アーケード版『スーパーハイウェイ』は、1977年にタイトーから発売されたビデオレースゲームです。本作は、当時としては画期的な擬似3D視点(一人称視点に近いドライバーズアイ)を採用したドライブゲームで、1976年にアタリ社が発表した「ナイトドライバー」の流れを汲む、夜間走行をモチーフにしています。プレイヤーは筐体に備え付けられた実物さながらのハンドル、シフトレバー、アクセルペダルを操り、暗闇の中から次々と現れるコース脇の標柱をガイドにしながら、ハイスピードでハイウェイを駆け抜けます。平面的な画面構成が主流だった時代に、奥行きを感じさせる視覚効果を取り入れた本作は、後の体感型レースゲームの礎を築いた重要な一作です。
開発背景や技術的な挑戦
本作の最大の技術的挑戦は、スプライトやポリゴンといった概念が一般化する以前の時代において、いかにして「奥行きのある移動」を表現するかという点にありました。画面中央から左右へと拡大しながら流れていく白い長方形のキャラクターによって道路の境界線(ポール)を表現し、これらが近づく速度を自車のスピードと連動させることで、擬似的な遠近感とスピード感を演出しています。また、ハードウェア的な制約により、夜間という設定にすることで描画オブジェクトを最小限に抑えつつ、プレイヤーに高い没入感を与えることに成功しました。ローギアとハイギアを切り替えるトランスミッションの概念や、速度計の挙動など、メカニカルな要素をビデオゲーム内に論理的に組み込む設計は、当時のエンジニアたちの創意工夫の賜物です。
プレイ体験
プレイヤーは、まずシフトレバーをローギアに入れ、アクセルを踏み込むことからゲームを開始します。スタート時には画面内にフラッグマンが登場し、合図とともに発進するという演出が気分を盛り上げます。時速40kmに達したところでハイギアへシフトアップし、最高時速200kmを目指して加速していきますが、スピードが上がるほどコーナーを曲がりきるのが困難になります。コースアウトしてポールに激突すると、画面全体が激しく点滅するクラッシュ演出とともに大幅なタイムロスとなります。制限時間内に一定の距離を走破することで残り時間が加算されるエクステンド制を採用しており、アクセルワークと繊細なステアリング操作のバランスが、高スコア獲得のための鍵となります。
初期の評価と現在の再評価
稼働当時は、実際の運転に近い操作感覚と、暗闇の中を猛スピードで疾走するスリルが多くのプレイヤーに支持されました。特に、筐体のシートに座り、ハンドルを握るという体験そのものが「非日常」を感じさせるアトラクションとして、ゲームセンターやボウリング場の娯楽コーナーで高い人気を博しました。現在では、レースゲームにおける「3D表現」の黎明期を支えた技術的先駆者として再評価されています。後の「ポールポジション」や「アウトラン」へと続くドライバー視点のドライブゲームの系譜において、本作が提示した「拡大するオブジェクトによる奥行きの表現」は、ゲームデザインの進化を語る上で欠かせないマイルストーンとされています。
他ジャンル・文化への影響
本作が提示した一人称視点のドライビング体験は、後の多くのレースシミュレーターやアクションゲームに多大な影響を与えました。また、夜間走行というシチュエーションは、視覚情報を制限することで恐怖や緊張感を煽る演出として、ホラーゲームや潜入アクションなど他のジャンルにも応用されるアイデアの源流となりました。文化面では、ビデオゲームが単なる「静止した絵の操作」から「空間の中を移動する体験」へと変容するきっかけを作り、現代のVR(仮想現実)へと繋がる、没入型エンターテインメントの原初的な形を大衆に示したと言えるでしょう。
リメイクでの進化
本作そのものの直接的なリメイク作品は少ないですが、タイトーは後に「スピードレース」シリーズなどでこのノウハウをさらに洗練させ、より複雑なコースレイアウトやライバル車との駆け引きを導入していきました。現代の技術では、本作のような擬似3Dはフォトリアルなグラフィックへと進化を遂げましたが、シンプルに「道の端を見極めて駆け抜ける」というミニマリズムな楽しさは、スマートフォンのカジュアルゲームや、レトロスタイルを標榜するインディーゲームの中で今なお生き続けています。デジタルアーカイブプロジェクトなどを通じて、当時の素朴ながらも力強い光の演出を、現代のディスプレイで再現する試みも行われています。
特別な存在である理由
『スーパーハイウェイ』が特別な存在である理由は、ビデオゲームが「奥行き」という次元を獲得しようとした最初期の情熱が刻まれているからです。限られたドットと直線だけで「果てしなく続く道」を表現し、プレイヤーに速度の恐怖と興奮を与えたそのデザインは、テクノロジーと想像力の幸福な結婚を象徴しています。タイトーというメーカーが持つ、常に新しい視点(パースペクティブ)を模索する姿勢が具体化した本作は、ゲームが単なる玩具を超えて、別の世界へ没入するための窓であることを証明した、記念碑的な作品なのです。
まとめ
アーケード版『スーパーハイウェイ』は、1970年代のビデオゲーム黎明期において、夜のドライブというロマンを最新技術で切り拓いた名作です。ハンドルを握り、暗闇を切り裂くように進むそのプレイフィールは、当時の若者たちに未来の遊びを感じさせました。技術的な制約を逆手に取った独創的な演出と、ストイックなまでに純粋なゲーム性は、半世紀近く経った今でもその魅力を失っていません。ビデオゲームが「三次元的な広がり」を目指して歩み始めた第一歩として、本作の功績は永遠に記憶されるべきものです。
©1977 TAITO CORP.
