PlayChoice-10版『Pro Wrestling』は、任天堂から1987年1月に発売されたアーケードゲームです。この作品は、もともとファミリーコンピュータ ディスクシステム用ソフトとして1986年に登場し、その後、北米版NES向けにも移植・展開されました。ゲームジャンルはプロレスゲームであり、当時のハードウェアの制約の中で、可能な限りリアルなプロレスの駆け引きを再現しようと試みた点が特徴です。プレイヤーは個性豊かなレスラーから1人を選び、シングルマッチでの頂点を目指します。グラフィックや操作性はシンプルながらも、後のプロレスゲームの礎を築いた重要なタイトルの一つとして位置づけられています。
開発背景や技術的な挑戦
本作の開発は、増田雅人氏がデザインとプログラミングを担当し、任天堂から発売されました。当時のゲームハードの性能はまだ限られており、プロレスという複雑な格闘技を、いかに少ないスプライト数とメモリ容量で表現するかが大きな挑戦でした。多くのプロレスゲームがシンプルな打撃の応酬になりがちな中で、『Pro Wrestling』は、相手をダウンさせてフォールを狙う、リング外への場外乱闘、そして特徴的なフィニッシュホールドの演出など、プロレスの試合の流れをシステムに組み込むことに注力しました。特に、レスラーごとの必殺技のモーションを限られたドット絵で表現する技術的な工夫は、後のプロレスゲーム開発に大きな影響を与えました。アーケード向けにリリースされたPlayChoice-10版は、オリジナルのNES版/ディスクシステム版のゲーム内容をそのまま提供する形式で、アーケードゲームセンターという環境で家庭用ゲームを遊べるようにするという、当時の新しいビジネスモデルを体現していました。
プレイ体験
プレイヤーは、グレート・プーマ、キンコン・チェン、スターマンなど、それぞれ異なる必殺技を持つ6人の個性的なレスラーの中から1人を選びます。試合は基本的に1対1のシングルマッチで行われます。操作は移動と、組み付き、打撃、投げ技、必殺技の発動などに割り当てられており、組み付きからの駆け引きが勝敗を分ける重要な要素となっています。体力を消耗した相手をフォールし、3カウントを奪えば勝利となりますが、場外でのカウントアウトや反則負けといったプロレスならではの要素も含まれています。特に相手をダウンさせた後に繰り出すフィニッシュホールドは、派手な演出とともに試合のクライマックスを盛り上げます。操作のレスポンスは良好で、シンプルな操作系ながらも奥深い読み合いが生まれ、当時のプレイヤーを熱中させました。
初期の評価と現在の再評価
『Pro Wrestling』は、発売当初、プロレスの魅力を家庭用ゲーム機で本格的に再現した先駆的な作品として、多くのプレイヤーから高い評価を受けました。それまでのプロレスゲームと比較して、技の種類や駆け引きのリアリティが増した点が特に称賛されました。特定のメディアでは、その操作性と奥深さが高く評価され、プロレスゲームの決定版の一つとして認知されました。現在の再評価においては、本作が後続の多くのプロレスゲームに与えた影響の大きさが指摘されます。特に、異なる性能と必殺技を持つレスラーの概念、そしてプロレス特有の試合展開を表現しようとした試みは、プロレスゲームジャンルの基礎を築いた功績として再認識されています。現在のプレイヤーから見るとグラフィックは簡素ですが、ゲームデザインの完成度の高さは今なお色褪せていないと評価されています。
他ジャンル・文化への影響
本作は、プロレスゲームというジャンルを確立しただけでなく、後の対戦型格闘ゲームにも間接的な影響を与えたとされています。異なるキャラクターがそれぞれの固有の技を持つというキャラクター性を重視したゲームデザインは、後の格闘ゲームにおけるキャラクターごとの個性の確立に先鞭をつけました。また、本作のレスラー、特にスターマンは、そのユニークなビジュアルと必殺技のインパクトから、ゲーム文化の中に深く浸透し、多くのプレイヤーの記憶に残るアイコンとなりました。スターマンの存在は、後のプロレスゲームにおけるオリジナルキャラクターの創造に影響を与え、ゲームという枠を超えてプロレス文化とゲーム文化の交流を深めるきっかけの一つにもなったと言えます。
リメイクでの進化
『Pro Wrestling』のNES版は、その後、Wii、ニンテンドー3DS、Wii Uなどのバーチャルコンソールを通じて配信され、現代のプレイヤーも手軽に遊べるようになりました。これらの再リリースは、グラフィックや操作性を根本的に変更するリメイクではありませんが、オリジナル版のゲーム性をそのまま現代に伝える役割を果たしています。また、Nintendo Switch Onlineのファミリーコンピュータ向けサービスでも配信され、オンラインでの対戦が可能になったことは大きな進化と言えます。これにより、当時のプレイヤーの熱狂を再現しつつ、新たなプレイヤー層にもこの名作が持つ奥深さを体験してもらう機会を提供しています。オリジナル版のシンプルながらも完成度の高いゲームデザインは、現代の環境においても十分に通じる普遍的な魅力を持っています。
特別な存在である理由
『Pro Wrestling』が特別な存在である理由は、その完成度の高さとジャンルへの貢献にあります。本作は、それまでのプロレスゲームが単なるボタン連打になりがちだった傾向を打ち破り、組み付きからのコマンド入力による投げ技や必殺技、そして場外乱闘やカウントアウトといったプロレス特有のルールを本格的にシステムに取り入れました。これにより、プレイヤーは単なるアクションゲームとしてではなく、プロレスの試合をシミュレートする楽しさを初めて深く味わうことができました。特に、対戦相手として登場するグレート・プーマやスターマンといったオリジナルレスラーたちの個性は強烈で、彼らが持つ必殺技とともに、ゲームのアイコンとして今なお語り継がれています。プロレスゲームの歴史を語る上で、この作品を避けて通ることはできません。
まとめ
PlayChoice-10版『Pro Wrestling』は、1987年に任天堂からリリースされた、プロレスゲームの金字塔と呼べる作品です。限られたハードウェアの性能の中で、プロレスの醍醐味である駆け引き、個性的なレスラー、そしてフィニッシュホールドの爽快感を高いレベルで実現しました。シンプルな操作性の中に奥深いゲーム性が秘められており、当時のプレイヤーを熱狂させ、後のプロレスゲームのフォーマットを確立する上で決定的な役割を果たしました。特に、レスラーごとの必殺技の存在や、試合展開のリアルさへのこだわりは、今日のゲームにも通じる重要な要素です。本作は、プロレスファンはもちろん、ゲームの歴史に名を刻む名作として、多くのプレイヤーに愛され続けるでしょう。
©1987 任天堂