アーケード版『マッスルボマー』は、1993年7月にカプコンから発売されたアーケード用対戦型格闘ゲームです。正式名称を『マッスルボマー・ボディーエクスプロージョン』といい、プロレスを題材とした独自のシステムが特徴です。本作のキャラクターデザインには、漫画『北斗の拳』で知られる原哲夫氏が起用され、劇画調の濃密なビジュアルが話題を呼びました。開発はカプコンが行い、ジャンルとしては対戦格闘の要素を強く持ったプロレスアクションゲームに分類されます。プレイヤーは個性豊かなレスラーから一人を選択し、プロレス界の頂点を目指して戦います。
開発背景や技術的な挑戦
本作が開発された1993年当時は、同じくカプコンの『ストリートファイターII』が大ヒットし、格闘ゲームブームが最高潮に達していた時期でした。その中でカプコンは、従来の格闘ゲームのフォーマットを流用するのではなく、プロレスというスポーツが持つ様式美をゲームとして再現することに挑戦しました。技術的な側面では、当時の最新基板であるCPシステムIIが採用されています。この基板の性能を活かすことで、原哲夫氏の描く繊細かつ力強いキャラクター造形を、巨大なスプライトと滑らかなアニメーションで動かすことが可能となりました。また、最大4人までの同時プレイを実現するためのシステム設計も行われ、多人数での乱戦を処理するための高い技術力が投入されました。
プレイ体験
プレイヤーは、8方向レバーと攻撃、ジャンプ、フォールの3つのボタンを使用してキャラクターを操作します。通常の格闘ゲームと異なり、相手の体力をゼロにするだけでは勝利にはならず、プロレスのルールに則って3カウントのピンフォールを奪うか、ギブアップをさせる必要があります。このため、体力を削った後の駆け引きが重要となり、リング外での場外乱闘や凶器の使用といった要素も盛り込まれています。各キャラクターには、打撃技や投げ技だけでなく、特定のコマンドで繰り出す必殺技が用意されています。また、ダメージを受けることで発動するラッシュ状態など、一発逆転を狙える独自の駆け引きもプレイヤーに緊張感のある体験を提供しました。
初期の評価と現在の再評価
稼働当時の初期の評価は、格闘ゲーム全盛期においてプロレスというジャンルを扱った意欲作として注目を集めました。原哲夫氏のキャラクター人気もあり、ゲームセンターでは一定の存在感を示しましたが、操作の難易度が比較的高かったことや、純粋な格闘ゲームを求める層との乖離もあり、爆発的なヒットには至りませんでした。しかし、時を経て現在は、プロレスの駆け引きを見事にゲームへ落とし込んだ稀有な作品として再評価が進んでいます。特に多人数プレイでの乱戦の楽しさや、緻密に描かれたドット絵のクオリティ、重厚なサウンドは、レトロゲームファンの間で高く支持されています。現在では、最新のハードウェア向けに配信されているコレクション作品にも収録されており、新しい世代のプレイヤーからも注目されています。
他ジャンル・文化への影響
本作は、格闘ゲームとプロレスゲームの境界線を曖昧にしたことで、後の対戦型アクションゲームに多大な影響を与えました。特にキャラクターの設定においては、カプコンの別作品である『ファイナルファイト』の市長マイク・ハガーが参戦しており、作品の枠を超えた世界観の繋がり、いわゆるシェアード・ユニバースの先駆け的な役割も果たしました。また、原哲夫氏のデザインによる強烈なキャラクター造形は、ゲーム業界以外でも話題となり、漫画やアニメ調のキャラクターをリアルな肉体美として表現する手法の一つの基準となりました。本作のスピリットは、後に続くカプコンのプロレス作品や、他社の多人数対戦アクションゲームの基礎理論として受け継がれています。
リメイクでの進化
本作はアーケードでの稼働後、いくつかの家庭用ゲーム機へ移植されました。初期の移植版では、アーケードの迫力を再現することに主眼が置かれましたが、後のコレクション作品などへの収録に際しては、現代のプレイ環境に合わせた細かな調整が施されています。特に最新のデジタル配信版では、オンライン対戦機能が追加されたことで、かつてのゲームセンターのような熱い対戦を世界中のプレイヤーと楽しむことが可能になりました。また、グラフィックのフィルタリング機能により、当時のブラウン管の質感を再現したり、高精細な設定でドット絵の美しさを際立たせたりすることもできるようになり、オリジナルの魅力を損なうことなく進化を遂げています。
特別な存在である理由
『マッスルボマー』がビデオゲームの歴史の中で特別な存在である理由は、単なる格闘ゲームの派生作品に留まらない、圧倒的な熱量とこだわりにあります。プロレスというエンターテインメントの本質である「魅せる戦い」を、2Dドット絵の技術の粋を集めて表現した点は、他の追随を許しません。また、カプコンのスターキャラクターであるハガーを、プロレスラーという本来の姿で存分に活躍させたことも、ファンにとっては忘れられない要素となっています。ジャンルの流行に安易に乗るのではなく、独自の美学を追求して作り上げられた本作は、発売から数十年が経過した今でも、その個性が色褪せることはありません。
まとめ
カプコンが1993年に世に送り出した『マッスルボマー』は、原哲夫氏の強烈なビジュアルと、プロレスの奥深さを追求したゲームシステムが融合した、唯一無二の対戦アクションゲームです。アーケードという厳しい環境の中で、多人数プレイや複雑な投げ技のシステムに挑戦した本作は、当時の開発者たちの情熱が凝縮されています。格闘ゲームブームの影に隠れがちだった時期もありましたが、その完成度の高さは現在の再評価によって証明されています。プレイヤーに対して、単に勝つだけでなく「プロレスを演じる」という楽しさを提示した本作は、これからも多くのゲームファンに愛され続ける名作といえるでしょう。
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