲気を醸し出しています。
開発背景や技術的な挑戦
本作のタイトルは、1984年のレーザーディスクゲーム『サンダーストーム』の海外版タイトルと同じですが、1988年版の『コブラコマンド』はLDゲームのような動画再生ではなく、当時の進化したゲーム基板の表現力を活かした2D横スクロールシューティングとして開発されました。これは、より複雑なスプライト処理と滑らかなスクロールを実現するという技術的な挑戦の成果と言えます。開発チームには、後の名作アクションゲームを手掛けることになるスタッフが関与していたという説もあり、当時のデータイーストが持つ独自の開発文化の中で、後の才能が育まれていた背景があります。
また、敵組織の「ビッグバレィ」は、データイーストの他の作品にも登場しており、開発陣が作品間で世界観や要素を共有し、独自のデコイズム(データイーストらしさ)を構築しようとしていた意図が見て取れます。これは、技術的な進化だけでなく、ゲームの世界観を広げようとするクリエイティブな挑戦でもありました。
プレイ体験
アーケード版『コブラコマンド』のプレイ体験は、プレイヤーにとって一筋縄ではいかない独特なものでした。自機であるヘリコプターの挙動にはクセがあり、特に進行方向へ進む際に、背景のスクロール速度と自機の移動速度のバランスから、機体が重く感じられる視覚効果がありました。この独特な操作性に加え、敵の攻撃が激しく当たり判定も比較的大きいため、全体的な難易度は高めです。しかし、ゲームオーバーになっても一度攻略したステージを任意に選択して再開できる「新・親切設計」のコンティニューシステムが搭載されていました。これにより、プレイヤーは苦手なステージを集中的に練習したり、最終面への挑戦を継続しやすくなったりするなど、高い難易度を乗り越えるための救済措置として機能しました。操作に慣れ、敵の配置や攻撃パターンを把握することで、プレイヤーは着実にステージを進められるようになり、その達成感が本作の魅力となっています。
初期の評価と現在の再評価
本作がリリースされた1988年当時、アーケード市場は数多くの派手な名作シューティングゲームで賑わっており、地味な色使いと独自の操作性を持つ『コブラコマンド』は、一部のメディアやプレイヤーから「荒っぽさが目立つ」「他の作品に比べて地味」といった、控えめな評価を受けることもありました。その硬派な作風は、万人受けする派手さを持っていなかったためです。
しかし、現在のレトロゲームコミュニティでは、その独自の魅力が再評価されています。独特な操作性や、ストイックなミリタリーの世界観は、「デコゲー」特有の渋さやアクとして認識され、コアなファンから根強い支持を得ています。高い難易度を乗り越えること自体を楽しむという、当時のアーケードゲームの醍醐味を凝縮した作品として、その無骨なリアリティこそが、現代において新鮮な魅力として受け入れられています。
他ジャンル・文化への影響
『コブラコマンド』は、戦闘ヘリコプターを題材とした横スクロールシューティングゲームというジャンルにおいて、硬派なミリタリーテイストの作風を確立し、後の同種作品に間接的な影響を与えたと考えられます。多数の敵兵器を相手に孤独な戦いを繰り広げるというコンセプトは、この種の作品の基礎を築く上で重要な要素となりました。
また、本作に登場する悪の組織「ビッグバレィ」がデータイーストの他のゲームにも登場したという事実は、当時の日本のゲーム文化における、メーカー独自のユニバースや世界観を構築しようとする試みの一つとして評価できます。このような作品間の連動要素は、当時のプレイヤーに共通の認識を生み出し、メーカーへの愛着を深めるという文化的な影響力を持ちました。さらに、後にファミコンなどへ移植されたことは、アーケードでしか遊べなかった体験を家庭にもたらし、より広い層にこのゲームの存在を知らしめるという文化的な役割を果たしました。
リメイクでの進化
アーケード版『コブラコマンド』は、現代の技術でグラフィックやシステムを完全に作り直したリメイク作品は公式には発表されていません。しかし、本作はファミコン版など複数の家庭用ゲーム機に移植されています。これらの移植版は、プラットフォームの性能に合わせてグラフィックやサウンド、ゲームバランスが調整されており、厳密な意味でのリメイクではないものの、プレイヤーに異なる形での体験を提供しました。
例えば、ファミコン版では、捕虜をロープで救出するというアクションが追加されるなど、アーケード版とは異なる独自のゲームバランスと要素が盛り込まれました。これは、単なる再現ではなく、家庭用機向けに遊びやすさを考慮した「進化」と捉えることもできます。また、後に発売されたデータイーストのオムニバス作品などに収録される形で、本作のアーケード版が現代のゲーム機でプレイ可能になる機会も提供されており、当時のゲーム体験をそのまま現代に蘇らせる「アーカイブ」としての役割を果たしています。
特別な存在である理由
『コブラコマンド』がビデオゲームの歴史の中で特別な存在である理由は、その極めて「デコらしい」独自の作風にあります。データイーストは個性豊かでアクの強い作品を数多く手掛けていましたが、本作はその中でも、硬派なミリタリーテーマと、一筋縄ではいかない独特の操作性という両面において、ユニークな立ち位置を占めています。
特に、高い難易度を保ちながらも、プレイヤーにステージセレクトを許容する「新・親切設計」を採用した設計思想は、開発者の「諦めずに挑戦し続けてほしい」というメッセージの表れと解釈できます。この、プレイヤーに歩み寄りながらも、ゲームの本質的な挑戦性を維持するというストイックな姿勢こそが、本作を単なるシューティングゲームではなく、当時のアーケードゲーム文化とデータイーストの企業哲学を体現した、特別な作品たらしめているのです。
まとめ
アーケード版『コブラコマンド』は、1988年にデータイーストが世に送り出した、ハードなミリタリーテイストを持つ横スクロールシューティングゲームです。独自の操作性や、暗く無骨なグラフィックから、リリース当時は評価が分かれることもありましたが、戦闘ヘリを操るという硬派な設定と、プレイヤーの継続的な挑戦を助けるコンティニューシステムが、一部のコアなゲーマーの心を捉えました。地味でありながらも渋い魅力を持つ本作は、データイーストというメーカーの個性が強く表れた一作として、現在もレトロゲームファンから愛され続けています。本作は、当時の技術的な制約と、開発者の熱意が交錯した、日本のアーケードゲーム文化の一断面を示す貴重な作品であると言えるでしょう。
©1988 Data East Corporation