X68000版『あゆみちゃん物語』は、1994年2月にアリスソフトから発売されたシミュレーションアドベンチャーゲームです。オリジナルは1993年9月にPC-98用として発売され、その後FM-TOWNSなどにも展開され、X68000版は1994年2月15日にリリースされています。ジャンルは成人向け(18禁)のシミュレーション要素を含む恋愛/性描写中心のゲームで、「ヤリゲー」「調教ゲーム」の草分けとされる作品です。特徴として、ヒロインとの性的なシーンを中心としつつ、学校生活やデートなど日常パートもあり、プレイヤーの選択によって行動が変化する要素があります。
開発背景や技術的な挑戦
本作は、アリスソフトが運営していたパソコン通信BBS「ALICE-NET」における「あゆみちゃんプロジェクト」としてファン/有志の手で立ち上げられたものがきっかけです。シナリオはこのALICE-NETの参加者が中心で制作され、後にアリスソフトのシナリオライターとなったメンバーも含まれています。
原画は漫画家ラッシャーヴェラクが担当しており、CGはカラーイラストをスキャンしたものという、コストを抑える手法が用いられています。アリスソフトとしては派手な技術的ギミックや機能を盛り込まず、あえてシンプルな構成を選んだ作品という見方があります。
技術的な挑戦という点では、X68000版をはじめ多機種への移植が行われたこと、そして成人向けゲームとしてストーリー展開よりエロス描写に重点を置いた設計思想の選択が、アダルトゲーム市場やニーズに対して実験的側面を持っていたと言えます。なお、マルチプラットフォーム対応の中で、画面解像度や音源形式が機種によって異なっており、X68000版ではその機能や見た目をハードにあわせて調整されていた可能性があります。ただし、機種ごとの仕様差異についての詳細な資料は現存していません。
プレイ体験
プレイヤーは主人公「こういち」として、ヒロイン「河合あゆみ」との日常から関係を深めていきます。学校生活のクラスパート、放課後の体育用具室、帰宅前の時間など、日付を追って1日のパートが構成されており、選択肢やタイミング次第で性的なHシーンが発生します。
また、7日ごとに日曜日となり、あゆみをデートに誘うことが可能になるなど、繰り返しプレイや予定管理の要素も含まれています。
しかし、エンディングは存在せず、ゲームは延々とヒロインとのセッションを重ねる形式であり、目的地に向かって進むという明確な結末を持たない作りです。
初期の評価と現在の再評価
発売当初、本作はその直接的な性描写とシンプルな構成から賛否両論を呼びました。ADVやSLGとしての深みよりも性的体験の反復に重きを置いた設計であったため、複雑なゲーム性を求めるプレイヤーには物足りないと感じられることもありました。
一方で、後年この作品は成人向けゲームジャンル、とりわけ「ヤリゲー」「調教ゲーム」といった、性的体験を中心とする作品群の先駆けとして再評価されています。ヒロインとの性的インタラクションや反復要素を取り入れたゲーム性が、後続の多くの作品に影響を与えたとされています。
他ジャンル・文化への影響
本作は成人向けゲームにおいて、性描写を主目的としながらも選択肢や繰り返しプレイ要素を組み込んだ点で画期的でした。この設計が後の「ヤリゲー」「調教もの」やライフシミュレーション要素を含む作品に影響を与えたと考えられます。
また、ファンが参加する形でのシナリオ制作やプロジェクト立ち上げが、メーカーとプレイヤーコミュニティとの新たな関係を示した点も注目されます。
リメイクでの進化
本作には1995年に「実写版」がリリースされ、映像や写真を用いた表現に挑戦しています。ただし、X68000版については基本的な内容やシステムの大きな改良はなく、機種特有の解像度や音源への最適化が主な違いでした。
特別な存在である理由
あゆみちゃん物語は、成人向けゲームにおける「性的体験中心」という構造を強調しつつ、市場で一定の成功を収めた作品です。エンディングを設けず、反復的な体験を前提とするゲームデザインは当時として斬新であり、その割り切りが後のジャンル拡張につながりました。
さらに、シンプルで低コストな制作体制にもかかわらず市場に強い印象を残した点で、アリスソフトの歴史やアダルトゲーム史において特別な存在となっています。
まとめ
あゆみちゃん物語(X68000版)は、低コストかつシンプルな設計をとりながら、成人向けゲームにおける新しい方向性を示した作品です。結末を持たず、体験そのものを目的とする仕組みが特徴であり、プレイヤーに反復的な楽しみを提供しました。後のアダルトゲームに大きな影響を与えた先駆的な存在として、その位置づけは現在も注目に値します。
©1993 アリスソフト