アーケード版『怒III』は、SNKが開発し1989年1月に稼働を開始したアクションシューティングゲームです。同社の人気シリーズ『怒』の第3作目にあたり、主人公のラルフとクラークが、誘拐された次期大統領の息子を救出するために戦うというストーリーです。前作までの銃撃戦中心のゲームシステムから大きく変更され、パンチやキックを主体とした肉弾戦が可能になった点が最大の特徴です。この変更により、ゲームジャンルとしてはトップビュー型のアクション的な要素も持つことになりました。後に、ファミリーコンピュータに移植されたほか、海外ではコモドール64やPC/AT互換機などにも移植されています。近年では、PlayStation Portable用ソフト『SNKアーケードクラシックスゼロ』やNintendo Switch用ソフト『SNK 40th Anniversary Collection』といったオムニバス作品に収録され、またプレイステーション4とNintendo Switch向けに『アーケードアーカイブス』としても配信されています。音楽は幡谷希久子氏と田中敬一氏が担当されています。
開発背景や技術的な挑戦
『怒III』の開発は、当時のアーケードゲーム市場のトレンドに合わせた大きな方向転換を伴いました。前作『怒号層圏』までのシリーズは、手榴弾とマシンガンを駆使するラン&ガン形式のシューティングゲームでしたが、本作では当時大ヒットしていたテクノスジャパンの『ダブルドラゴン』に代表されるような、肉弾戦を主体としたアクションゲームの要素を取り入れるという挑戦が行われました。これは、ゲームシステムに多様性をもたらし、シリーズに新たな風を吹き込む試みだったと考えられます。しかし、この大幅なシステム変更は、従来のシリーズファンからは戸惑いの声もあり、結果として前2作ほどの大きなヒットには繋がらなかったという背景があります。技術的には、トップビューながらもパンチやキックのアクションをスムーズに表現し、敵との接近戦を成立させるための調整が重要課題となりました。移植されたファミリーコンピュータ版などは、ハードウェアの制約の中でアーケードの体験を再現するために、独自の工夫が凝らされています。
プレイ体験
プレイヤーはラルフ、またはクラークを操作し、ステージを進んでいきます。初期状態では拳銃などの火器は装備しておらず、基本的にはパンチやキックによる肉弾戦で敵を倒していくことになります。肉弾戦では、敵に近づいて攻撃を繰り出し、時には多数の敵に囲まれながらも戦う緊張感があります。道中で火器を拾うと、一時的に銃撃による遠距離攻撃が可能となりますが、弾数には限りがあります。また、本作では前作までの一発即死システムからライフ制に変更されたため、パンチやキックによる攻撃を受けても即座にゲームオーバーにはならず、多少の被弾は許容されるようになりました。しかし、銃撃や手榴弾などの攻撃は即死となるため、常に高い緊張感を保ってプレイする必要があります。肉弾戦の爽快感と、火器使用時の殲滅力を使い分ける戦略性がプレイヤーには求められました。移植版の中には、独自のバランス調整やグラフィックの変更が行われているものもあり、それぞれのプラットフォームで異なるプレイ体験を提供しています。
初期の評価と現在の再評価
『怒III』は、発売当初、それまでのシリーズファンからはゲームシステムの変更について賛否両論の評価を受けました。それまでの『怒』シリーズが持っていた豪快なシューティングゲームとしてのイメージから、肉弾戦主体のゲームへと変化したことは、プレイヤー層を二分する要因となりました。そのため、アーケードゲームとしての初期のヒットは前作までと比較して控えめなものとなりました。しかし、現在では、ファミリーコンピュータ版を始めとする様々なプラットフォームへの移植版がリリースされたり、オムニバス作品に収録されたりしたことで、再評価される機会が増えています。特に、肉弾戦のシステムは、当時のアクションゲームのトレンドを取り入れた意欲的な試みとして、当時の開発者の挑戦的な姿勢を評価する声があります。シリーズの中で異色の存在であるからこそ、そのユニークなゲームデザインが改めて注目されているのです。
他ジャンル・文化への影響
『怒III』自体は、シリーズの他作品ほどの社会現象を巻き起こすほどのヒットには至りませんでしたが、本作の登場によって、主人公であるラルフとクラークのキャラクター性は、SNKのその後の作品に大きな影響を与えました。特に、同社の代表的な対戦格闘ゲーム『ザ・キング・オブ・ファイターズ』(KOF)シリーズにおいて、両名は主要なキャラクターとして登場し、世界中のプレイヤーに知られる存在となりました。『KOF』では、彼らの軍人としての側面や肉弾戦を得意とする設定が活かされ、格闘ゲームのキャラクターとして独自の地位を築いています。これは、『怒III』で試みられた肉弾戦要素が、形を変えて後のSNKの作品文化に深く根付いた証拠と言えるでしょう。また、シリーズ全体で見れば、ラン&ガンというゲームジャンルの確立に貢献した重要なタイトルの一つです。
リメイクでの進化
『怒III』のアーケード版をベースとしたフルリメイク作品は、現在までにリリースされていません。しかし、様々なプラットフォームに移植され、またオムニバス作品に収録される形で、多くのプレイヤーがオリジナル版に触れる機会を得ています。例えば、PlayStation Portable用ソフト『SNKアーケードクラシックスゼロ』やNintendo Switch用ソフト『SNK 40th Anniversary Collection』などに収録されており、現代のゲーム環境で当時のアーケード体験を再現することが可能となっています。特に、プレイステーション4とNintendo Switchで配信されている『アーケードアーカイブス』版は、当時のゲームセンターの雰囲気を再現しつつ、オンラインランキング機能など、現代的な要素を付加することで新たな楽しみ方を提案しています。これらの移植や再リリースは、当時のゲームを現代に蘇らせる上での、小さな進化の形と言えるでしょう。
特別な存在である理由
『怒III』が特別な存在である理由は、シリーズにおける大きな転換点となった作品だからです。前2作が確立したゲーム性から大胆に脱却し、当時のトレンドであった肉弾戦アクションを取り入れた意欲作であり、SNKのクリエイティブな挑戦の歴史を物語る作品です。このゲームがなければ、ラルフとクラークが後の『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズで、肉弾戦を得意とするキャラクターとして登場することもなかったかもしれません。ヒット作という観点では前作に及ばなかったものの、後のSNKのゲーム世界に繋がる重要な橋渡し」の役割を果たした点で、非常に価値のある作品です。シリーズの歴史を語る上で、避けて通ることのできない、異彩を放つタイトルと言えます。
まとめ
アーケード版『怒III』は、1989年にSNKから登場したアクションシューティングゲームで、『怒』シリーズの新たな可能性を追求した作品です。従来の銃撃戦から一転、パンチやキックを主体とした肉弾戦を導入するという大胆なシステム変更が施されました。この挑戦的な試みは、当時のゲーム市場の動向を捉えようとする開発側の熱意を感じさせます。発売当初の評価は分かれましたが、ファミリーコンピュータを始めとする多くのプラットフォームに移植され、また主人公であるラルフとクラークは、後のSNKの看板タイトルである『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズに継続して登場し、その存在感を強めています。シリーズの異色作でありながら、SNKの歴史においてキャラクターを後の人気シリーズへと繋ぐ、極めて重要な役割を果たした作品として、今なお多くのプレイヤーに記憶されています。この作品をプレイすることで、当時のSNKのゲーム開発の息吹を感じ取ることができるでしょう。
©1989 SNK CORPORATION
